史上最も長く観測された最も信憑性の高いポルターガイスト現象「エンフィールド事件」。これはその真と偽を問う映画であり、ひいては信と疑でもあり、その先に開けるのは信頼と絆と勇気、そして愛であり、おっさんはオイオイと泣くのであります。
作品情報
『死霊館 エンフィールド事件』
- 原題:The Conjuring 2
- 製作:2016年/アメリカ/134分/PG12
- 監督:ジェームズ・ワン
- 脚本:チャド・ヘイズ/ケイリー・W・ヘイズ/ジェームズ・ワン/デヴィッド・レスリー・ジョンソン
- 撮影:ドン・バージェス
- 音楽:ジョセフ・ビシャラ
- 出演:ヴェラ・ファーミガ/パトリック・ウィルソン/フランシス・オコナー/マディソン・ウルフ/サイモン・マクバーニー/フランカ・ポテンテ
予告編動画
解説
1977年、イギリスはロンドンのエンフィールドの一軒家で発生し、史上最も長く観測されたポルターガイスト現象の解明へと挑む超常現象研究家ウォーレン夫妻の闘いを描いた、これまた実話をもとにした『死霊館』シリーズの正当なる第2弾。
参考 エンフィールドのポルターガイスト – Wikipedia
監督は前作に引き続いてジェームズ・ワンが務め、主役のウォーレン夫妻を演じるヴェラ・ファーミガとパトリック・ウィルソンも続投。共演は『A.I.』の母親役で知られるフランシス・オコナー、『バーバラと心の巨人』の主役に抜擢されたマディソン・ウルフなど。
感想と評価/ネタバレ多少
『死霊館』シリーズ全作レビュー企画第3弾。今回ご紹介するのは第1作の正当なる続編である『死霊館 エンフィールド事件』。世界最長のポルターガイスト現象へと挑んだウォーレン夫妻のガチファイトをまさかの涙腺崩壊で描いた泣けるホラー映画であります。
前作も恐怖の根幹に家族のドラマを据えておりましたが、今作はもっと踏み込んで、不信と喪失に怯える恐怖の果てに勝ち取る信頼と絆と勇気を描いており、意外と涙もろいおっさんはオイオイと心の小便を垂れ流すのであります。はい、最近頻尿ぎみなのであります。
アミティヴィルとエンフィールド
前作のラストとのつながりを意識してか、いきなり『悪魔の棲む家』のあの象徴的な窓から侵入してのシンメトリーで語られる「アミティヴィルの恐怖」。律義というか巧みというか先人へのマナーと挑戦というか、いきなりジェームズ・ワンのやる気満々を感じさせます。
参考 オーシャン・アベニュー112番地 – Wikipedia
戦慄の実話という触れ込みで映画化もされながら、のちにその真偽が問われいまやペテンとしての見方が定着している「アミティヴィルの恐怖」。これを冒頭で語り、本作「エンフィールドのポルターガイスト事件」と関連づけてきたのは、この映画が真と偽、もしくは信と疑を問う映画であることを暗に示す見事なる導入部。
そんな呪われた眉唾一家惨殺事件を忠実にトレースしていくロレインのガシャンコアクションにも痺れますが、ここで最も重要なのは悪魔のシスターによって彼女が植えつけられてしまった喪失のビジョン。その恐怖へと立ち向かう勇気と信頼の映画でもあるわけです。
怖さよりも巧さが光るジェームズ・ワンの見事な手腕。少女の狂言とも思える怪現象の真偽を確かめるという図式も、偉大なる先例『エクソシスト』を意識しながらそれに対するアンサーとなっているのは明白で、すでに心のうれションが漏れ出しそうな勢いであります。はい、最近頻尿ぎみでありまして。
ジェームズ・ワンのセンスとアイデア
そして舞台は1977年のイギリスはエンフィールドへと移り、高らかにあのクラッシュの名曲『London Calling』が鳴り響くのであります。
このへんの縦横無尽なカメラワークは、本シリーズのスピンオフを撮っているジェームズ・ワン・フォロワーとの格の違いを見せつける映画的醍醐味があふれております。屋内の流れるような移動撮影、クレーンによる真俯瞰の視点、傾いたフレーム、やはり魅せ方のセンスとアイデアがそのへんの凡百とは違いますね。
それは前作ほど丁寧には段階を踏まない恐怖描写にも言えることで、それによって想像させる不気味な恐怖感は減退したものの、代わりに画的な面白さによる一気呵成のダイナミズムが生まれており、こういう点でも前作との違い、アップグレードを目論んでおるわけですな。
悪魔のシスターによる自分の肖像画の背後に影として回り込んでからのむんずと突然猛ダッシュなんて、恐怖よりもアイデアの秀逸さが光るなんなら悶絶爆笑ポイントでしたし、へそ曲がり男のメタモルフォーゼもどこかストップモーションアニメっぽい質感で超楽しい。
これによって確かにリアルな怖さは薄まったかもしれない。しかし映画としては超面白くなった。父親不在の家庭で頼れる父性を演じるエドのいきなりなりきりプレスリーなんて最高じゃないですか。ホラー映画の登場人物が『Can’t Help Falling In Love (好きにならずにいられない)』を歌うなんて斬新じゃないですか。
I’m so lucky
いきなりなりきりプレスリーを弾き語るエドの斬新なもみあげの男らしさ。それを見つめる悪魔に魅入られた少女ジャネットのまぶしそうな視線。そして同じく彼を見つめるロレインの止めどない愛とそれを喪失するかもしれない恐怖の視線。おっさんはこれに泣くのです。
いや、その前の「頼れる味方がひとりいれば奇跡は起きる」の時点ですでにおっさんはオイオイと泣いていた。「それからどうしたの?」「……結婚した♡」でズルズル鼻水を流していた。そうなのだ。これは真と偽、もしくは信と疑の果てに信頼と絆と勇気を得る映画なのだ。
社会の片隅で貧困にあえぐ母子家庭。そんな家族に追い討ちをかけるポルターガイスト現象。世間の同情と好奇と猜疑の視線にさらされ、孤独と疎外と不安を強めていくホジソン家。とりわけ現象の中心に位置する次女ジャネットの心の疲弊は計り知れない。
それは狡猾な悪魔の罠によって喪失のビジョンを植えつけられたウォーレン夫妻にしても同じ。孤独、不安、恐怖。悪魔はそこにつけ込み人の魂を奪う。他人を信頼すること、そして他人から信頼されることは難しい。この映画はその困難さを描いた映画なのだ。
しかし、心から信頼できる味方を、心から信頼してくれる味方を得た人間の力と勇気もまた計り知れないのだ。本作のクライマックスは少々強引な力技が目につくが、人の愛と信頼と勇気を描いた力技なのだ。そして最後に魅力的な歯並びの少女はその口元を恥ずかしそうにほころばせてこう言うのだ。「I’m so lucky」と。
涙腺ゆっるゆるなおっさんの心のダムはここで決壊し、止めどない金色の小便を垂れ流すのであります。はい、最近頻尿気味でして。
個人的評価:7/10点
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