悠久の時をたゆたうカメラワーク。男はそのなかで亡き妻との再会を果たし、なんやかんやのすったもんだの末、父親の足元にひざまづいて赦しを乞う。なんだかわからない?大丈夫。ボクにもわかりませんから。
作品情報
惑星ソラリス
- 原題:Солярис/Solaris
- 製作:1972年/ソ連/165分
- 監督:アンドレイ・タルコフスキー
- 原作:スタニスワフ・レム
- 脚本:フリードリッヒ・ガレンシュテイン/アンドレイ・タルコフスキー
- 撮影:ワジーム・ユーソフ
- 音楽:エドゥアルド・アルテミエフ
- 出演:ドナタス・バニオニス/ナタリーヤ・ボンダルチュク/ユーリー・ヤルヴェト/アナトリー・ソロニーツィン
解説
謎の惑星“ソラリス”で亡き妻と再会するポンコツ親父の逡巡と恐怖を描いた難解芸術SF映画です。原作は『コングレス未来学会議』の原作者としても知られるスタニスワフ・レムの『ソラリスの陽のもとに』。
監督は『ストーカー』のアンドレイ・タルコフスキーで、1972年のカンヌ国際映画祭で審査員特別グランプリを受賞。しかし本作の内容をめぐって原作者のスタニスワフ・レムと大喧嘩を演じたのは有名な話(どこで?)。
主演は『人間ベートーベン』のドナタス・バニオニスと、『湖畔にて』のナタリーヤ・ボンダルチュク。妻役のボンダルチュクはのちに監督としても活躍し、1977年にはロシア・ソヴィエト連邦社会主義共和国功労女優の称号も授与された凄い人(何が?)。
あらすじ
近未来。雲と空に覆われた未知の惑星ソラリスを調査中の宇宙ステーション“プロメテウス”との通信が途絶えた。科学者のクリス(ドナタス・バニオニス)は、事態解明と調査続行判断のためソラリスへと旅立つことに。
プロメテウスへと到着したクリスが目にしたものは、荒廃したステーション内、狂気の淵に立たされた3人の科学者、そして彼の到着を待たずに自殺した友人の物理学者だった。
彼らを狂気へと追い込んだのは、知性をもつとされるソラリスの海が起こした不可解な現象にあった。そしてクリスもまた、そこですでに死んだはずの妻ハリー(ナタリーヤ・ボンダルチュク)と再会するのであった……。
感想と評価/ネタバレ多少
今年に入って何やら突然タルコフスキーの作品が続々とソフト化されているのを受け、唯一観たことのある『惑星ソラリス』から始め、未見であった作品もこれを機に挑戦してみようかと唐突に思い立った次第。
しかし不安ですなぁ。ちゃんと最後まで起きてられるのでしょうか?そして、理解できるのでありましょうか?てなわけで、さっそく第1弾である『惑星ソラリス』の眠くて意味不明な感想です。
芸術至上主義者タルコフスキー
何やらさまざまな問題を抱えているらしい中年科学者が、意志をもっているかもしれない惑星ソラリスへと赴き、そこで10年前に自殺した妻そっくりの存在と再会するという、あらすじだけなら普通に面白そうなSF話です。
しかし、芸術至上主義者として有名なタルコフスキーがこれを娯楽作に仕上げるなどということはもちろんありえず、とにかく難解で、不条理で、恐怖で、眠いのです。
ただし、眠いからといってつまらないというわけではけっしてありません。これはタルコフスキーの作り出す映像にある種の睡眠誘発効果があるせいで、途中で眠ってしまったからといって恥ずかしがる必要はまったくありませんよ。
誰だってそうなのです。したり顔でウンチクたれてる評論家だってきっとそのはず。意図的に観客を半覚醒状態に置くという一種の苦行なわけですよこれは。芸術至上主義者らしいなんとも高いハードルの設定ではありませんか。
これで才能がなかったら寄ってたかっての袋叩きに遭うところですけど、残念……いやいや、幸いなことに、タルコフスキーにはあってしまったのですね。それも、誰も文句を言えないほどのあふれんばかりの才能が!
すべては「恐怖」へと
流れ、音、空気をすくい取りながら、ひたすら緩慢に、しかし確実に、そして完璧に意図した映像を映し出していくカメラワーク。そこに驚きは少なく、前述したような睡眠誘発効果があるものの、そこで映し出される時間の連なりには、例えようのない魅惑があふれております。
水中をたゆたう水草。沼越しに見える我が家。延々と流れる高速道路(日本の首都高が使われている)。ソラリスの海上に浮かぶ宇宙ステーション。乱雑に荒廃したステーション内の移動。ソファーにかかった妻のふたつの上着。鏡に映る自分。浮遊。妻を見下ろす男。生まれたばかりの懐かしい我が家。ソラリスの海に浮かぶ自分の島。
それらが何を意味しているのか?足りない頭で理解するのは容易ではありませんが、とりあえず思いつくかぎりを羅列してみますと、時間、記憶、郷愁、母なる大地、罪と罰、消せない想い、自己の不確かさ、後悔、反省、赦し、そしてなんといっても、「恐怖」なのであります!
天才の撮るSFはホラーと化す
前述したゆったりとした映像の流れのなかで映し出される事物。登場人物たちの要領を得ない会話。シーンごとに変化する色調。死んだ妻が突然よみがえるという奇跡。その妻をまた失い、また取り戻すという無間地獄。からめとられる想い。執着。そして音!
難解SF映画の傑作として『2001年宇宙の旅』と本作は何かと比較されますけど、恐怖というキーワードでも共通しておるのですよね。緩慢なカメラワークで映し出される完璧な映像の恐ろしさ。あちらは無音の恐怖でしたけど、こちらは細かな音の恐怖。ラストの疑似郷愁もそっくりです。
なるほど。天才にとってのSFとは恐怖。つまりこの2作品はホラーだったというわけですね。執着する想いを描いたラブストーリーといえば確かにそうともいえるのですが、自分にとってはホラー映画としての尋常ではない恐怖と、自省映画としてのイメージのほうが強いのです。
一見するとあのなんだかよくわからない終わり方も、「パパ、こんなダメな僕を許して」という懺悔のラストシーンだったと思うわけですよ。嫁の幻影に惑わされ、狂わされ、いちどは故郷を捨てる覚悟すらしてしまった自分を恥じ、故郷と親に対してひざまづいて許しを請う。
まあそれすらもソラリスが作り出した幻にすぎないのですけど、それも含めて、郷愁にとらわれた中年男の姿には、恐怖と哀れさと自省を禁じえません。
というわけで、難解カルトSF映画『惑星ソラリス』のなんだかよくわからない眠くなるような感想でありました。このあと『僕の村は戦場だった』『鏡』、そして『ストーカー』も観ようかと思っておりますので、興味のある方はそれなりに期待してお待ちください。
個人的評価:8/10点
DVD&Blu-ray
VOD・動画配信
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コメント
寝ました(^_^;)。
随分前に観ましたが、確かに寝たからといって、つまらないというわけではなかったと記憶しています。
が、宇宙のことより地球(森と川?)の場面しか思い出せません。
そんな場面があったのかさえ定かではありませんが・・・。
クルーニー主演のリメイクも良く寝たような記憶が・・・(^_^;)。
バニーマンさん、コメントありがとうございます!
お返事が遅くなってしまって申し訳ありません!
タルコフスキーの映画は眠らずに最後まで見るのは至難の業ですからね(笑)
これは大丈夫だったんですけど、実はのちに観た作品ではボクも寝てしまいました(笑)
でも、眠いからといってつまらないわけではない本当に不思議な映画です。
ほかの作品の感想も随時アップしていくつもりですので、
そのときはまた遊びに来てやってください♪
おお!そうだったんですねぇ。最近、多忙で全然これなくてすみません!でも、こっそり拝見はしていましたw新しい場所での心機一転活動は私もしたいので気持ちがわかります。行き詰るとつらいですし。これからもぶろぐ楽しみです!
で、私の生涯ベストSFはこの惑星ソラリスです。すべてが芸術。音から映像から言葉まで完璧でした。この恐怖は美しくもあります!ほんと、大好きなのでスパイクロッドさんが記事にしてくれて嬉しいです♪
ちぶ~さん、コメントありがとうございます!
自分も最近は仕事が忙しすぎて、
映画観れない、イラスト描けない、感想考えられない、
という三重苦におちいっておりまして、
この『惑星ソラリス』の感想とイラストも、
観てから1週間ぐらいしてようやくアップできた次第です。
情けない!
ちぶ~さんはこの作品がSFのベスト作だったのですね!
いや~すばらしい趣味をしてらっしゃる♪
普通のSFとは異なる完全にタルコフスキーのSFですので、
ダメな人はダメでしょうけど、好きな人はもう本当に大好きですよね!
ボクも大好きです!
でもボクのSF映画生涯ベストは『2001年宇宙の旅』です♪
ベタですね~(笑)
おお、タルコフスキー祭りが、絶賛開催中なんですね!
確かに眠い!タルコフスキーは白昼夢の様な作品が多いですね。
それでいて、「サクリファイス」や「ストーカー」なんかもそうですが、ラストに「ん!?」という小さな(?)逆転やら衝撃を用意してるので、油断できません(笑)。
ハリーさん、コメントありがとうございます!
自分のような若輩者が手を出してよかった映画なのか、
『鏡』がまったく理解できなくて若干、後悔しているとろこです(笑)
とりあえず『ストーカー』までは観る予定ですけど、
その先がどうなるかは『ストーカー』次第であります。
途中で眠らないためにも元気なときに観なければなりませんね♪
この作品を見たのは、かれこれ20年くらい前にテレビで放送したのを
録画したときです。
もうめちゃくちゃカットされていましたが、まあそれでも、結構長いとおもいました。
※地球でのシーンは殆ど回想扱い、首都高速を走るシーンは全部カットと言う
潔さwww
最後はソラリス内の自宅が映って最後でした。
–ネットで全部をみて、この続きがあることを知り驚きました。–
これはソレほど眠くならなかったのですが
『ストーカー』は最後のほうでエラク眠くなり
5回くらい寝落ちしました。
監督と原作者の「ファイト」は良くあることで
私の好きな「ザ・キープ」なども、この影響で完全版がでないとか…
でも、逆は有るのかなぁ??
ダムダム人さんコメントありがとうございます!
タルコフスキーの映画を観るときはいつも睡魔との格闘です。それでいて面白くないわけではないというからまた始末に悪い。つまらない映画だったらそのまま寝ちゃって「はい、おしまい」でいいんですけどね。実は『ストーカー』はまだ未見なのですけど、いつか観るようにちゃんとキープはしております。体調万全のときではないと絶対に寝ちゃいそうなので(笑)
そうそう「キープ」といえば『ザ・キープ』。マイケル・マンの監督第2作目ですね。これ前から観たいんですけどDVDがないのですよね。それもやはり原作者との「ファイト」の影響なのでしょうか?