罪を背負い、信義を捨て、暴力から離れる決意を固めた元テロリスト。そんな男の逃れられない宿命。う~んハードボイルド。雰囲気だけは十分ハードボイルド。
作品情報
『死にゆく者への祈り』
- 原題:A Prayer for the Dying
- 製作:1987年/イギリス/108分
- 監督:マイク・ホッジス
- 原作:ジャック・ヒギンズ
- 脚本:エドワード・ワード/マーティン・リンチ
- 撮影:マイク・ガーファス
- 音楽:ビル・コンティ
- 出演:ミッキー・ローク/ボブ・ホスキンス/アラン・ベイツ/サミ・デイヴィス/クリストファー・フルフォード/リーアム・ニーソン
予告編動画
解説
誤ってスクールバスを爆破した罪の意識からIRAを抜けた元テロリストが、仲間や警察から追われる身となりながらも、とある神父や娘との出会いのなかで自らの魂を浄化させていく姿を追ったサスペンスドラマです。
監督は『狙撃手』『電子頭脳人間』のマイク・ホッジス。原作は『鷲は舞い降りた』『黒の狙撃者』などで知られるベストセラー作家ジャック・ヒギンズの同名小説で、一部では「ハードボイルドの金字塔」とも言われております。
主演は『白いドレスの女』のミッキー・ローク。共演には『スーパーマリオ 魔界帝国の女神』のボブ・ホスキンス、『まぼろしの市街戦』のアラン・ベイツ、『戦場の小さな天使たち』のサミ・デイヴィス、『トレイン・ミッション』のリーアム・ニーソンなど。
感想と評価/ネタバレ多少
『ブラック・エース』に続いてこれまたTSUTAYA発掘良品関連作品。1987年といえばミッキー・ローク全盛期ですが、この作品は不勉強ながら存在すら知らなかった。どうやらあちらでの批評・興行ともに散々だったようで、日本でも公開規模はそうとう小さかった模様。
んでまあ観てみた感想ですが、それもやむなしといった出来ですかね。全体的に雰囲気重視の中身スカスカ映画といった印象で、お色気番長ミッキー・ロークの魅力をもってしてもすくいあげれなかった『死にゆく者への祈り』、それではさっそく簡単な感想のほうをば。
原作ファンはこえーよ
IRA(アイルランド共和軍)の闘士マーティン・ファロン。しかしイギリス軍を狙ったテロ行為が失敗し、誤ってスクールバスを爆破してしまった罪の意識から組織を抜け、警察やかつての同胞たちから追われる存在となった彼は、すべてを捨て去り国外逃亡を試みる。
偽造パスポートと交換に最後の殺しを引き受けたファロンは、暗黒街の顔役ジャック・ミーアンにとっての邪魔者を見事に始末するが、運悪くその現場をひとりの神父に目撃される。口封じのために神父へと近づいたファロンのなかで、何かが変わり始めるのだった……。
てな感じのハードボイルド調な本作『死にゆく者への祈り』は、ベストセラー作家ジャック・ヒギンズの同名小説の映画化であり、彼の最高傑作とも謳われる屈指の人気作へと手をつけた最初から地雷案件でもあるのですが、原作は未読ですので安易な比較はできません。
「ハードボイルドの金字塔」とも言われる原作はきっと傑作なのでしょうね。しかし映画版はその表面をふわふわとなぞっただけの軟弱な手つきで、ハードボイルドというよりかはメロドラマです。これでは原作ファンの顰蹙を買ったというのもさもありなん。
大事なのは外より内
いきなりの子供わんさかスクールバス木っ端みじんや、ミスは許さぬおしおき聖痕の刑など、かなり血なまぐさいスタートダッシュは良かったものの、この路線でハードに突っ走るのかと思ったら急ブレーキがかかり、気づいたときには待てど暮らせど話が進まぬのろのろ運転。
原作が優れているだけに基本路線は悪くないのですよね。罪を背負った男が、生きることにも暴力にも、そして信義にも疲れ果て、空っぽになった状態で出会った神父と盲目の娘との交流のなかで、自らが犯してきた罪と対峙し、けじめをつけるとともに赦しを与えられる物語。
これらを表層だけではなく深層まで描けていたら、信仰をひとつのテーマとした骨太のハードボイルド映画になったと思うのですけど、ほんっと上辺だけなのですよね。んでもって盲目の彼女とのちちくりあいに注力しちゃったもんだから、くっさいメロドラマ感が臭う臭う。
真に重要なのは、何やら複雑な過去を背負った聖職者と、IRAの元テロリストが出会うことによる緊張感と、信仰の揺らぎ、罪と赦しを描くことにあり、ベタな盲目少女とのオルガンセッションや遊園地でキャッキャウフウフなんてダサいネタをやっている場合ではねーのです。
遺憾如何でいかんいかん
サスペンスとしてもアクションとしても二流、ちょいちょい入れてくる宗教ネタは上滑り、おまけにハードボイルドではなくメロドラマにしちゃった『死にゆく者への祈り』。原作のプロットに助けられてなんとか観られるぐらいの映画ではありますが、おすすめはできませんな。
でもまあ主演のミッキー・ロークは悪くないですよ。原作ファンには嫌われちゃったようですが、彼が生来もっているそこはかとない哀愁と憂鬱さが活かされた配役だったと思います。これを雰囲気だけではなく中身まで活かせていたらなお良かったのですがね。
葬儀屋を営むギャングや、元特殊部隊兵でキレるとめちゃ強いチビの神父様など、なにげに面白い妙な設定ももっと活かしてほしかったし、ファロンを追うIRAの元同胞役リーアム・ニーソンなんて宝の持ち腐れ。このへんの設定が後半で忘れ去られたのはまことに遺憾です。
遺憾といえば、ラストで磔刑キリスト像の股間にしがみつくファロンの姿は、虚無的に生きてきた彼が最後に見せた赦しを請う姿として重要ではあるものの、その姿はどうにも笑いを誘う滑稽さで、こんなもん遺憾程度じゃ済まんだろ!と思うボクこそが不謹慎なのでしょうか?
個人的評価:4/10点
コメント
この作品、漢局で放送したのを見た後、原作を買いました。
確かに原作をかなり改変しているので、原作ファンからはそっぽ向かれると思います。
私も原作を読んで、かなり展開などが違うので、がっかりしました。
「なんでこんなよい原作をあんな風にしたの??」と…
(ファロンを追うIRAの元同胞なんてのは原作には無いので、
はっきり言って無駄!!!)
**原作でお酒(スコッチ)を飲むシーンが何度かあるのですが
洋酒の好きな私にはたまらなかったです。
ただ、音楽はすごく良かったので、今は無き渋谷のすみやでかいました。
まあそれにしても、この作品「板化」されたのですね?
話によると公開版はいわゆるカット版らしく、オリジナルはもっと長いらしいです。
とは言え、長ければカット版よりもよくなるとは思えませんが…
これはどちらなのかしら???
ダムダム人さん、コメントありがとうございます!
やはり原作ファンにはそうとう喰い足りない映画化のようですね。ただダムダム人さんがおっしゃるように音楽は良かったです!なんせあの『ロッキー』シリーズのビル・コンティですからね!しかしですね、オリジナル版はもっと長かったという情報をいろいろと漁っていたら、確かにこの劇場公開版はスタジオによってかなり編集されたカット版だったらしいのですけど、このビル・コンティの音楽までスタジオによる付け足しだったという記述があってちょっと困惑しております。ということはあの音楽は監督の意図したものではなかったということか?いや、悪くなかったけどなぁ……。