僕のワニが、僕の獣性を刺激する。仕事なんてしてる場合じゃない。ほら、何も知らないウサギちゃんがまたやって来て、僕の内なる獣を呼び覚ますんだ……。
作品情報
悪魔の沼
- 原題:Eaten Alive
- 製作:1976年/アメリカ/91分
- 監督:トビー・フーパー
- 脚本:アルビン・L・ファスト/マーディ・ラスタム/キム・ヘンケル
- 撮影:ロバート・カラミコ
- 音楽:トビー・フーパー/ウェイン・ベル
- 出演:ネヴィル・ブランド/マリリン・バーンズ/クリスティン・シンクレア/ロバート・イングランド/ウィリアム・フィンレイ
解説
仕事もせずにぶつくさ暴れ回るモーテルの親父の狂気を描いたホラー映画です。1930年代にテキサスで実際に起こったジョー・ボール事件をもとに作られております。
監督は『悪魔のいけにえ』のトビー・フーパーで、これが記念すべきハリウッドデビュー作。主演は『ガン・ファイター』『マッドボンバー』のネヴィル・ブランド。共演にはマリリン・バーンズ、ウィリアム・フィンレイ、『エルム街の悪夢』のフレディことロバート・イングランドなど。
日本初公開時の原題は『Death Trap』。リバイバル時は『Eaten Alive』。これ以外にも『Horror Hotel』や『Starlight Slaughter』など複数存在。ややこしいですな。
あらすじ
テキサス州のとある田舎町。そこからさらに人里離れた場所に怪しくたたずむモーテル「スターライト・ホテル」。そこの管理人を務めるジャッド(ネヴィル・ブランド)は普段は温厚だったが、ひとたびタガが外れると何をしでかすかわからない危ない男だった。
やがてそのモーテルへとやって来るさまざまな事情を抱えた客たち。惨劇の予感を、沼のワニがじっと待ち構えているのであった……。
感想と評価/ネタバレ多少
『悪魔のいけにえ』で一躍脚光を浴びたトビー・フーパーが、意気揚々とハリウッドへと乗り込んで制作したホラー映画であります。
このたび土曜洋画劇場で放映された日本語吹き替え付きでBlu-rayが発売される運びとなり、これを購入するか否かの判断のため、タンスの奥から久々にDVDを引っ張り出してみた次第。
平凡のなかで輝く異端
低予算ゆえのほぼオールロケによるザラついたリアリティがたまらなかったデビュー作『悪魔のいけにえ』に対し、ハリウッドデビュー作であるこの『悪魔の沼』はほぼオールセットによる撮影となっております。
貧乏ゆえの苦肉の策が生み出した奇跡と、小銭をせしめたことによる安定がもたらした平凡。人生ってつくづくわからないものですよね。まあ嫌いじゃないんですけど。
セット撮影によってその他の安いホラー映画へと接近してしまったのは残念ですが、このトビー・フーパーという監督の頭のネジは変わらず少々いびつにひん曲がっており、逆にこの安っぽいセット撮影が妙な異化効果を生み出しておるというか、やはり普通ではないのですよね。
普通へと接近したからこそ異常が際立つというか。とりわけ登場人物の描き方がもう意味不明で面白いんです。
キチガイ祭り
おそらくは戦争によるPTSDをわずらったがゆえのキチガイである、ネヴィル・ブランド演じるジャッドおじさんのへつら笑い、意味不明なひとりごと、キレるタイミングとテンション、ワニへの異常な愛憎。
「たまたま泊まったモーテルの親父が変態だった」なんてベタなプロットではあるのですが、このジャッドおじさんのキチガイ描写があまりにも振りきれていて尋常ではありません。使用武器が大鎌というのもナイス。
このジャッドおじさんに負けず劣らずのキチガイぶりを見せつけてくれておるのが、『ファントム・オブ・パラダイス』の我らがウィンスロー・リーチことウィリアム・フィンレイで、ある意味ではジャッドおじさんよりやばい!
嫁である絶叫クイーン、マリリン・バーンズを執拗に責め立てられるダメ親父を演じているのですけど、かなりネガティブな方向へと振りきれたキチガイでして、嫁の攻撃に対する自虐的な返しなんてもう完全にイッちゃっております。目玉のくだりが最高ですよね。
こういう役を演じさせたら本当にウィリアム・フィンレイは上手いんですけど、嫁には弱いくせにその他には攻撃的な性格が災いして早々と退場。これは非常に惜しかった。キチガイ対キチガイの対決で引っ張っても面白かったと思うのですけどね。
ワニの必要性
惨劇とダレ場の反復運動がテンポを損なっているし、安いセットにケバケバしい照明などの舞台効果、ハリボテのワニ、絶叫のカットバックなどもありきたりなB級ホラーテイストなのですけど、微妙に距離をとった客観性がやはり何やら異質で忘れがたい作品であるのも事実。
定期的に観たいわけではないが、何かの拍子にふと観たくなる。そんな魅力のある怪作ではなかろうか?それならお前はBlu-rayを買うのかといったらまたそれは別の話で、財布と相談したら財布の奴に怒られてしまいましたので、当面のあいだはDVDで我慢。というか十分。
てな本音のポロリはとりあえず置いといて、何ゆえのワニなのか?「あれは人の獣性の象徴である」なんて安易な話はこれまた置いといて、ワニは本当に必要だったのか否かと問われれば、「いないよりはいたほうがいい」と答えるのが大人のたしなみだと思います。
個人的評価:6/10点
コメント
はじめまして。
いつも卓越された知識に基づくレビューを楽しく拝見させて頂いております。
ビデオナスティの中で一番大好きな作品でして、私にとってマリリンはモンローではなくてバーンズです。
I’m Backさん、はじめまして!
コメントありがとうございます!
いやいやもう映画を観て思いついたことをただ書いているだけなので、
事実誤認も甚だしい個所も多数あると思われます。
あとから気づいてこっそり訂正してたりしますから(笑)
そのへんに至らぬ部分はどうぞご容赦を。
I’m Backさんと同じくボクにとってもマリリンとはモンローではなく、
やはりこの絶叫クイーン、バーンズとなるわけであります。
2014年にお亡くなりになられたみたいで、残念です……。
通りかかりました。
私にとっても、マリリンと言えばバーンズです。
「いけにえから」僅か2年でフェロモンむんむんのセクシー人妻に変貌し、全然イメージ違いますね。
私はどちらかと言えば、「いけにえ」のパンタロンの田舎娘より、白いスリップにナマ足が色っぽい「沼」のマリリンがエロくてよろしいです。
スズムシさん、はじめまして!
コメントありがとうございます!
おっしゃるとおりマリリンといえばバーンズですよね♪
お色気むんむんに成長したマリリンは、
撮影当時トビー・フーパーの恋人だったらしいですけど、
劇中で彼女を脱がそうと撮影スタッフは躍起になっていたらしいですね♪
その目論みはあえなく挫折したようですけど、
全部脱いじゃうよりこっちのほうがエロいかも♪
悪魔の沼のブルーレイの情報探していたら、マリリンでこんなに盛り上がっている場に辿り着きました。私、彼女の『マニア』です。彼女のファンは、「沼」は必見と思います。「いけにえ」で拉致される彼女は食人一家の加工品の材料であるのに対し、本作は変態男の欲望の対象って時点で、フーパーの毒も倍増ですね。前作はノーブラのビッチですが、本作は吐息混じりにストッキングを脱ぐ場面、エレガントなスリップ等、『成熟した女性』を前面に出した演出が目立ちますが、『女性を拉致監禁する』という凶行の餌食となった彼女のピンチ度を高め、「いけにえ」とは違うエロチックな作風になったと思います。欲望を満たすために狙われるヒロインを『子持ちの美女』としたことで、えげつなさも倍増です。
監禁シーンはサディズムとエロチズムに満ちた、独特な雰囲気が出てますね。助けを呼べぬようにテープで厳重に口を塞がれ、磔にされた姿を連想させるポーズで身動き出来なくされた彼女がキモ親父と密室でツーショットになる展開、フーパーの変態度炸裂です。男女が××するベッドにあんなかっこで拘束されてるのもかなりHですが、必死にもがいている彼女の肉体の上下動がエロさ満点で鼻血が出そうです。監禁部屋は彼女のむんむんのフェロモンが充満して、えらいことになってそうです。
多分ジャッドが性行為に至る前に、マリリン嬢は救出されてるような気がするんですが、なんとなく「されてしまった雰囲気」も醸し出しているのも、不思議な感じです(それとも、ジャッドは目的を果たしてるんでしょうかね)。なんかすごい長文になってしまった・・・。
PUNPUNさん、はじめまして!
マリリンに対する熱い想いのこもった長文コメント、
実に楽しく拝見させてもらいました!
おっしゃるとおりこの映画の中のマリリン・バーンズはエロい!
絶叫するお子ちゃまだった『いけにえ』の頃とは雲泥のエロさです!
そのエロさの源はPUNPUNさんが書かれているとおりですけど、
この映画のミソは行為には及ばない、
または及べないということなのかなとも思っております。
エロいおねーちゃんを見るとすぐ欲情するジャッドですが、
いざ行為へと及んだシーンは存在しない。
これは要するにジャッドは性的不能者なのではなかろうかと?
エッチしたいのにいざとなると肝心な部分が役に立たない。
その欲求不満が殺人衝動を呼び起こしているとも考えられます。
いわゆるエロスとタナトスでありますな。
それゆえに行為へと及んだシーンは存在しないわけですけど、
それゆえのエロさ!これに尽きるかと思います。
ジャッド不能説は戦傷の為らしいですが、女に異常な興味を持っているのは間違いないでしょうね。当初はフェイを襲うことは考えてなかったと思うのですが、浴室のドアに耳を当てたところで、Hな妄想が膨らみ、他の客が留守の今なら襲えると気付いたのでしょう。ドア1枚隔て自分が狙われているとも知らず、無防備な姿になっていく彼女に興奮してしまいます。
フェイを失神させ、その場で欲望を満たそうとしたからでしょうか、乱入した彼は彼女を縛り上げ殴打しますが、娘に見られ計画が狂います。
外に出た娘を追い計画を邪魔されまいと必死ですが床下に逃げた娘に嬉しそうに施錠します。当分は母親を捕らえられる邪魔が無くなったからでしょうね。
フェイが捕らわれる場面、「逃げて!」と娘に叫びつつも、自分は追いつめられ絶望の表情を浮かべる彼女にグッと来ます。
監禁場面の冒頭が最高です。失神しベッドに横たわる彼女、スリップに包まれた豊かな胸、口を塞ぐ黒テープ等がグッと来るショットの後、ついに捕らえた彼女に大興奮のジャッド、縛られた自分の手足に気付き恐怖と絶望と屈辱の表情のヒロインの姿は、まさに「絶体絶命の美女」ですな。
彼女の姿態を舐めまわすようなカメラに観客もジャッドと同じような気分になるのでは?
しかし、間もなく計画が狂いだし、監禁中の女と床下の幼女の存在を必死に隠す名場面が展開されますが、残念ながら・・・。ここまで書いていると、「ジャッドがんばれ!あと一歩だ!」と応援してみたりして・・・。またも長文本当に失礼しました
!
PUNPUNさん、再度の長文コメントありがとうございます!
いや~本当にこの『悪魔の沼』とマリリン・バーンズがお好きなんですね!
思わずジャッドのことを応援してしまうという気持ちはよくわかります。
なんというかホントに憎めないいいキチガイなのですよね。
興奮しすぎて当初の目的を忘れてしまっているところなんかたまりません。
まあそのせいで最終的な行為へとは到達しないわけでありますけど。
嬉しそうに子供追っかけてる暇があったらさっさと母親をなんとかせい!
っちゅうわけではありますけど、そういうところがなんとも愛おしい。
マリリン・バーンズはこの作品以降、代表作がないのが残念でしたね。
もうちょっとこの路線で活躍してほしかった。
一年以上前の記事にコメントへの投稿失礼します。
本作は日本のホラー映画誌やネットの各種サイト等もストーリーの紹介と若干のコメント程度で、作品の存在も知らない人が多い中、豊富な知識を拝見出来て嬉しいです。
この作品の不思議な雰囲気とマリリン・バーンズの魅力に取りつかれ、海外のフーパーの解説本や各種サイトで本作を調べてますが(あ、英語力は皆無で、翻訳サイトに頼ってます)、本作は劇中の短いショットや小道具が、物語の展開を暗喩しているようなのです。
PUNPUNさんの指摘のとおり、悪魔のいけにえのサリーは性欲の餌食にされそうなのに、彼女は単なる「肉と骨」であることに対し、本作の女性の登場人物は性欲の対象とのことらしいです。ベッドの上のりネットの身体にバックが欲情している場面で交互に映る、ベッド上のフェイの身体は彼女向けられたジャドの欲望を暗喩し、また、ベッドに腰掛けるファイは夫から拳を突き付けられ、その後、ジャドに襲われて同じベッドに縛り付けられますが、ベッドは彼女に与えられる苦痛を象徴する象徴する小道具らしいですよ。
ところで、昔、キネマ旬報はベッドに縛り付けられ必死にもがくマリリンを「あの肉体の上下動はSEXの姿態を加速したもの」と書いており、我々は「見えない何かに凌辱されるマリリン」を観ていたことになるのですな。
ちなみに、この映画の意味深な小道具は、「ベッド」の他に「ジャッドの部屋の品々」と「猿」ではと感じました。
先ず、ジャドの部屋が映る場面、マネキンが下着姿のオブジェとして飾られ、女性の下着や靴等が散乱していますが、これまでに毒牙にかけた被害者のものであることが想像できますし、女性の下着好きな性癖なのかとも思ってしまいますが、これなら、フェイを下着姿のまま拘束した理由も納得です。なんたって生きたオブジェですもの。
そして、フェイ達が到着時、檻の中に捕らわたジャドの猿が死に、それを発見したフェイはジャドに「あなたの猿が死んでるわ」 と告げますが、これって、猿に代わり自分がジャッドに捕らわれてペットにされてしまうを展開を暗喩してるのでは?行為に及べない分、ハードお触りされたり、じっくり肢体を観察されるあぶない妄想をしてしまった。
娘が眠っていたベッドが数時間後には、下着姿の母親の身体を拘束するボンデージプレイの舞台になってしまいますが、やはりベッドは物語の展開に重要な役割を与えてます。フェイのもがく姿とベッドの激しいきしみ音が観客の脳裏に刻まれ、彼女の姿は映っていないのにミシミシ、ギシギシという「女体の重みの音」がモーテル館内に響く度に「彼女の肉体の上下動」が見えてくるという感覚がしましたが、私だけでしょうか?
マリリンのことに特化して作品の確信に触れませんでしたが、こんなアブノーマルな作品、一般策としてのリメイクは無理でしょうな。
メトロンさん、熱いコメントありがとうございます!
PUNPUNさんといいメトロンさんといい、この『悪魔の沼』に対する豊富な知識、見識、そしてマリリン・バーンズへのみなぎる愛情には正直驚かされております。おふたりに比べたらボクのこの映画、そしてマリリンに対する愛情は申し訳なくなってしまう程度のものでして、お恥ずかしいかぎりです。ただこの『悪魔の沼』が非常に性的な映画だというご指摘には賛同いたします。とりわけジャッドは性的不能者だとボクは確信しておりますので、彼の収集物や暴走行為が性的快感の代用であることは間違いありません。となると、この映画における直接的な性描写は意外に少ないものの、ガジェットや殺人にその暗喩が込められているということなのですよね。メトロンさんのコメントを読ませていただいて、そういう細部に対する興味がむくむくと沸き起こってきました。確認のために近いうちにでも再鑑賞してみましょうかね?