『ザ・ゲスト』感想とイラスト イケメンに教えられる自己愛

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映画『ザ・ゲスト』ダン・スティーヴンスのイラスト(似顔絵)

ある家族のもとに現れた謎のイケメン。得意のニヤリを武器に家族を懐柔していくイケメンの真意とは?その正体とは?男は彼らに教えに来たのだ。なんじ己を愛しなさい。右の頬を打たれたらすかさず相手の左頬にクロスカウンターをねじ込み、チョーパンをかまし、四肢をへし折り、自身の安心安全平和を願いなさい、と。

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作品情報

ザ・ゲスト

  • 原題:The Guest
  • 製作:2014年/アメリカ/100分/R15+
  • 監督:アダム・ウィンガード
  • 脚本:サイモン・バレット
  • 撮影:ロビー・バウムガートナー
  • 音楽:スティーヴ・ムーア
  • 出演:ダン・スティーヴンス/マイカ・モンロー/ブレンダン・マイヤー/シーラ・ケリー/リーランド・オーサー/ランス・レディック

参考 ザ・ゲスト – Wikipedia

予告編動画

解説

イラク戦争で息子を亡くした一家のもとに現れた、息子の戦友だと名乗る謎の男。礼儀正しく、家族のために助力を惜しまない姿に心を許していく一家だったが、男には家族の知らない恐ろしい秘密が隠されていたというアクションスリラーです。

監督は『サプライズ』で注目され、2020年にはモンスターバースの4作目『ゴジラVSコング』も控えるアダム・ウィンガード。脚本は『ブレアウィッチ』までのすべての作品でタッグを組んだ盟友サイモン・バレット(出世階段をのぼるにあたって捨てられたのかな?)。

主演は本作を経て『美女と野獣』の野獣役に大抜擢されたダン・スティーヴンス。共演には『イット・フォローズ』のマイカ・モンロー、『ブルー・イグアナの夜』のシーラ・ケリー、『96時間』のサム役で知られるリーランド・オーサーなど。

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感想と評価/ネタバレ多少

前回紹介した『サプライズ』が思いのほか面白く、「も、もももっと!もっと人体を破壊して!」と禁断症状が表れたので、同じく未見であったアダム・ウィンガード監督作品『ザ・ゲスト』をハシゴ鑑賞してしまいました。

主演は我々ブサメンの生涯の敵であるイケメン俳優ダン・スティーヴンス。『誘拐の掟』を観たときからボイド・ホルブルック(『ザ・プレデター』)とともに注目していたクソイケメンぶりで、のちに『美女と野獣』の野獣役に抜擢されたのも納得の面構え。チキショー!ぶっ殺してやりたくなるほどいい男じゃねーかよ!

イケメンに教えられる自己愛

イラク戦争で長男ケイレブを失ったピーターソン家。そんな悲しみから立ち直れずにいる家族のもとに、ケイレブの戦友だと名乗る男デイヴィッドが現れる。ケイレブの最期の言葉を伝えに来た彼の優しさ、礼儀正しさを気に入った一家は、行く当てのない彼をしばし自宅に滞在させることに。

どこか謎めいた雰囲気をもちながらも、家族の問題に助力を惜しまないデイヴィッドはいつしか皆の心をつかんでゆくのだったが、実は彼には家族が知らないある恐ろしい秘密が隠されていたのだった……ってのが簡単なあらすじ。

最愛の息子を失った家族のもとに現れた謎のイケメン。母に息子の「愛してる」という最期の言葉を届け、父親の愚痴を聞いてやり、次男をイジメるグソガキを叩きつぶし、長女に鍛え抜かれたシックスパックを見せつけ、いつしか家族全員を懐柔していく無敵のイケメンやりたい放題し放題。

はたしてこの男は何者なのか?目的は?いい奴なの?それとも悪い奴?亡き息子の親友だと名乗る謎めいたイケメンの正体や如何に?という疑心で物語を転がしていく『ザ・ゲスト』。たいていは善人の皮を被った悪人だったというオチが常套ですが、本作はちと異なります。

まあ善人とは言えんけど、かといって悪人とも言いきれん。確かに嘘つきではあるけど、彼の言動には一面の真理があるようにも思える。血も涙もなさそうではあるが、ピーターソン家に対する想いは本物のようにも見える。おまけに天下無敵のイケメンと来たもんだ。

彼の印象から正体を、どこかつかみどころのない曖昧さで描いたのが本作の肝。単純に善と悪で割り切らない、すべてを明確にはしない余白の存在。そんな正体不明の不気味さ、とらえどころのない魅力、ある種の滑稽さを、天下無敵のイケメンに演じさせたのが面白い。

前作の『サプライズ』では恐怖の、人体破壊のギャグ化が行われておりましたが、今作では正体不明のイケメンという存在のギャグ化が断行されておるのです。そう、イケメンとはイケメンであればあるほどイケメンクラスに滑稽なのだ!というブサメンにとっての真理。

もはやイケメンが樽を担いでるだけでも面白いのだ!ちょっと待て、そげな程度で笑いを取られてしまっては、我らブサメンに勝ち目はないぞ!そうなのだ、この映画は我らブサメンがイケメンを笑いながら、実は完全敗北していた事実を突きつけてくる残酷な鏡なのだ。

顔も体も笑いでも勝てねーのかよ……。ああ~俺はなんてダメなんだ、なんて弱い男なんだ、だから今日も腹具合がぁ……と肛門を抑えて便所へと爪先立ちでツツツッと小走るブサメンを捕まえ、「自分を守るために戦え」というありがたい説教をくださるイケメン先輩(早く便所に行かせてください)。

そう、本作の主人公デイヴィッドの行動原理とは、「自分を守るために戦え!」というしごくまっとうな究極自己保存プログラムにあったのだ。その考えは圧倒的に正しく、不幸だったのは予期せぬ事態に不測の発動をしてしまったから。デイヴィッドは自分を守ろうとしただけなのだ。

自分を守り、それを庇護する存在も全力で守るために戦うイケメン。ああぁ、彼はやっぱりいい奴だったんだ。ただ、いい奴ではあるけど血も涙もなかっただけ。倫理的な善悪と、いい奴か悪い奴かはまた別の話だからね。ピエール瀧だって、いい奴だろ?

電グル復活の願いを込めた1980年代的エレポップが鳴り響くなか、自己保存の優先順位に従って良い奴も悪い奴もまったく関係ない奴も皆殺しにするデイヴィッドの雄姿は、正直アクション演出はヘタクソだけど実に愉快で、痛快で、爽快な善悪の崩壊です。

そんな境界を超えた究極自己保存殺戮マシン、デイヴィッドの魅力にもはやゾッコン♡ブサメン、イケメンに懐柔される。ハロウィンパーティの会場で展開されるクライマックスも、『サプライズ』同様に音楽の使い方が絶妙で、『燃えよドラゴン』まで模倣するサービス満点の軽薄さ。

『ターミネーター』と『ハロウィン』から影響を受けて製作されたという本作。そのノリはあの時代のジャンル映画のいいとこ取りで、音楽も含めてとにかく軽薄なのがいい。『ドライヴ』との共通点もなにげに多いけど、オサレとは程遠いチープさが逆に本作の武器だよね。

オチもベタだけど、ここで余白が効いてくるのだ。いやホント「よくやった」と思うよ。ネトフリ版『デスノート』はすこぶる評判が悪かったみたいだけど、このアダム・ウィンガードって監督、いまさらながら注目じゃないの?このまま軽薄に突き抜けてほしいなぁ~。

個人的評価:6/10点

DVD&Blu-ray

VOD・動画配信

『ザ・ゲスト』が定額見放題なおすすめ動画配信サービスはU-NEXTプライム・ビデオ(2019年5月現在。最新の配信状況は各公式サイトにてご確認ください)。

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コメント

  1. らびッと より:

    アダム・ウィンガードはネットフリックスのデスノートは確かにあれでしたがブレア・ウィッチはブレア・ウィッチ・プロジェクトの正当な続編といっていい出来でした。
    日本で見られるのだとビューティフル・ダイは初期の頃の作品としてアダム・ウィンガードの作風がよく感じられる映画でした。
    どこかチープさを感じるこれくらいの作品がお得意の監督というイメージなのでゴジラVSコングのような大作でどうなるのかは未知数なところがありますね。

    • らびッとさん、コメントありがとうございます!

      このアダム・ウィンガードって監督は、いい意味での軽薄さを武器としたB級映画でこそ味が出る監督のような気がしますので、やはり『ゴジラVSコング』はちょっと不安ですよね。モンスターバースとしても、ウィンガードとしても果たしてこれがよい選択だったのかどうか?完成する前から心配をしても仕方がありませんが、いい監督だと思うだけに進む道を間違っては大きな落とし穴が待っているぞと、B級好きとしては心配でならないのであります。