『ガン・ファイター』感想とイラスト 現実に殺される正直者

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映画『ガン・ファイター』カーク・ダグラスのイラスト(似顔絵)

罪を背負ってメキシコへと逃れてきたお尋ね者と、彼を裁くため執拗に追い続ける保安官。ふたりは図らずも旅を共にし、同じ女を愛し、いつしか憎しみは消えたはずだったのだが、彼らには決定的な違いがあったのだ……。

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作品情報

『ガン・ファイター』

  • 原題:The Last Sunset
  • 製作:1961年/アメリカ/112分
  • 監督:ロバート・アルドリッチ
  • 原作:ハワード・リグスビー
  • 脚本:ダルトン・トランボ
  • 撮影:アーネスト・ラズロ
  • 音楽:アーネスト・ゴールド
  • 出演:カーク・ダグラス/ロック・ハドソン/ドロシー・マローン/キャロル・リンレイ/ジョセフ・コットン

参考 The Last Sunset (1961) – IMDb

解説

お尋ね者のギャンブラーと彼のことを追う保安官。対立するふたりがメキシコからアメリカへと牛1000頭を運ぶ道程を共にすることになるという異色の西部劇です。

監督は赤狩りを避けてヨーロッパへと渡っていたところを呼び戻された、『何がジェーンに起ったか?』のロバート・アルドリッチ。スタジオが求めたのは彼の傑作『ヴェラクルス』に比類する成功だったのでしょう。

主演は『フューリー』のカーク・ダグラス。共演に『セコンド』のロック・ハドソン、『風と共に散る』のドロシー・マローン、『バニー・レークは行方不明』のキャロル・リンレイ、『市民ケーン』のジョセフ・コットンなど。

脚本はカーク・ダグラスと『スパルタカス』で組んだダルトン・トランボ。『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』で映画化までされたハリウッド・テンの筆頭格にして不屈の男。おそらくはアルドリッチとも共鳴する部分があったと思われます。

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感想と評価/ネタバレ有

一般的にはアルドリッチの失敗作と見なされている本作『ガン・ファイター』。ゆえにソフト化も2009年に一度なされただけで、レンタルにもないときては容易に観ることが叶わず、ボク自身も未見の状態でした。それがこのたびまさかのBlu-ray発売ということでさっそく購入、さっそく観たのでさっそくレビュー。

うん、失敗作と見なされるのも理解できる異色の西部劇で、確かに何かと不満も多いのですが、アルドリッチのやたらめったら面白い娯楽性はきちんと担保されておりましたし、何よりどこか不可解さを残す本作には謎めいた魅力があり、観終わった今もおおいに頭を悩ませている次第。

ひどく捻じれたロードムービー

国境を越えてメキシコへとやって来たお尋ね者のオマリー(カーク・ダグラス)と、彼のあとを執拗に追いかけるテキサスの保安官ストリブリング(ロック・ハドソン)。オマリーの目的は今は人妻となったかつての恋人ベル(ドロシー・マローン)との再会にあった。

ベルの夫は酔いどれ牧場主のブリッケンリッジ(ジョセフ・コットン)で、オマリーにテキサスまで牛1000頭を運ぶのを手伝えと誘う。この誘いに乗ったオマリーは自分を追ってきたストリブリングをこの道程へと引き込み、対立する者同士が共通の目的のために行動を共にする奇妙な旅路が始まるのだった……ってのがこの『ガン・ファイター』の簡単なあらすじ。

敵対する者同士が図らずも旅を共にすることによって和解をしていくというよくある話ですが、その裏側で進行していくドラマはひどく複雑で捻じれております。

オマリーのかつての想い人ベルに寄せる変わらぬ想いと現実の彼女との距離。ベルと夫ブリッケンリッジとの不可解な夫婦関係。オマリーに惹かれていくベルの娘メリッサ(キャロル・リンレイ)。妹の夫を殺されたストリブリングの復讐心とベルへの募る恋心。

このややこしいねじれの構図からは悲劇的なニオイしか漂ってきませんが、映画自体はけっこう陽性です。それは人の陰と陽を併せ持ったようなカーク・ダグラス演じるオマリーの魅力によるところが大きいでしょう。華麗なダンスと歌声まで聞かせておりますから。

人殺しのお尋ね者でありながら、スタイリッシュな衣装に身を包み、歌を歌い、詩を詠み、情熱的に人を愛し、ストレートに、自分に正直に生きる男オマリー。融通の利かなさそうな堅物である保安官ストリブリングとは対照的であります。

そんな自由で情熱的で自分に正直な男オマリーが、今回の奇妙な旅路を通して現実による厳しい制裁を受ける映画と言ってもいいかもしれませんね、これは。

現実に裏切られる男

オマリーの求めるものはただひとつ。若き日に愛した女ベルを再びこの手に抱くこと。16年前に若さゆえに失った愛を再び取り戻しに来たということ。彼の目に焼きついた黄色いドレスの少女を、16年の歳月をへだてて迎えに来た犯罪級のロマンティシズム。

ゆえに彼はベルの夫ブリッケンリッジに、「この旅を無事終えたらお前の女房を寄越せ」という頭のおかしい要求を突きつけるのです。それを聞いて、「わははは!わかったわかった!おもしれーなお前!」と答える夫とベルとのあいだにもはや「愛」などという概念は存在していない現実がうかがい知れます。

そんな現実の前でも一途に彼女を求めるオマリーの情熱をやんわりと拒絶するベル。「あなたは何も変わっていない。でも私は変わった。私はもう黄色いドレスの少女ではなく大人の女。あなたはただあの頃の幻想を追っているだけ。現実を見ようとしていない」。

宿敵ストリブリングからも、「お前の妹の旦那は最低のゴミだったし、お前の妹は誰とでも寝るシリガールだった」と侮辱し、殴り合いになったとき、「妹はそのあと首を吊った」という衝撃の現実を突きつけられます。先住民との争いにおいても彼の有能さ、対して自分の浅はかさまで見せつけられる始末。

そしてとどめとばかりに目撃することとなるベルとストリブリングとの熱い口づけ。自分に正直に生きてきた男が現実によってことごとく裏切られていく屈辱ロードムービー。しかしそんな彼にも一筋の光が。彼に一途な想いを寄せるベルの娘メリッサの存在。

16歳の娘からの熱い求愛にややたじろぎながらも、彼女の情熱にほだされ、思い出の黄色いドレス姿に記憶を刺激され、いつしかメリッサを愛し、彼女とともに生きる決意を固めて今度はロリコン犯罪者となったオマリーのあまりに直情的な人生。

しかしそこでまたもや突き立てられる現実という名の厳しい切っ先。ふたりの行く末を案じたベルによる「メリッサはあなたの娘なのよ!」という真偽不明なとどめの一撃。この衝撃の告白が嘘か誠かは真偽不明だが与えるダメージは最悪最強。彼はこのときどういう決意を固めたのだろうか?

そしてついにやってきた落日の時。決闘の場へとゆっくり歩みを進めるオマリーとストリブリングのクロスカッティング。鳴り響く銃声。崩れ落ちるオマリー。駆け寄るベルとメリッサ。彼愛用のデリンジャーの薬室は空だった。

オマリーはついに現実を受け入れ、そのための犠牲となったのだろうか……。

赤狩りの記憶

自分に正直に生きてきた夢見がちな男が現実的に生きることを強要され、ついにはその現実なるもののために自らを犠牲に捧げる物語、それがこの奇妙な西部劇『ガン・ファイター』の真実の姿なのかもしれませんが、今なお不可解な謎は残ります。

なぜベルはオマリーに真偽不確かな衝撃の告白をしたのか?それを聞いてオマリーは本当に自ら死を選んだのか?オマリーへの憎しみが消えたストリブリングはなぜ決闘をやめなかったのか?銃に弾を込めた者と込めなかった者との違いは?どちらが正義でどちらが悪なのか?

不可解すぎて腑に落ちないところだらけなのですが、監督アルドリッチと脚本トランボに共通する重大要素、「赤狩り」を念頭に入れて考えてみるとおぼろげながら答えが見えてくるかもしれません。

自らの正直さを罪として国を追われたオマリーは赤狩りの犠牲者、つまりはアルドリッチでありトランボであるのは明白でしょう。ゆえに彼は人殺しのお尋ね者ではあるが、ただ純粋に人を、自由を、芸術を愛する、欠点も多いが魅力的な人物として描かれています。

かたや法に則って彼を追い続け、その人となりを知ることによって憎しみは消えたというのに決闘はやめることができない保安官ストリブリングの、面白みに欠ける堅物現実主義者的造形。決定的だったのは落日の決闘に際して、相手を殺さないために弾を込めなかったオマリーに対し、彼はしっかり死の弾丸を込めていたということ。

オマリーは自ら死を選んだというより相手を殺したくなかった。奇妙な旅路を通して仲間となったストリブリングを裏切りたくなかった。そんな彼を裏切ったストリブリングとベルの嘘。もうここは断言してしまおう。ベルの衝撃の告白は彼を止めるための偽証だ!

偽証、裏切り、不寛容によって裁かれる正直者の末路。鑑賞後に知った事実として、赤狩りのメインステージHUAC(下院非米活動委員会)の主任調査官がストリップリング(Stripling)という名だった事実を付け加えておきます。

そういやぁベルの夫ブリッケンリッジが酒場で吹っ掛けられた因縁も、明らかに赤狩りを象徴してましたよね。昔の仲間とおぼしき人物から背中を撃たれたわけだし。

しかしそういう優れた隠しテーマと面白さがイコールとはならないのが映画の難しいところ。ほかの傑作と比べたら失敗作と見なされても致し方ない甘さはありましたよね。でもね、それはアルドリッチのほかの作品がやたらめったら面白いから!もうやたらめったら面白すぎるからなのですよ!

個人的評価:6/10点

DVD&Blu-ray

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コメント

  1. マーフィ より:

    こんにちは。
    NHKBSの放送かなんかで偶然に見て結構好きだった記憶のある作品です。
    監督アルドリッチで脚本トランボとは知りませんでした!

    ベルのあれを偽証と断言するのは思い切った意見ですね。
    個人的にはベルがそこまでの恨みというのか復讐心を抱いているっていうのも、ロマンチックすぎる気もしますが、カーク・ダグラスほどの魅力ならそれもありうるのかもしれませんね。赤狩りの背景も加味すると説得力が増します。

    しかし、そうなると結構好きだったメリッサの「ずっとあなたを探していたような気がする」みたいな台詞の伏線が無意味に…。うーん、あれ、襲い来る因果って感じで好きだったんですが…。

    • スパイクロッドスパイクロッド より:

      マーフィさん、コメントありがとうございます!

      ギリシア悲劇的なメロドラマと考えるなら、やはりメリッサはオマリーの娘で因果は巡っていると考えるのが妥当だし、そのほうが映画としても締まるとは思うのですが、アルドリッチ&トランボの映画だと考えるとやはり深読みしてしまうというか、妄想が暴走しているというか、小さな違和感から大きな勘違いへと飛躍しているというか、「もしかしたら!」が加速してあらぬ方向へと流れていくのはボクの悪い癖ですね、はい。

      ジョセフ・コットン演じるベルの夫ブリッケンリッジが酒場で難癖つけられるシーンを観て、「あ!赤狩りだ!赤狩りだったら赤狩りだ!」と思ってしまってからはもうそういう映画だとしか観えなかったんですよね。自分でも妄想が飛躍しすぎだとは自覚しているのですが、いちど回転し出すと止まらない性分でして(笑)。でもあながち間違いではないような気も致しております。だってやっぱり赤狩りの映画だもん。

      • マーフィ より:

        うーむ、なるほど。
        何分、観賞時に監督脚本の二人をまったく意識していませんでしたし、あまり当時の赤狩り背景について詳しくないもので、ぼんやり観てしまったのかもしれません。
        なんだかもう一回そういう映画だと意識しながら観賞してみたくなりました!

        あと、悪い癖とおっしゃってる点についてですが、私的にはそれを楽しみにしているところが多分にございますので、どうかこれからも大きな飛躍をお見せください(笑)
        スパイク様の飛躍は根拠なしの妄想とはちょっと違いますしね。

        再度のコメント失礼しました。あれでしたら返信は不要です。

        • スパイクロッドスパイクロッド より:

          マーフィさん再度のコメントありがとうございます!

          昔に観た映画でも今の情報、知識で再見したらまた違った見方ができて面白いですからね。まあ逆もあるんですけどね。昔はあんなに面白かったのにいま観たらなんでこんなくだらねーんだ!ってやつが(笑)。

          まあボクの妄想癖は本人がこれが売りなんだと勝手に思ってやっておりますし、これを暴走させるのがブログやってる楽しみだとも思っておりますので、そう言っていただけると助かります(笑)。鬱陶しく思っている人もいるでしょうけどね(笑)。