「強さ」と「完璧さ」を備えた男のなかの男チャック・ノリス。彼が腕立て伏せをするとき、自分の体を押し上げるのではなく、世界を押し下げているのだという。これを他愛もないジョークと考えるかどうかはあなた次第です。
作品情報
野獣捜査線
- 原題:Code Of Silence
- 製作:1985年/アメリカ/101分
- 監督:アンドリュー・デイヴィス
- 脚本:マイケル・バトラー/デニス・シュリアック/マイク・グレイ
- 撮影:フランク・タイディ
- 音楽:デヴィッド・フランク
- 出演:チャック・ノリス/ヘンリー・シルヴァ/モリー・ヘイガン/デニス・ファリーナ
解説
真面目すぎるヒゲの中肉中背が最後にちょっとだけ羽目を外すポリスアクションです。
監督は『沈黙の戦艦』や『逃亡者』の職人アンドリュー・デイヴィス。主演は『地獄のヒーロー』シリーズの空手バカ一代チャック・ノリス。共演には『刑事ニコ/法の死角』のヘンリー・シルヴァ、『刑事グラハム/凍りついた欲望』のデニス・ファリーナなど。
あらすじ
シカゴ市警で働く刑事エディ・キューサック(チャック・ノリス)。彼の指揮のもとで麻薬取引の捜査が行われていたのだが、敵対する組織の介入により現場は混乱、同僚の誤射事件まで発生してしまう。
その対応に厳格な姿勢を見せたために署内で孤立した彼は、たったひとりで巨大な組織へと闘いを挑むことになるのだった!
感想と評価/ネタバレ多少
特に意味はないのですけど、なぜか唐突にチャック・ノリス主演の『野獣捜査線』を観てしまいました。ボクが小学生の頃に飽きるほど土日のお昼に放送されまくっていた彼の主演作品。
特に好きでも嫌いでもなく、単なる暇つぶし以上の思い入れをいだいたことはないのですが、世の親父どもの休日のお昼を癒してくれていた彼の映画。自分も親父の仲間入りを果たしたいま観るとどんな感じなのだろう?それが動機といえば動機なのかもしれません。
チャック・ノリスの癒しの秘密
上記のあらすじを読んでいただければいかに平々凡々な物語かおわかりいただけると思いますが、どうやらこの映画、もとはかのクリント・イーストウッド主演で企画されていたものらしく、そこはかとなくそういうニオイが感じられるような感じられないような。
結局のところイーストウッドは出演していないという事実がすべてを物語っておるような気もいたしますが、「だったらこの俺が」とイーストウッドを尊敬してやまないチャック・ノリスが名乗りをあげたわけです。
仕事に疲れた親父どもの休日のお昼を『ベイマックス』ばりに癒してくれていたチャック・ノリス。彼の何が親父どもを癒したのか?それはおそらくこの映画でも顕著に表れている、融通の利かない生真面目さにあるのだと思います。
日々、会社のなかで望まぬ妥協を強いられている世の親父どもにとって、愚直なまでに自らの正義らしきものを押し通すチャック・ノリスの姿は、かなわぬ望みを体現してくれているヒーローだったのではないでしょうか?
真面目すぎても面白くない
しかし、その生真面目さが映画としての瞬発力を損なってしまっていたこともまた事実。厳格すぎることによって署内で孤立するのはまあよしとして、とにかくキャラクターとしての面白味がないのですよね。
これは空手家あがりのチャック・ノリスの演技力にも問題があるのだと思いますけど、とにもかくにも一本調子。最初から最後までず~とそのまんまなのです。
サスペンスアクションとしての緊張感、迫力もいまいちでして、チャック・ノリスお得意の空手を隠し味程度に抑えたのも良かったのか悪かったのか?
走る列車の上での格闘戦における、おっかなびっくり闘っているノリスの愛らしいスタントにはほっこりしてしまいますが、全体的にはやはり地味だという印象はぬぐえません。
最後の最後に突如覚醒!
職人監督アンドリュー・デイヴィスらしく手堅くまとめあげてはおるものの、初アクションということでまだまだ習作段階といったところかな?この作品をそのままブラッシュアップさせたような『刑事ニコ/法の死角』のほうが素直に面白かったですね。
主演俳優のキャラクターの問題も大きいでしょうけど、これは単に好みの問題かな?ノリスの愚直さよりもセガールのいかがわしさのほうが心の琴線に引っかかるというだけのことかも。
というわけで、真面目で地味なハードボイルド路線が魅力であり欠点でもある映画なのですけど、ラストだけは突如としてケレンに覚醒していて面白いんですよ。
「ここがダメだ!」と嘆くチャック・ノリス信者を尻目に、殺戮マシンで遊び倒す彼の孤独な破壊活動に腹抱えて爆笑してしまったボクは、やはり真のチャック・ノリス信者にはなれない性格破綻者なのでありましょう。でもここに救われたのも事実。最後のセリフでまたコケましたけどね。
個人的評価:4/10点
コメント
私はチャックのどの主演作を観ても、作品世界には感情移入できない。
ついつい期待してしまう。金剛力士像のような体脂肪の少ない逆三角形の体型をした体毛の薄いつるつるの肉体を持った坊ちゃん刈りがボサボサに伸びたようなヘアースタイルのちょっと背の低い30前後の若い男が突然怪鳥音を発して乱入し、チャックに連続まわし蹴りを食らわして胸毛を毟り取られる様を。
晴雨堂ミカエルさん、コメントありがとうございます!
ブルース・リー世代の方はどうしてもそうなんでしょうね。
自分はジャッキー・チェン世代なので、
実はあまりブルース・リーに対する思い入れがありません。
より身近に親しんでいたという意味でいえば、
チャック・ノリスの映画のほうが大量に観ていましたね。
いまとなってはどれがどれだったか見分けがつかないのですけど(笑)
もういちど全部観直していくのも手ですけど、
あくまで時間があったらになるのでしょうね(笑)
はじめまして、ツイッターから来ました
私はツタヤとゲオの巨大チェーン店に全国各地のビデオレンタル店が統合される前、バブル前夜から終焉まで、最低毎日一本、レンタルビデオを数年間に渡って見続けました
近所のレンタルビデオ店のタイトルを本当に全部観てしまい、店長や代々のアルバイト店員の女性とも友達になってました
監督やら俳優やらの知識がいやでも身についてしまい、アイウエオ順に並んでたビデオを、店の許可を得て、監督や俳優別に棚を並べかえ、もちろん一番目立つ場所にチャック・ノリスコーナーを作りました
本当にたくさんの映画を観てきた結論ですが、最終的に、今でも繰り返し観るのは、チャック・ノリス映画だけになりました
>とにもかくにも一本調子。最初から最後までず~とそのまんまなのです。
この部分こそが、まさにチャック・ノリス映画の真髄で、極限のリアリズムだと思うのです
例えば、これが普通の俳優だと当然、劇中、上手な芝居が演じられていくわけですが
ここで気がついてしまうわけです、「上手な芝居」あっこれ映画だったなと
「野獣捜査線」で言えば、愚直、寡黙、芝居をしない、説得力が半端ない
例えばトレーニングシーン、本物のトレーニングシーンが見れる、そこだけ何度リピート再生しても、全然飽きない
銃撃シーン、銃の構え方、発砲後のリアクション、とにかく決まってる、この隙の無いリアルズムのどこに芝居が必要だろうか?
プールバーでの格闘シーン、打撃と飛び蹴り、なんて美しいんだろ
カーチェイス! 車の乱暴な扱いも、とにかくリアル、あんな美しいカーチェイスは、列車のスタントが「ハンター」以来ならば、カーチェイスは「ブリット」以来と断言できる
賛否を分けるプローラー(ロボット警官)ですが、絶対的に肯定します
この妙が分らない者は、脚本や作劇について一切語る資格はないと思いますね
映画など観ない方がいいです
署内でのプローラーのメーカー説明会と、ラストの敵のアジトでプローラーがデモンストレーションの終了を音声ガイダンスするシーン一連のシーンを振り返っての、この知的な組立が理解できないバカは本気でアホだと断言できます
普段から一匹狼のエディに手を焼くガンツ署長はエディに皮肉を言う「これこそが理想的な警官だ、なんせ命令に忠実だ」と、それを受けエディは「ただのマシーンだ」とぶっきら棒に返す
ガンツはさらにエディをからかおうと、プローラーを操るデモンストレーターに“エディを狙え”とジェスチャーを発する
署内の説明会場、多くの警官が見守る前で、銃を抜いたエディとプローラーは対峙、緊張が走る
火力で圧倒するプローラーだが、その弱点をエディはあっさり白日の下に晒す、プローラーからデモンストレーターに銃口を移し、操縦桿を置けと伝える
エディの気迫に押され白旗を上げるデモンストレーター、そっと操縦桿を床に置く
緊張が解れ、ドッと安堵の笑いに包まれる署内、それをバックに寡黙に歩き出すエディ
ラスト、仲間からボイコットを受け孤立し、単身殴りこみをかけることを決意したエディが選んだパートナーは、なんとその存在を完全否定したかに見えたプローラー、きっと理由は“命令に忠実”だからなのだろう
「市民を守るのが警官だ」と語るエディは、その目的のために、(肉体と精神の鍛錬こそが力だという)思想的に対するはずの“ただのマシーン”を実に雑に運び出し登用する、これを何の芝居がかりもなしに淡々と行う佇まいがその思考とともに実にクールなのだ
さらに同時に、この命令に忠実かつ圧倒的な火力を持つプローラーの出現によって、単身乗り込むエディが、多勢のコマチョ一家を殲滅せしめる描写にこれまた大きな説得力を持たすことに成功している
よくラストのプローラーが荒唐無稽だとか、台無しだとか非難するバカがよく居るわけだが、仮にプローラーしにエディがコマチョ一家を一人残らず撃ち殺したなら、これこそが荒唐無稽ではないのか
どれだけ多くの自称映画ファンが表層しか見てないかの証で、「野獣捜査線」のプローラーへの見解こそが知性の踏み絵に他ならない
そしてユーモアも忘れていない、部下が皆殺しされたヘンリー・シルヴァ演じるルイス・コマチョが絶望のなか、見渡す硝煙に包まれた広大な倉庫を見渡すカットで、その静寂を打ち消し響き渡る、プローラーの戦闘デモンストレーション終了の音声ガイダンス
リドリー・スコットの「デュエリスト」の撮影監督、フランク・タイディの美しくかつリアリズム溢れるタイトな画作りが際立つ、ハードボイルド刑事アクションの傑作!
一本調子のストーリーラインとセガールのおかま走りで笑ってしまう「刑事ニコ」とは全てにおいて格が違う
訂正
正 仮にプローラーなしに
誤 仮にプローラーしに
スパイクロッドさま
「野獣捜査線」を取り上げていただき
また、エッジの利いたチャック・ノリスのイラスト素晴らしかったです!
連投失礼いたしました
キミドリさん、はじめまして!
とにかく熱いコメントありがとうございます!
キミドリさんのチャック・ノリスに対する、
そしてこの『野獣捜査線』に対する愛情がひしひしと伝わってくる、
とてつもない熱量のコメントというか批評でありましたね。
ボクのいい加減な感想よりもはるかに批評的であります(笑)
「なるほど、なるほど」とうなずくところが多々あり、
非常に勉強になりました。演技のリアリズムについてとか。
それを作劇としてもの足りないと取るか、
リアリズムと取るかは鑑賞者の趣向に左右されるような気もしますが、
映画というものにケレンといかがわしさを求めてしまう自分としては、
どうにもしっくりこなかったのは事実であります。
セガールがしっくりくるのかといったらまた違う話ですけどね(笑)
その点ケレンにあふれたクライマックスに関しては、
キミドリさんと同様の評価を与えており、
この映画の最終的な価値はここにこそあると思っております。
おっしゃるとおりフランク・タイディにより撮影された映像がすばらしく、
逆光のシルエットで現れたチャック・ノリスの雄姿には素直に痺れました!
これを機にチャック・ノリスの映画を観かえしていくかどうかは、
現段階では正直不透明ではありますが、
キミドリさんの熱い批評に触れて何がしかの興味がわいたのは事実です。
とにかく、本当に熱いコメント心からありがとうございました!
スパイクロッドさんこんにちは。
平成生まれのゆとり世代な自分でありますが、映画秘宝の特集本やチャックノリスファクトでノリス作品に興味をもち観たのがコレと「デルタフォース」でした。
刑事アクションものとしては最後まで凡庸な感じがぬぐえないとは思いますが、ノリス氏その辺のマッチョ俳優とはどこかちがう落ち着いた物腰で安心して観ることが出来ました。
個人的に特筆すべきだと思うのはサントラです。あのオープニングとラストのテーマが非常にカッコ良かった。あの曲を聴くためだけに観るのもアリだと思います。
初コメ失礼いたしました。
タキザワリョウヘイさんコメントありがとうございます!
チャック・ノリスはやはり武道を極めた者の余裕とでも申しましょうか、何ものにも動じず対処解決してしまう仙人的な存在なのですよね。それを良しとするか悪しとするかは個人の主観に委ねられる部分がありますけど、ボク的にはもうちょっと右往左往してくれたほうが人間くさくていいかな?
申し訳ない話なのですが、この映画のオープニングとラストがどんな曲だったのかまったくもって思い出せません(笑)というわけで、初コメありがとうございました!