「けんかをやめて~ふたりをとめて~」と、ほほえみさわやかカナリー・ガール並みの歌声で思わず仲裁役を買って出たくなるような、スーパーヒーロー同士のそんな悲しい「シビル・ウォー」。
作品情報
『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』
Captain America: Civil War
- 2016年/アメリカ/148分
- 監督:アンソニー・ルッソ/ジョー・ルッソ
- 脚本:クリストファー・マルクス/スティーヴン・マクフィーリー
- 撮影:トレント・オパロック
- 音楽:ヘンリー・ジャックマン
- 出演:クリス・エヴァンス/ロバート・ダウニー・Jr/セバスチャン・スタン/スカーレット・ヨハンソン/ダニエル・ブリュール
参考 シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ – Wikipedia
予告編動画
解説
スーパーヒーローたちが世界の平和そっちのけで壮絶な内ゲバを展開するアクション超大作です。『キャプテン・アメリカ』シリーズの3作目にして、「マーベル・シネマティック・ユニバース」の通算13作目、フェイズ3の第1弾となります(ややこしい)。
監督は『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』から引き続きルッソ兄弟。主演はクリス・エヴァンス。共演にロバート・ダウニー・Jr、セバスチャン・スタン、スカーレット・ヨハンソン、ジェレミー・レナーなどのいつもの面々。
今回の新顔は『ラッシュ/プライドと友情』のダニエル・ブリュール、『キング・オブ・エジプト』のチャドウィック・ボーズマン、『白鯨との闘い』のトム・ホランド、『レスラー』のマリサ・トメイなど。
あらすじ
ナイジェリアでの任務中に一般市民の犠牲者を出してしまった、キャプテン・アメリカ(クリス・エヴァンス)率いるアベンジャーズ。これによって国際社会からの批判が高まり、彼らを国連の管理下に置く「ソコヴィア協定」が提出される。
ウルトロンの一件が心に残るトニー・スタークことアイアンマン(ロバート・ダウニー・Jr)は真っ先に賛同。幾人かのメンバーはこれに追従するが、キャップは自分たちの活動を縛りかねないこの協定に強く反対。メンバーの意見は二分してしまう。
そんななかで行われたソコヴィア協定の署名式。しかしこれを狙った爆破テロが発生。演説中のワカンダ国王を含む多数の犠牲者を出してしまう。しかもこの事件の容疑者として浮上したのは、キャップの旧友で姿を消していたバッキーであった!
感想と評価/ネタバレ多少
「マーベル・シネマティックス・ユニバース」にも、「アベンジャーズ」にも、「キャプテン・アメリカ」にもさして興味がないただの映画好き。ゆえにどちら派でもない通りすがりの一見さん。そんな覗き屋がこの『シビル・ウォー』をどう観たか?
前作の『ウィンター・ソルジャー』は非常によかった。あれを撮ったルッソ兄弟(まだ性転換はしていない)が続投するのなら、ジョス・ウェドンなんかよりはるかに期待できる。一見なりの期待をもって観たこの映画、それではさっそくその感想をば。
ヒーロー間の兄弟喧嘩
『シビル・ウォー(内戦)』というタイトルが示すとおり、アベンジャーズ内、スーパーヒーロー同士の内輪もめを描いたこの映画。ゆえに悪役は存在しない。事態を画策した黒幕はいるが、彼は倒すべきヴィランではない。敵は内にこそあるのです。
この内戦、というか内ゲバ、というか一種の兄弟喧嘩が勃発してしまったきっかけは、アベンジャーズという強大な力を有する集団にストッパーを設けるか否か?という、自分たちの大きすぎる力の管理に端を発しています。
政治に縛られない正義を迅速に実行するために独立した存在であるべきだと主張するキャプテン・アメリカ。対して、自分たちの正義が暴走しないようなんらかの機関による抑制が必要だと訴えるアイアンマン。意見が二分してしまうアベンジャーズ。
ここで面白いのが、本来お前らは逆の立場だったのではないか?という事実です。組織のもとで力を発揮してきたキャプテン・アメリカ。対して組織に縛られることを嫌ってきたアイアンマン。ではなぜ彼らの考えは変わってしまったのでしょうか?
組織と自分への不信
すべてのクロスオーバー作品を観ているわけではない通りすがりの一見さんが偉そうにのたもうてみますと、それはこのふたりのヒーローが過去の作品で受けたある種のトラウマが原因だと思われます。はい。要するに一見さんお断りなのです。
大きな組織のもとで戦い続けてきたキャプテン・アメリカが、その組織から受けた忘れられない裏切り。組織に縛られることを嫌って独自で動き続けてきたアイアンマンが、『エイジ・オブ・ウルトロン』で招いた未曽有のマッチポンプ事件。
組織を信じられなくなったキャップと、自分を信じられなくなったアイアンマン。これによってふたりの立ち位置は逆転してしまったのです。そして平和そっちのけで繰り広げられることになる最悪の仲間割れ。いい加減にしなさいよあんたたち。
はた迷惑すぎる超個人的内戦
本来は協力して世界の平和を守るために使うこぶしをもって、意味のない、報われない、悲しいどつき合いを繰り広げるスーパーヒーローたち。世界そっちのけ。平和そっちのけ。一般人そっちのけのこれまた何やってんだかマッチポンプ事件。
基本的に「大義」という言葉は大嫌いなのですけど、このヒーロー間内戦にはあまりにそれが欠けている。結局のところすべてが個人的な動機でありますから。なんだかんだでバッキーLOVEなキャップ。弱い自分とトラウマに縛られているアイアンマン。
ついでに事件の黒幕も超個人的な動機。大きいようでとっても小さいいざこざ。ただそのいざこざを起こしているのがとんでもない力の持ち主だから始末に悪い。ホント迷惑だからあんたたちちょっとそこに座ってお茶でも飲みながら話し合いなさい。
なんて老婆心から思わず忠告したくなっちゃうような悲しい兄弟喧嘩。話せばわかる。話せばわかるんだけど、なまじ力の強すぎる奴は話す前にまず殴っちゃうのね。んでもって力の強い奴はエゴも強い。たまには折れなきゃ友達いなくなっちゃうよ。
進化形スーパーヒーロー映画
スーパーヒーロー同士が己の正義、信念に従って殴り合う悲しい喧嘩。これを良しとするか悪しとするかは、このシリーズ、キャラクターに対する思い入れが左右するかと思いますので、ただの映画好きである通りすがりの一見さんにはどっちでもいい話。
ただこのなんともやりきれない思いはけっこう捨てがたい。倒すべき相手が不在なスーパーヒーロー映画。これってかなり挑戦的な試みですよね?事態にそれなりの決着がついてもカタルシスが皆無なのですから。残るのはやりきれない思いだけ。
この映画に勝利者はいない。全員が心に何かしらの傷を負い、後悔にさいなまれ、やりきれない思いを抱えてそれでも前へと歩みを進めなければならない。しんどい話ですわ。特にアイアンマンことトニー・スタークの傷心には今後が心配になるほど。
つい先日観た『ズートピア』の進化形ディズニー映画にも驚いたのですけど、この『シビル・ウォー』の突っ込み加減も相当なものですよね。いよいよスーパーヒーロー映画もここまで来たのか。もはや単純な勧善懲悪ものでは勝負できんのかもしれませんね。
アクション映画としての底力
んなわけで、内輪もめでガチャガチャやってる物語には少々置いてけぼりを喰らい、痛み分けのドラマにはやりきれない哀切を覚えるという、どっちつかずのこんがらがった感想と相成りましたが、忘れちゃいけないこれってアクション映画なのです。
その点に関しては見事としか言いようがありませんでしたね。ことアクション演出に関してはジョス・ウェドンなんぞよりルッソ兄弟のほうがはるかに上。でっかい派手な戦闘を描くというよりかは、地に足の着いたリアリズム描写に長けておるのです。
肉体の躍動感、ぶつかり合い、軋み、そして痛み。そういう意味では売りであるスーパーヒーローバトルロイヤル祭りよりも、激走チェイスシーンと、クライマックスの悲しいどつき合いのほうが、臨場感、迫力、痛みがあってボクは好きですね。
まあ祭りは祭りで嫌いではない。今作ではまだまだオマケキャラ的扱いであったアントマンとスパイダーマンにも、きっちりとそれなりの見せ場が用意されておりましたから。特にアントマン。大活躍を見せたあとの「あんた誰?」が小者感満点で泣けたね~。
個人的評価:6 /10点
DVD&Blu-ray
VOD・動画配信
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コメント
こんばんは。
アメコミは嗜む程度ですが、僕がお子様だった二十年前にバットマンvsスーパーマン(コミック。映画とは≠)で老いた二人が正義の在り方巡って街を破壊しながら暴れて、挙句スーパーマンがバットマンに「老いても私にはスーパーパワーがあるが、人間の君はもうただの老人だ。君では私には勝てない。諦めろ」とか言って大喧嘩してまして、確かにそうやけど……とションボリしたのを思い出しました。バットマン死んじゃうし。
なもんでこの手のストーリーには乗れない……。だって悪党より街破壊してるもの。
アクション描写自体は大好きですけどね!
小悪党出身のアントマンと!
ジャスティスの誕生の感想も読ませてもらいました。
あれなら昔のコミックス版のがまだ良かったかなー。
でも基本的にアメコミ映画はアクションさえイカしてればいいのだ!
(눈_눈)さん、コメントありがとうございます!
正義の名のもとの破壊行為。「それを言っちゃあおしまいよ」って話なのですけど、年とってくると言いたくなるんですよね(笑)。自分たちの正義のために、守るべき対象そっちのけで喧嘩をおっぱじめるスーパーヒーローってホントに大人げないですよね。『ウォッチメン』みたいにより大きな正義のために悪へと堕ちていくという展開ならわかるのですけど、こいつらはまだまだ志が低すぎますわ。そういえば『ウォッチメン』はザック・スナイダーでしたね。あれが撮れるんだからお前はもうちょっと頑張れよ!