『プリズナーズ』感想とイラスト 神は許しても俺は許さねえ!

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映画『プリズナーズ』ジェイク・ギレンホールのイラスト(似顔絵)
最愛の娘を突然に奪われた父親の狂気の暴走。その姿はもはや悪魔そのものであるが、彼はこの悪行の果てに娘の奪還を確信し、神に祈ったのです。神は彼の行いをどう見たのでしょう?そして我々はどう見るべきなのでしょう?

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作品情報

『プリズナーズ』
Prisoners

  • 2013年/アメリカ/153分/PG12
  • 監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
  • 脚本:アーロン・グジコウスキ
  • 撮影:ロジャー・A・ディーキンス
  • 音楽:ヨハン・ヨハンソン
  • 出演:ヒュー・ジャックマン/ジェイク・ギレンホール/マリア・ベロ/テレンス・ハワード/ヴィオラ・デイヴィス/ポール・ダノ/メリッサ・レオ

参考 プリズナーズ – Wikipedia

予告編動画

解説

娘のために容疑者を拉致監禁拷問する父親の一途な想いは神の庇護のもとにあり、道化の異教徒によって救われる運命にもあるというやたらと宗教臭いサスペンス映画です。

監督は『メッセージ』と『ブレードランナー 2049』が今年控えるドゥニ・ヴィルヌーヴ。主演は『LOGAN/ローガン』のヒュー・ジャックマンと『ナイトクローラー』のジェイク・ギレンホール。共演にポール・ダノ、マリア・ベロ、テレンス・ハワードなど。

撮影監督と音楽を担当するのは『ボーダーライン』でもヴィルヌーヴとコンビを組んだロジャー・ディーキンスとヨハン・ヨハンソン。もはや盟友と言ってもよいでしょう。

あらすじ

ペンシルベニア州の田舎町。そこで小さな工務店を経営するケラー(ヒュー・ジャックマン)の娘アナが、感謝祭の日に友人の娘ジョイとともに忽然と姿を消してしまう。警察は現場近くで目撃されたRV車の持ち主、アレックス(ポール・ダノ)を容疑者として逮捕。

しかしアレックスは10歳程度の知能しかなく、まともな証言も得られぬまま証拠不十分として釈放されることに。怒りに燃えるケラーは釈放されたアレックスへと詰め寄り、彼が発した一言によってアレックスがこの事件に関与しているという確信を得ることに。

捜査を担当することになったロキ刑事(ジェイク・ギレンホール)はさまざまな角度から事件を捜査するものの、事態は一向に進展を見せなかった。業を煮やしたケラーはついに確信を行動へと移し、娘の居場所を聞き出すためにアレックスを拉致監禁するのだった……。

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感想と評価/ネタバレ有

2017年5月公開予定のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作品『メッセージ』へ向けての、ヴィルヌーヴ映画おさらい鑑賞企画第3弾。今回紹介するのは『灼熱の魂』で名を売り、満を持してハリウッドデビューを飾ったサスペンス・ドラマ、『プリズナーズ』であります。

前回の『灼熱の魂』ではネタバレを自重しておりましたが、今回は阿呆なりの詳細な解説、解釈も書いてみたいので、まず結末まで含めたネタバレ込みによる物語の流れを記させていただきます。ですので、未見でネタバレを嫌う方はどうぞここでお引き取りください。

物語の流れ

『プリズナーズ』の物語を起承転結で結末まで書き出しますので、重ねてネタバレを嫌う方は今すぐに退散してください。

起/娘の誘拐と容疑者

ペンシルベニアで小さな工務店を営むケラー・ドーヴァーは、妻・息子・娘を連れて友人のバーチ家で感謝祭を祝っていた。しかしそのさなか、両家の幼い娘、アナとジョイが行方不明になってしまう。警察は誘拐を疑い、不審なRV車の持ち主アレックスを拘束。

しかしアレックスには10歳程度の知能しかなく、証拠不十分により釈放。捜査は行き詰ってしまう。釈放されたアレックスを詰問したケラーは、「僕がいるあいだは泣かなかった」というアレックスの意味深な発言により、彼がこの事件に深く関与していることを確信。

承/ケラーの暴走

アレックスが娘の失踪事件に関与している確信を得たケラーは、彼を拉致監禁し、拷問によって居場所を吐かせようとするが、アレックスは否定するばかりだった。同じく娘を誘拐されたフランクリンを仲間に引き入れながら、アレックスに執拗な拷問を続けるケラー。

一方、捜査を担当するロキ刑事は性犯罪歴のある神父の自宅を捜索中に、地下室で椅子に縛りつけられたミイラを発見。神父が言うにはそのミイラは子供を何人も誘拐しては殺していた殺人鬼で、自分が殺したと証言する。

転/混迷する事件の行方

アレックスを尋問し続けるもののいまだに何も引き出せないケラー。一方ロキ刑事は、事件解決を祈る集会に現れた怪しい男を目撃し、情報提供を求めて似顔絵を公開。そんななか、不審な行動をとり続けるケラーにも疑いの目を向け出し、いたずらに時間だけが過ぎていく。

しかし事態は突如急転し、似顔絵の男、ボブ・テイラーが逮捕される。彼の住居からは血の付いた子供服、大量の迷路や蛇が発見されるが、確実な証言を得る前にテイラーは自殺。彼の残した迷路と、神父宅で発見されたミイラのネックレスとが一致することに気づいたロキ刑事。

一方ケラーもアレックスから迷路の話を聞き出し、ヒントを求めてアレックスの伯母宅を訪問するが、何も情報は得られなかった。そんななか、バーチ家の娘ジョイが保護されたとの連絡が入る。ケラーがアナの居場所について尋ねると、ジョイは驚くべきことを口にした。

「あなたもそこにいた」

結/真犯人との対決

ふたりはアレックスの伯母ホリーの家に監禁されていたと確信したケラーは、彼女の家へと急行。正体を知られたホリーは、夫とともに長年にわたって複数の子供を誘拐、殺害していた事実を自供するが、逆にケラーの足を撃ち地下室へと監禁。そこで彼は娘の赤い笛を発見する。

一方ロキ刑事は監禁されていたアレックスを発見。彼の無事を伝えるためにホリー宅を訪れ、そこで事件の真相をすべて悟ったロキ刑事は、アナを殺害しようとしていたホリーを射殺。自身も撃たれて深手を負ったものの、なんとか無事アナを救出するのだった。

事件は終結したものの、地下室へと監禁されたケラーは行方不明のままだった。深夜まで続くホリー宅の現場検証。皆が帰ったなか、ひとり物思いにふけるロキ刑事。自分も帰ろうとしたそのとき、微かに、本当に微かに、小さな笛の音が聞こえてくるのだった……。

ミステリーに寄生した宗教性

あらすじだけで字数を稼ぐ最も嫌いなレビュー形式になってしまいましたが、何かとややこしい話ですので致し方ありません。さてここからは自由にこの映画を解説、考察してみようと思いますが、すでに既出の情報も多数含まれていると思いますので、そのへんはご勘弁を。

まずはっきり申しまして、この『プリズナーズ』という映画、ミステリーとしてはけっこう穴だらけです。なぜそうなってしまったのかというと、謎解きよりも上位に位置している大切な要素があったからですね。それは何かと申しましたら、ズバリ「宗教」であります。

キリスト教における神と悪魔、善と悪の闘いを児童誘拐事件というミステリーに寄生させて描いておるのですね。ゆえにミステリー的整合性よりも、宗教的メッセージのほうが優先された映画というわけです。良くも悪くも非常に宗教臭い映画なわけです。

神への挑戦状

今回の事件の真犯人であるホリー・ジョーンズ。彼女はこの事件の動機を「神への挑戦」だと語っています。もともとは夫(神父宅で発見されたミイラ)ともども敬虔なキリスト教徒だった彼女は、最愛の息子を癌で亡くしたことをきっかけに神を呪い始めるのです。

そして「神への挑戦」と称して各地の子供をさらってきては監禁し、超絶まずそうなお手製ドリンク(おそらくは麻薬の一種)によってへべれけにし、これまたお手製の迷路を解けなければ無慈悲にも惨殺するという、悪魔の所業を長年にわたって繰り返していたわけです。

最愛の子供を失うという自分たちと同じ地獄をそれぞれの親に体験させ、神への不信をいだかせ、悪の道へと堕ちるように仕向ける。彼ら夫婦の周りに蛇が象徴的に配置されているのはそのためです。人間を悪の道へと誘惑する象徴、蛇=サタン(悪魔)というわけですね。

信じる者は救われる

悪魔に魅入られた哀れな子羊ケラー。突然、最愛の子供を奪われた彼は、ホリーの思惑どおり非情な悪魔と化していきます。娘の居所を聞き出すために容疑者を拉致、監禁、拷問するというまさに悪魔の所業を、「娘のため」として妄信的に実行してしまう彼の狂気。

しかし面白いことに、ケラーの妄信的狂気はあながち間違ってはいなかったのです。アレックスは犯人ではなくむしろ児童誘拐の被害者だったわけですが、彼とこの事件との関係性を本能的に察知し、信じ抜き、拷問し続けたことがこの事件を解決へと導いたという皮肉。

つまりこれはどういうことかというと、「信じる者は救われる」ということなのです。常に「最悪の事態」に備えていた敬虔なクリスチャンであるケラーという男は、神のお告げに従って方舟を作ったノアと同じ。それが正しいことなんだと信じ、実行したのです。

たとえそれが社会的、倫理的に間違った行為だったとしても、ある種のお告げ、直感を信じ、そうすることによって娘が救われるのだと最後まで信じ続けた。哀れな青年を徹底的なまでに痛めつけて。常識的に見れば完全に狂気の沙汰であるが、信仰的にはこれで正しいのです。

神と悪魔の代理戦争

最愛の子供を失うという人生の不条理は、理不尽な神による試練の一環なのかもしれません。信仰心を試すために仕組まれた神による不条理。この不条理に耐えられなかったホリーたち夫婦は、信仰を捨て去り、悪魔に魂を売り、神へと戦争を仕掛けたのです。

彼らからのいわれなき挑戦により、有無を言わせずこの代理戦争の渦中へと放り込まれたのが主人公ケラー。ケラー対ホリーの構図は、そのまま神対悪魔となり、彼は善悪のはざまでその信仰心を試されるのですが、最後まで神の名のもとに己を信じ続けたのは前述したとおり。

ところでこの神と悪魔の代理戦争は、実はすでに一度行われているのですよね。小児性愛者の呑んだくれ神父と行方不明になったホリーの夫とのあいだで。神への挑戦の一環として、あえてこの神父をターゲットに罪を告白することによって信仰心の揺さぶりをかけたのでしょう。

結果は皆さんがご覧になったあのミイラです。あの神父が呑んだくれてしまった理由はおそらくここにあると思うのですけど、ケラーと同じく罪を犯してでも自らが信じる信仰心のもとに正義を行った。矛盾しておりますが、殺人という罪によって神の正義を守ったのです。

鍵を握る異教の神

てなわけで、神と悪魔の代理戦争は神側の連勝に終わるわけですが、善悪や宗教、信仰といったものとはひとり離れた位置に立つ、現実的で、理性的な異教徒=ロキ刑事がすべての運命を握っているというのもまたこの映画の面白いところであります。

ロキは初登場時から干支の話をしており、全身に彫られた入れ墨(指のタトゥーは『狩人の夜』のロバート・ミッチャムへのオマージュかな?)、フリーメイソンらしき指輪、北欧神話から取られたとおぼしき名前など、非キリスト教的存在であることが示唆されています。

ゆえに彼はキリスト教的な神の庇護化にはおらず、どれだけ優秀だとしてもこの映画のなかにおいては事件の真相へは辿り着けない狂言回し、または道化のような存在なのです。しかし彼なくしてはアナは救出されなかったし、ケラーの運命も彼が握っている。

キリスト教における神と悪魔の対決の最終的な鍵を握っているのが、異教の神だなんてなかなか面白いバランス感覚ではないですか。北欧神話に登場するロキの名前には「終わらせる者」の意味があるようなので、最後のおいしいところは異教の神に譲ったのかしれませんね。

神が作りしこの世界

『プリズナーズ』というタイトルどおり、さまざまな囚われ人が登場する本作。物理的に誘拐監禁された少女たちはもちろんのこと、主人公のケラー、真犯人のホリー、容疑者であり被害者でもあったアレックスやテイラーも、皆なんらかのかたちの囚われ人なのです。

信仰に、復讐心に、過去に、運命に囚われた人間たち。彼らを捕らえ、操り、時に試練を、時に赦しを与えているのがほかならぬ神なのかもしれませんね。人知を超えた存在によって運命をもてあそばれた不条理なこの世界。それを浮き彫りにするのがこの作品の狙いなのかな?

神の手によって作られたこの世界は不条理きわまりないが、その不条理さも含めて神は神であり、信じるに値する。やっぱりこの映画は我々日本人には馴染まない傑作なのだと思います。神だ悪魔だ信仰だと騒ぐ前に、まず人としてやって良いことと悪いことがあるのですから。

善悪を超える神の御名において行われた真理だなんだと御託を並べたところで、まずその前提となる神を信じていない我々にとっては単なる結果論に過ぎません。とりあえず、「そのデコチンが床にめり込むぐらいアレックスに詫びを入れろや!」って話なのですよね。

個人的評価:7/10点

DVD&Blu-ray

VOD・動画配信

『プリズナーズ』が定額見放題なおすすめ動画配信サービスはU-NEXTNETFLIX(2019年1月現在。最新の配信状況は各公式サイトにてご確認ください)。

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コメント

  1. 拷問シーンがハンパなかったですね(^_^;)
    相変わらず絵が最高ですね!
    一度来たら忘れられないブログです。

    • スパイクロッドスパイクロッド より:

      いごっそう612さん、コメントありがとうございます!

      あの半端ない拷問シーンを見ても彼を支持できるかどうか?我々観客も試されているのですよね。ボクがあの行為を許せないのは記事本文に書いたとおりで、神への庇護下には置いてもらえない落第生確定であります(笑)。

  2. らびッと より:

    この作品は俳優陣も豪華ですよね。
    灼熱の魂が認められたからかもしれませんが、これだけ適材適所にいい役者を集められたなと思います。

    • スパイクロッドスパイクロッド より:

      らびッとさん、コメントありがとうございます!

      ハリウッドデビュー作にしてこのそうとうな顔を並べてきたということは、『灼熱の魂』で多くの俳優の心をつかんだということでしょうね。とりわけ強烈なインパクトを残したのはポール・ダノ!もはや途中からはポール・ダノなのか誰なのかわからない風貌となっておりましたが(笑)、彼はこういうイライラキャラを演じさせると抜群にハマりますよね!ああ~早く『スイスアーミーマン』が観たいよ!