『カジュアリティーズ』感想とイラスト 戦争におけるサスペンス性

映画『カジュアリティーズ』マイケル・J・フォックスのイラスト(似顔絵)
「赤信号みんなで渡れば怖くない」。それに異を唱えることの難しさ。助けたかったあの娘を結局は見殺しにした無力感。敗北。ああ~けっして他人事ではない「負け犬映画」だ!

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作品情報

『カジュアリティーズ』
Casualties of War

  • 1989年/アメリカ/114分
  • 監督:ブライアン・デ・パルマ
  • 脚本:デヴィッド・レーブ
  • 撮影:スティーヴン・H・ブラム
  • 音楽:エンニオ・モリコーネ
  • 出演:マイケル・J・フォックス/ショーン・ペン/ドン・ハーヴェイ/ジョン・C・ライリー/ジョン・レグイザモ/ツイ・ツウ・リー

参考 カジュアリティーズ – Wikipedia

解説

ベトナム戦争を舞台に、現地の少女を誘拐、強姦、殺害した仲間を告発しようとする陸軍兵士の孤独な闘いを描いた戦争ドラマです。1966年に戦地で実際に起きた事件をもとにしており、エリア・カザンの『突然の訪問者』(1972)もこの事件からインスパイアされたとのこと。

監督は『ファントム・オブ・パラダイス』のブライアン・デ・パルマ。主演は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で乗りに乗っていた頃のマイケル・J・フォックス。共演に『カリートの道』でもデ・パルマとタッグを組んだショーン・ペン。

ほかの共演者には『タンク・ガール』のドン・ハーヴェイ、『キングコング:髑髏島の巨神』のジョン・C・ライリー、『ランド・オブ・ザ・デッド』のジョン・レグイザモなど。

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感想と評価/ネタバレ有

1987年の『アンタッチャブル』によって念願の大ヒットを飛ばしたデ・パルマが、自身初となる戦争映画へと挑戦した意欲作。だったのですが、マイケル・J・フォックスという当時の大スターを迎えながら興業的には惨敗。批評に関しても芳しいものではありませんでした。

オリバー・ストーンの『プラトーン』から続くベトナム戦争ものに乗っかった便乗映画と受け取られた面もあるでしょうし、スケールよりもディテールにこだわる得手不得手、デ・パルマらしからぬ説教臭さもマイナスに働いたと思います。

かくいうボクも初見の印象はあまり良いものではなく、デ・パルマニアでもあまり手放しで称賛できる作品ではなかったのですけど、今回久々に観直してみたらこれが意外と面白かったのですよね。どっぷりデ・パルマへとハマった今だからこそ面白かったのかも。

戦争におけるサスペンス性

何が面白いって、戦争映画だというのに無駄に過剰にサスペンスフルなのですよね。物語としては、ベトナムで過酷な毎日を送っている若き兵士たちが、過度のストレスにより善悪のボーダーラインを喪失していくさまを描いたもので、戦闘そのものが主題ではない。

そんな仲間たちを尻目に、自分だけは人間らしくあろう、倫理的であろうとするマイケル・J・フォックス演じる新兵が直面する孤独な闘い、無力感、そして敗北を描くという、要するにいつもの負け犬映画というわけ。つまりは戦争を舞台としたいつものサスペンス映画。

それは戦闘中にベトコンが掘ったトンネルに腰までハマる、お間抜け主人公の姿でいきなり如実に表れます。彼の間抜けな姿と地下の状況をとらえた断面図のワンショット撮影。トンネル内を匍匐前進しながらフォックスに忍び寄るベトコンと、彼を捜す上官ショーン・ペンとのカットバック。

ここにエンニオ・モリコーネによる緊張感みなぎるスコアがかぶさり、なんともサスペンスフルな救出劇が演出されます。これ以外にも少女誘拐と主人公殺害を画策する一人称視点なども登場し、戦争映画だというのに無駄に無意味で過剰にサスペンスしておるのです。

これを良しとするか悪しとするかはデ・パルマに対するラブラブ度が左右すると思うのですけど、すでにデ・パルマを愛しているボクにしてみればもう鼻血もの。調子に乗った血みどろホラー描写も満載で、野戦病院の地獄絵図なんて悶絶失禁鼻血ショー。

死んだ女に取り憑かれた負け犬

要するに、初めての戦争映画でもやっていることはいつもどおりのデ・パルマ節というわけ。物語の骨子も、『めまい』症候群ともいえる定番の「死んだ女に取り憑かれた男」。『愛のメモリー』『ミッドナイトクロス』『ボディ・ダブル』など、数え上げたらキリがない。

名前も知らない少女。暴走していく仲間たち。助けてあげたい。でも助けられない。自分にはその力がない。勇気を振り絞って立ち上がったところでねじ伏せられるだけ。ただ見ていることしかできない。伸ばした手は届かない。残るのは永遠の後悔のみ……。

定番の「死んだ女に取り憑かれた男」映画だったと同時に、これまたお得意の「負け犬映画」でもあった本作。「自分だったらどうするか?」と考えさせられますよね。望んだ理想を実現できる奴なんていない。ボクはおそらくジョン・レグイザモでしょう。

狂気の上官を演じたショーン・ペンにしたところで、自らすすんで悪を演じているというか、自覚した堕落ともいえる哀れさがここにはあり、これも彼が望んだ理想の姿ではけっしてないでしょう。戦争が生み出した人間のゆがみ。ちょっと説教臭いですけどつまりはそういうことなのです。

ペンの精神が瓦解した瞬間を映す疑似パンフォーカスの不気味さは秀逸でしたよね。右前方のペンと左後方の仲間たちとの対比。彼はすでにこの時点で止められない堕落の坂道を転げ落ちる覚悟を固めているのです。ただヒゲを剃っているだけなのにひたすらスリリングで怖い!

興業・批評ともに惨敗ともいえる敗北を喫した映画ですが、やはりデ・パルマニアには失敗作として切り捨てることができない魅力があるのは確か。この作品に初期のインディーズ感覚を付け足した『リダクテッド 真実の価値』という戦争映画もありますので、気になる方はどうぞお試しあれ。

個人的評価:6/10点

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コメント

  1. らびッと より:

    改めて考えてみたのですが僕がこの作品が好きなのはテーマとなっている部分が自分のパーソナルなことろにとても響いたからだと思います。
    端的に言うと人として正しいと思うことを行うの難しさ、それを一貫して描き切っているところです。
    集団の中では外から見ると明らかに間違っていることがまかり通ってるということがあり自分自身もよく経験することなので。

    • スパイクロッド スパイクロッド より:

      らびッとさん、コメントありがとうございます!

      非常によくわかります。この映画におけるマイケル・J・フォックスの置かれている状況って、我々も日常的にしょっちゅう経験していることなんですよね。まああれほど切羽詰まってはおりませんが(笑)。特に若い頃はこの手の波にさらされる機会が多く、よく考えずに流されているのが現実ではないでしょうか?正しいと思うことを正しいこととして実行することの難しさ。「空気読めよ」「ノリがわりぃなぁ」の一言で片づけられてしまうことでもあるのですが、そんな簡単に片づけられてよい話ではけっしてないわけで、自分が正しいと思うことを毅然として行えるちゃんとした大人になりたいものですね。まあまだボクはジョン・レグイザモですが(笑)。