マナーをもって人と接する紳士なクマ、パディントンが帰ってきた!無数の膨れた死体が浮かぶ続編墓場へと乗り込んできた彼の選択は、はたして攻めか?守りなのか?
作品情報
『パディントン2』
Paddington 2
- 2017年/イギリス、フランス、アメリカ/104分
- 監督:ポール・キング
- 原作:マイケル・ボンド
- 脚本:ポール・キング/サイモン・ファーナビー
- 撮影:エリック・アレクサンダー・ウィルソン
- 音楽:ダリオ・マリアネッリ
- 出演:ベン・ウィショー(声)/ヒュー・グラント/ヒュー・ボネヴィル/サリー・ホーキンス/マデリーン・ハリス/サミュエル・ジョスリン/ジュリー・ウォルターズ/ブレンダン・グリーソン
- 日本語吹き替え版:松坂桃李/斎藤工/古田新太/石塚理恵/三戸なつめ/西田光貴/定岡小百合/楠見尚己
予告編動画
解説
ブラウン家の一員としてロンドンで暮らすクマのパディントン。離れて暮らすルーシーおばさんの誕生日に世界でひとつだけの飛び出す絵本を贈ろうと思いつくが、それが原因でまさかの強盗犯として逮捕・収監されてしまうというファミリー向けコメディ第2弾です。
監督は前作に引き続きポール・キング。パディントンの声を担当するのは『ロブスター』のベン・ウィショーで、ブラウン一家を演じるヒュー・ボネヴィル、サリー・ホーキンス、マデリーン・ハリス、サミュエル・ジョスリンなども続投。
今回新たに参戦するのは「ロマンティックコメディの帝王」ことヒュー・グラントと、ドーナルとブライアンというふたりの息子も役者として大成したブレンダン・グリーソン。
感想と評価/ネタバレ多少
公開初日のレイトショーにて鑑賞。40前でスキンヘッドの堅気らしからぬおっさんが、ひとりで『パディントン2』を観に来る暴挙に困惑なされたほかのお客さま、ゴメンなさいね。っていうかボク以外の客が6人ほどしかおらんかったわけですが、大丈夫なんかこの映画?
参考 『パディントン2』米大手映画批評サイトで歴代最高の評価! – シネマトゥデイ
某腐ったトマトで歴代最高の評価だとかなんとかもてはやされておりますが、大丈夫なんか?っていやいや、ちゃんと大丈夫な映画でありました。前作同様に子供も大人も楽しめるほっこりコメディに仕上がっていたと思います。大きく伸びも縮みもしない安定の続編かと。
なんか褒めてんのか貶してんのかよくわからん文章ですが、続編墓場の死屍累々を思えば無病息災、健康第一。死ななかっただけでもたいしたもんです。てなわけで40前のゲスいおっさんによる『パディントン2』の感想ですが、まず前作から読みたいという方は下記をどうぞ。
後退したテーマ
災害によって故郷ペルーを追われ、ロンドンのウィンザーガーデンでブラウン家の一員となった英語を喋るクマ、パディントン。離れて暮らす育ての親ルーシーおばさんの100歳の誕生日を祝うため、骨董品店で見つけた世界にひとつの飛び出す絵本をプレゼントしたいと考える。
そのためにさっそく窓拭きのアルバイトを始めたパディントンだったが、ある夜、大事な絵本が何者かによって盗まれてしまう。泥棒を必死に追ったパディントンだったが取り逃がし、あろうことかその濡れ衣を着せられ、刑務所に収監されてしまうのだった!
ファミリー向けコメディ映画の体裁を借りながら、現代のヨーロッパが抱える移民問題へと切り込んでいた前作。今作もそのテーマは継承されており、外から入って来た存在に対する偏見と差別を描こうとしていたようですが、前作ほど機能していないというのが正直なところ。
ブラウン一家をはじめすでに大多数の人からはかけがえのない存在として受け入れられているので、どうにもそのへんの葛藤が弱い。ここはいちど形成された絆や信頼が揺らぐというところまで切り込んでほしかったわけで、テーマ的には前作よりも後退している印象です。
笑いも後退
後退していたのは笑いの瞬発力にも言えることで、すでに都会慣れしてしまったパディントンに前作ほどの礼儀正しく無茶をする紳士面した野生感はありません。『SING/シング』のバスターから悲壮感を抜き取ったような窓拭き業も、笑いというよりかは愛らしさですな。
その点でパワーダウンしたパディントンを補うため、自己愛落ち目俳優ヒュー・グラントと、無骨な刑務所コックのブレンダン・グリーソンが投入されたと思うのですが、これがまた両者ともスベりぎみなのは痛いところ。特にヒュー・グラントは観ていて痛々しかったなぁ。
グリーソン演じるナックルズもキャラクター的に中途半端で、刑務所内における笑いはむしろその他の脇役たちが製造していた印象。パディントンの提案により刑務所が乙女チックなスイーツ店へと変貌するギャップは面白かっただけに、その中心に彼を据えたらよかったのに。
失敗しない守りの続編
前作同様ふと現実が幻想化していく映像も素晴らしく、飛び出す絵本のなかをパディントンとルーシーおばさんが歩く多幸感や、ウェス・アンダーソンかと思えるような断面カットの脱獄劇には画的な楽しさがありましたが、全体的にはやはりこちらもパワーダウンか。
つまりはきちんと前作のテーマや売りを継承しているものの、そのすべてがちょっとずつ後退している惜しい続編で、目立った失点はないものの際立った高得点もないホントに無難に安定的な続編でありました。失敗を回避するための攻めない守りの続編といった感じかな。
でもまあ前作で獲得したパディントンを含めたブラウン一家の絆を、なんの迷いもなくさらなる高みで再確認するというドラマには、ボクのようなゲスの天邪鬼でもほっこりもっこりしてしまいます。その頂点として用意されたのが古典的列車アクションだというのも洒落ている。
ここで回収されていく伏線の律義なまでの几帳面さは、「真面目か!」と突っ込んでしまうほどの完璧ぶりで、なにげに好きだったのはパディントンのカバンから飛び出したクルクル回す南京玉すだれ。家族のネタは読めましたが、ここでそれを使うのは盲点でしたよね。
マナーがクマを作る
読めたと言えばラストのオチも「まあそれしかないわな」って選択なのですが、読めたとしても素直に「良かったなぁパディントン」と思えちゃういいラストで、その後をダラダラと見せない蛇足感がないのも好印象。まあおまけの刑務所ミュージカルはボク的には蛇足でしたが。
「マナーが人を作る」と言ったのは同じく英国紳士映画(?)の『キングスマン』でしたが、この『パディントン2』で描いていたテーマも同じなのです。礼儀、礼節、親切は必ず自分へと返ってくる。常に誰よりもそれを重んじていたパディントンへのご褒美なのですよね。
人を偏見によって差別せず、常に礼儀と礼節をもって他者に接し、愛する人たちに惜しみない親切を贈る。マナーが人を、いやクマを作る。そうして作られた関係性は必ず自分へと還元される。パディントンが提示していたのは多様化する世界でのマナーだったのでしょう。
でもね、やっぱ無難な続編だよなぁ。珍しく吹き替え版で観たのがいかんかったのか?っていうか40前のおっさんがひとりで『パディントン』なんて観るもんじゃねーてか?うるせーバカ野郎!こちとらマナーのマの字もできとらんからなんも還元されてねーんじゃい!熊の手喰わすぞオラッ!
個人的評価:5/10点
DVD&Blu-ray
VOD・動画配信
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