アイ・スクリ~ム♪ユゥ・スクリ~ム♪なんて浮かれてる場合じゃねえんだよ郁恵!ここじゃアイス買うのも命がけなんだよ徹!てめえら仮面夫婦にはわからんだろうが、これがカーペンターの世界なんだよ!ベンベベベベ~ン♪
作品情報
『ジョン・カーペンターの要塞警察』
Assault on Precinct 13
- 1976年/アメリカ/91分
- 監督・脚本・音楽:ジョン・カーペンター
- 撮影:ダグラス・ナップ
- 出演:オースティン・ストーカー/ダーウィン・ジョストン/ローリー・ジマー/トニー・バートン
参考 ジョン・カーペンターの要塞警察 – Wikipedia
予告編動画
解説
現代劇かと思ったら西部劇にSFとホラーまでデコレーションされたサービス満点のサスペンスアクションです。
監督は『ダーク・スター』のジョン・カーペンター。監督のみならず脚本と音楽まで例のごとく手を出しております。主演は『最後の猿の惑星』に出ていたらしいオースティン・ストーカーをはじめ、『イレイザーヘッド』に出ていたらしいダーウィン・ジョストン、ほかに何も出ていないらしいローリー・ジマーなどです。
あらすじ
ストリートギャングによる犯罪が横行しているカリフォルニア。警察によって仲間を殺された彼らは静かな復讐の炎に燃え、無関係な少女へと銃口が向けられる。怒りに震える娘の父親はギャング団のひとりを射殺し、最寄りの警察署へと逃げ込む。
しかし、逃げ込んだ先の9分署は翌日に移転を控え、署内に残っていたのはひとりの警官と女性職員、そして囚人だけだった!
仲間のかたきを討つために9分署を包囲するギャング団。一言も発せずに包囲網を縮めていく彼らの手には、黒く光るサイレンサーが握られていた!
感想と評価/ネタバレ多少
犬である自分はご主人さまが与えてくださるご褒美の忠実なるしもべ。というわけで、性懲りもなく今回もTSUTAYA発掘良品の新ラインナップから厳選した一本、『ジョン・カーペンターの要塞警察』をご紹介したいと思います。
『ダーク・スター』がほぼ自主制作だったことを考えると、こちらが実質的プロ監督デビュー作になるのかな?残念ながら日本では劇場未公開に終わりましたが、いまだに根強い人気を誇るカルト作であります。
「カーペンターの」映画
ハワード・ホークスの傑作西部劇『リオ・ブラボー』の現代版。なんて表現はやや短絡的で、確かに立てこもり型アクションの骨格は拝借しておるものの、それで終わるわけがないタイトルどおり「ジョン・カーペンターの」映画なわけです。
何が『リオ・ブラボー』と違うのか?そんなものは一目瞭然!この映画のなんと陰惨で、悪趣味で、変化球なことか!若い頃からカーペンターはほとんど変わっておりません!
孤高の男ジョン・カーペンター
もう冒頭から痺れますわな。「ベンベベベベ~ン♪」というシンセベースのリフがたまらなくカッコいいテーマ曲!例のごとくカーペンター自身による作曲です。この名曲に続いて闇夜を闊歩するストリートギャングたち。そして突然、彼らの頭上に降り注ぐの銃弾の雨あられ!
オープニングからいきなりの血まみれですがな!情け容赦ない官憲どもによるショットガンの雨あられ!暗い路地に折り重なって息絶える青少年には見えない青少年たち。壁の鮮血。格子状の影。最高ですがな最高!
もうのっけから陰惨きわまりない!そしてカッコいい!いきなり無慈悲な体制への嫌悪感を表明しながら、血まみれの惨劇をこちらにも体感させ、不気味なチョロ(?)どもの血の儀式に「バカかお前らは!」と突っ込まさせる。
体制に対して毅然と唾を吐きかけながら、凶悪な無法者集団の低能に対しても同時にコケにする。どちらにも属さないカーペンターの孤高のアウトロー宣言です。
アイスクリーム交換不可事件
いきなりの先頭打者ホームランを放り込んだあとは、一転して地味な小技が続きます。現代の観客にはこれがやや退屈に感じられるかもしれませんが、カーペンターは若手の頃からこういうテクニックが非常に老獪なのです。
刻まれる時間。黒人の主人公。口笛。タバコをねだる伝説の囚人。隠された彼の過去。草刈正雄似のアイスクリーム屋。チョロどもの無言の道行き。父親と娘との微笑ましい会話。閑散とした警察署内。獲物を探すスコープ越しの視線。指の動き。
やがて来るであろう惨劇の予感、戦いの前兆をヒシヒシと感じさせながら、押して引いての手練手管で我々観客の緊張感をもてあそぶ遊女のごときカーペンター。
そしてあまりに冷静な唐突さでついに現出してしまう、寡黙なチョロによる「俺はアイスクリームを作り直さない男だ」事件。これが戦いのゴングだなんて酷すぎるよ!うちの娘にはもう金輪際アイスクリームは買わせません!嫁も娘もいないけどな!
SFホラーウエスタン
このアイスクリーム事件を引き金についに展開される、警察署内に立てこもったわずかな人間と、それを殲滅せしめようと大挙して押し寄せるチョロどもとの熾烈な攻防戦!ここで見せるカーペンターの演出がうまいのなんの!
『リオ・ブラボー』的籠城ウエスタンを現代に翻案しながらも、過去でも現在でもないどこか異世界的な空間、SF的な雰囲気を醸し出し、物言わぬチョロどもの進撃をまるでゾンビの襲撃のように映し出す。
危機的状況のなかで形成される信頼と連帯感、ほのかなロマンスを、無駄に語らず明かさず、主人公たちの行動、仕草、表情によって表現する粋な演出。
この不気味な緊張感、主人公たちのやりとりが面白いのなんの!とりわけ妙に達観している事務員のお姉さんのカッコよさは必見です!低予算を逆手に取ったサイレンサーによる超長い乱射シーンも、のちの『ゼイリブ』を彷彿とさせるニヤリポイント。
カーペンターのすべてを観ろ!
はたして彼らの運命は?それは未見の方のために伏せておきますが、最後の最後まで粋でいなせでカッコいいのですよ!
カーペンターの商業監督デビュー作にして、彼のすべてが集約されたとも言える傑作アクション。基本的骨格は『ゴースト・オブ・マーズ』に、主人公のキャラクターは『ニューヨーク1997』へ、恐怖と緊張感は『ハロウィン』や『遊星からの物体X』へと引き継がれております。なるほど、この映画は彼の引き出しだったのか!
長らく廃盤によって旧DVDは高値がつき、レンタルも難しい状況にあったものの、今回の初Blu-ray化、そしてTSUTAYA発掘良品での導入により観やすい状況がようやく整いましたので、未見の方はぜひともお試しください。絶対に損はさせませんから!
個人的評価:8/10点
DVD&Blu-ray
VOD・動画配信
『ジョン・カーペンターの要塞警察』が観られる動画配信サービスはU-NEXT、。おすすめは定額見放題のU-NEXT(2018年12月現在。最新の配信状況は各公式サイトにてご確認ください)。
コメント
こんばんわ。
またまた大好きな映画です!
お書きの通りOPからのカーペンター作曲のシンセベースがあまりにもかっこよくてこの時点でノックアウト状態でした。
リオブラボー&ハワードホークス監督も好きですが、本作には勝てません。
ラストのギャングの総攻撃がまたまたスゴすぎです。
カーペンター作品はほんとハズレ無くて大好きな監督、映画音楽作曲家です!
アルジェント監督も歓びの毒牙からオペラ座血の喝采までは大好きでして、ダリアニコロディ銃弾貫通シーンは度胆抜かれました。
発掘良品ほんといい仕事しますよね!
この作品のDVDが廃盤とは知りませんでした!!
わたし、持っています。
(ずいぶん前にフラッと入った池袋の店で買いました。
中古だったのですが、結構高かった気がします)
サントラも持っています。
(もちろん輸入版です。渋谷に有ったサントラ専門店で買いました。)
昔は、漢局で放送していたらしいです。
この作品との出会いは、かなり前でと或る雑誌に掲載されていた紹介記事でした。
「謎の多い映画である。
あのアイスクリーム屋の親父は運がわるかったのか?
なぜ、彼らはあの警察署を選んだのか?」などなど興味をそそる内容でした。
当時、住んでいた所に有ったビデオレンタル屋で借りてみましたが
面白かったです!!
10年くらい前にリメイクされたので見に行ったのですが
やはりオリジナルは超えられないと痛感しました。
(なんか在り来たりの展開で面白くなかったです。)
エルさんコメントありがとうございます!
本当にカーペンターは作曲家としての才能もありまして、昨年には音楽家としてもソロデビューを飾ったぐらいですからね。もうあのワンパターンな「ベンベベベベ~ン」が耳にへばりついて離れません(笑)
カーペンターもアルジェントも、エルさんと同じくボクも大好きな監督のひとりでして、本当にTSUTAYA発掘良品にはお世話になりっぱなしです。足を向けて寝れません!
ダムダム人さんコメントありがとうございます!
そうなんですよ!廃盤なうえにけっこうな高値がついてしまっていたのですよね。ですので今回の再発は本当に喜ばしいかぎりです!確かにこの映画は謎が多いですよね。チョロとはなんぞや?って感じですし、まさにゾンビのように湧いて出てくるストリートギャングたちの数にも驚きです。ナポレオンの由来も語られずじまい。ですが、それを明かさない、謎のままにしておくのがこの映画の魅力ですよね!なんでもかんでも説明すりゃいいってもんではありません!それがこの映画と後続とを隔てている最大の壁ではないでしょうか?
こんばんわ。
退廃的、デストピア的なアメリカの雰囲気は、後の「ニューヨーク1997」や「エスケープ・フロム・LA」に通じるところがあり…。というか、ぶっちゃけ、これら作品の前日譚と言っても全く違和感ありませんね。
特に、警察署に突入してくる無言のギャング団は、徹底的に非人格的に描かれ、仰るように「ゾンビ的」、見事にアメリカ的病理を表現しているようで、舌を巻きます。
さすがカーペンターです。
PS
前のサイトが、見れなくなってしまったようで、大変残念です。
ぜひ、記事の移転を…。特に、高評価作品を…。切に願います。
ハリーさんコメントありがとうございます!
確かにこの世界観は『要塞警察』→『ニューヨーク1997』→『エスケープ・フロム・L.A.』とつながっているような感じがしますよね。この作品の主人公ナポレオンがのちのスネークになったような。しかしホントにカーペンターはこういうどこにも属さない孤高のアウトローが好きですよね。転じて『ゾンビ』的な画一的集団は嫌悪の対象なのでしょう。ついでに無能な体制も。
以前のブログはもう誰も見てないだろうという勝手な判断で、なんの予告もなしに削除してしまいました。申し訳ありません。記事の移転というか、もういちど観直してあらたな記事として復活させるつもりですので、どうぞ気長に待ってやってください。来年はもうちょっと更新頻度も上げていきたいと思っておりますので!
撃たれた自分の娘を病院にも連れて行かずに犯人を追いかけるオヤジって絶対有り得ない
最初から色んな場面で違和感しか感じない映画2度と観ない
カン・ジョーペンターだめ過ぎるさんコメントありがとうございます!
む~んダメでしたかぁ。でもそう言わずに2度3度と観てやってくださいよ。カーペンターの映画は基本的にするめですので、噛めば噛むほど、観れば観るほど味わい深くなっていくものなのですよ。
こんにちは。
スパイクロッドさんの映画評は、素晴らしいイラストと深い洞察、歯に衣着せぬ感想が好きでいつも読ませていただいてます。
映画の嗜好も、リンチ、デパルマ、クローネンバーグ‥‥と近いものがあり、高評価で未視聴のものをレンタルするのがいつも楽しみです。(最近では「ジェーンドゥの解剖」がとても面白かったです。)
カーペンターもそんな一人で、中学生の頃から観てましたが、この人の反体制、反メジャー(B級)といった一貫したあまのじゃくな反骨精神は、自分が歳をとるとともにその凄さが分かってきました。味わい深い監督ですよね。
作品にはだいぶ当たり外れある気もしますが、要塞警察は仰る通りカーペンター全部入りって感じで、閉鎖空間の男臭いサスペンス、異様な緊迫感がたまりません。自分のお気に入りはベタですがニューヨーク1997、物体X、ハロウィン、ダークスター、ゴーストハンターズあたりの初期のものですね。特に物体Xの緊迫感はベンベン、ベンベンというモリコーネの音楽と相まって尋常ではありません。
是非、スパイクロッドさんのニューヨーク1997、物体Xの感想とイラストを読んでみたいです。メジャー過ぎてダメですか?
よければ、また、コメントさせてください。
ブッチさん、コメントありがとうございます!
ジョン・カーペンターいいですよねぇ。この人の良さってやっぱり若い頃よりも歳とってからのほうがしみじみわかりますね。リンチ、デ・パルマ、クローネンバーグ、そしてジョン・カーペンターの作品は時間がかかってもいつか全作レビューしたいと思っておりますので、どうぞ気長にお待ちください。現在は本業のほうがバカみたいに忙しくて更新が滞りがちですが、暇ができたらまたドシドシ更新していくつもりですので、いつでも気軽に遊びに来てコメントを残してください!