地雷は踏まなくてもゲロを撒き散らしゃあサヨウナラ。そんな過酷なお仕事を強制されるクソナチ少年兵ども。貴様らはクズだ。人間以下のゴミだ。腹が減った?国に帰りたい?親が恋しい?未来だあ?お前らみたいなカスに未来など、未来など……みら………うわ~~~~ん!
作品情報
『ヒトラーの忘れもの』
Under sandet/Land of Mine
- 2015年/デンマーク、ドイツ/101分
- 監督・脚本:マーチン・サントフリート
- 撮影:カミラ・イェルム・クヌーセン
- 音楽:スーン・マルティン
- 出演:ローランド・ムーラー/ルイス・ホフマン/ジョエル・バズマン/エミール・ベルトン/オスカー・ベルトン/ミケル・ボー・フォルスゴー
予告編動画
解説
第二次世界大戦終結直後のデンマークを舞台に、ナチスによって大量に埋められた地雷撤去作業を強制されたドイツ人少年兵たちの過酷な運命を描いた、知られざる実話をもとにした戦争ドラマです。
監督はデンマークの新鋭マーチン・サントフリート。第89回アカデミー賞の外国語映画賞にデンマーク代表として出品されております。主演は『トレイン・ミッション』のローランド・ムーラー。共演は『ヒトラーへの285枚の葉書』のルイス・ホフマン、『ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮』のミケル・ボー・フォルスゴーなど。
感想と評価/ネタバレ多少
ひとりの男の荒い鼻息で幕を開ける本作。鼻息の主はデンマーク軍のラスムスン軍曹(ローランド・ムーラー)。彼の鼻息の意味は続いて映し出される、敗戦によって国へと帰るのか、もしくは捕虜として連行されているナチス敗残兵の群れによって明確になります。
そのうちのひとりが手にしていたデンマーク国旗を見て、軍曹は激高。そやつに強烈なチョーパンをかまし、マウントポジションで殴って殴って殴り倒します。「汚い手でその旗に触れるな!ここは俺の国だ!とっとと自分の国へと帰りやがれこのクソナチがっ!」
ナチス・ドイツによる5年間の占領から解放されたデンマーク。この映画のなかでナチスによる蛮行は何ひとつ描かれませんが、軍曹の抑えがたい憎悪のこぶしがすべてを物語っていると言えるでしょう。いくら憎んでも憎み足りない絶対悪としてのナチス・ドイツ。
ナチに情けは無用の長物
そんなナチスが連合軍上陸阻止のためにデンマークの西海岸へと埋めた200万個以上の地雷。軍曹は地雷撤去作業を指揮監督するため同地を訪れていたのです。そしてそれを実行するのは地雷を埋めた張本人であるナチスの捕虜たち。しかし彼のもとへとやって来た捕虜たちは予想だにしなかった面々でした。
参考 デンマークでの戦後地雷処理 – 蛇乃目伍長の「エアフォースの英国面に来い!」 Mk.2
15歳から18歳のドイツ人少年兵14名。捕虜の強制労働という時点ですでにジュネーヴ条約違反ですが、それに少年兵を従事させるだなんてもはや条約無視も甚だしい怒りの復讐戦以外の何ものでもありません。しかしいいのです。なんたってこいつらはクソナチなのですから。
まさかの少年兵派遣に若干は戸惑ったものの、軍曹の気持ちも同じです。こいつらはクソナチなのだから何をしてもよいのだ。人間のクズなのだ。自分で蒔いた種は自分らで刈り取ってもらうのみ。怒声、鉄拳制裁、飯抜き。人間以下のクズには情けなど無用の長物よ。
ゲロから始まるドカン
てなわけで、デンマーク中の人間から敵意むき出しの視線、罵声、時に鉄拳を喰らい続けるクソナチ少年兵14名。愛する祖国の、そして信頼していたリーダーによって彼らが背負わされることとなった責務のなんと過酷なことでしょうか。死と隣り合わせの終わりなき緊張感。
しくじれば即、手足や顔面が砕け飛ぶギリギリの命の綱渡り。なんというか天国のように美しいデンマークの砂浜で、ズリズリ這い進みながらある種の度胸試し、運試しを科せられているような彼らの姿は、天国と地獄の境界を這いずり回るウジ虫だとでも言いたいのでしょうか。
いや、しかし、それも致し方がない。だって彼らは憎っくきクソナチなのだから。自分たちの犯した罪は自分たちで償うのが道理。もちろん飯をねだるなんて百年早いわ。病気?非人のクソナチが病気になどかかるわけがない。仮病だろ?御託はいいからさっさと仕事しろ!
満足な食事も与えられぬまま、連日にわたって過酷な死と隣り合わせの地雷撤去作業に従事し続ける少年兵たち。こういう状況下では起こるべくして起こる最初のドカン。大量のゲロとともに鳴り響くドカンの轟音。ゲロと一緒にはじけ飛ぶ両腕。ゲロとドカンは一心同体……。
戦争が残した忘れもの
すべての発端は空腹に耐えかねたひとりが、近所の農家から腐った家畜のエサを盗んで皆に与えたことが始まり。これによって彼らは食中毒を起こし、発見した地雷の上に盛大にゲロを撒き散らし、集中力を切らして最初のドカンを巻き起こしたというわけ。
最初のドカンの発端がゲロだなんて皮肉にも程があります。いや、しかし、それでも、これはクソナチであるこやつらの因果応報………だなんてもはや言えるわけがなかろうが!祖国を思い、両親を恋しがり、健気に未来へと思いをはせる普通の十代である彼らに、これだけの責め苦を与える道理があるというのか!?
死の恐怖に怯えて「ママ」を呼び続ける少年はそれだけの罪を犯したというのか?国家的犯罪に対する憎悪、復讐心はどこまで拡大しても許されるのか?彼らは憎むべき相手、殺しても問題ない敵なのか?戦争は本当に終わったのか?これは被害者の仮面を被ったもうひとつの犯罪ではないのか?彼らは本当にクソナチなのか?
ナチスの蛮行を周知の事実としてあえて描かない本作は、善悪の、加害者と被害者の境界がひどく曖昧で、しごくまっとうな憎悪と、それが拡大していく先と、普遍的倫理観、怒りや恨みを超えた人の情という、戦争が残した忘れものに対する難題を我々観客に、そして主人公ラスムスン軍曹へと突きつけてきておるのです。
未来を生み出す赦し
余計なものはあえて説明しない非常に洗練された本作は、軍曹の過去や背景をことさら描くような野暮なことはいたしません。彼が冒頭で見せたナチスへの怒りによってすべてが説明されていると言っても過言ではない。そんな彼が怒りと倫理観と情のはざまで葛藤する姿。
戦争とは未来に対してさまざまな禍根を残すもの。デンマークに残された無数の地雷。それを撤去するために祖国へと帰れない少年兵。奪われた彼らの未来。侵略された側のぬぐい去れない憎悪。これらの禍根を一身に担ってもだえ苦しむ軍曹の出した答えとは?
少年兵たちとの衝突、動揺、交流の果てに彼が導き出した素直な人の情に従った赦しの決断には、いかにして報復という名の負の連鎖を断ち切るか、禍根を断つかのひとつの答えが示されており、これを実行する困難さは現在の世界を見れば一目瞭然ですが、憎しみからはけっして未来は生まれないのです。
ドカンは腋汗パラダイス
『ヒトラーの忘れもの』なんて、『トッド・ソロンズの子犬物語』に続く微妙にほっこり邦題を付けられてしまった本作ですが、戦争が残した容易には癒えない傷痕を、見惚れるほどの美しさと直視できない汚濁によって描き出した超絶ヘビーな傑作であった『地雷と少年兵』。
実はエンタメ的な尋常ではない緊張感に満ち満ちた作品であった事実も最後にご報告しておきます。地雷撤去というある種の度胸試し、運試しに対する緊張と緩和の演出が絶妙すぎて、そのタイミングと衝撃によってうれし恥ずかし腋汗パラダイスを発生させてしまうのは必至。
詳細に書かせていただいた最初のゲロドカンの素晴らしさは言うに及ばず、予告編としての訓練ドカン。いたはずの人物が突然神隠しに遭う人体消失ドカン。心地よい汗を流したあとの犬ドカン。少女救出作戦後のサヨナラドカン。そして最後の丸ごとドカン。
すべてのタイミングと衝撃が本当に最低最悪、つまりは最高の絶妙さで、このマーチン・サントフリートという監督の性格が良いのか悪いのかわからない緩急の妙には、ボクは金輪際「国に帰ってからの希望の未来は語らない!」と固く心に誓ったのでありました。
デンマークでもほとんど知らされることのなかった史実に基づいて作られた本作。この地雷撤去作業を強要されたドイツ人捕虜は2000人以上にのぼり、そのうち半数が命を落としたり手足を失ったとのこと。隠し通したい事実ではあるが、皆が知るべき事実でもある。
しかしこういう映画をデンマークとドイツの合作で作ったというのは非常に意味のあること。いつか我が国もかの国とこういう映画を作る日が来るのだろうか?両国にとってそれが望ましい未来のようにも思えるが、両国ともそんな未来は望んでいない可能性がなんとも……。
個人的評価:8/10点
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