ストーンズの『Satisfaction』に誘われて地球へとやって来たのに撃墜された宇宙人。亡き夫そっくりの姿へと変身した彼と未亡人とのほのぼのロードムービーはカーペンターの良心か?いや、彼はここで悟ったのだ。ここは俺の居場所じゃねぇ。満足できねぇと。
作品情報
スターマン/愛・宇宙はるかに
- 原題:Starman
- 製作:1984年/アメリカ/114分
- 監督:ジョン・カーペンター
- 脚本:ブルース・A・エヴァンス/レイノルド・ギデオン
- 撮影:ドナルド・M・モーガン
- 音楽:ジャック・ニッチェ
- 出演:ジェフ・ブリッジス/カレン・アレン/チャールズ・マーティン・スミス/リチャード・ジャッケル
予告編動画
解説
最愛の夫と死別した未亡人のもとに現れた、夫と瓜ふたつの姿をした異星人スターマン。彼のことを捕獲しようと執拗に追跡してくる政府の追跡を逃れ、仲間とのランデヴー地点を目指すふたりの奇妙で愉快な決死の逃避行を描いたSFラブコメディです。
監督は『遊星からの物体X』のジョン・カーペンター。脚本は『スタンド・バイ・ミー』のブルース・A・エヴァンス&レイノルド・ギデオン。スターマンの変身シーンを担当したのはリック・ベイカー、ディック・スミス、スタン・ウィンストンという贅沢な3巨匠揃い踏み。
主演は『サンダーボルト』のジェフ・ブリッジスと、『クルージング』のカレン・アレン。共演には『アンタッチャブル』のチャールズ・マーティン・スミス、『特攻大作戦』のリチャード・ジャッケルなど。
感想と評価/ネタバレ無
皆さまお久しブリーフ、スパイクロッドです。虫の息ですが生存中ですのでご心配なく。それでは一月ぶりの更新。世間は『アベンジャーズ/エンドゲーム』一色ということで、ボクもそのトレンドに乗って今回は『スターマン/愛・宇宙はるかに』を紹介してみたいと思います。
「そんな映画は観たことも聞いたこともない」って?大丈夫、『エンドゲーム』と同じSFですよ。たいした違いはありゃしません。人によっては「こっちのほうが好きじゃー!」という気の狂った阿呆もおられるやも。そんな阿呆にとってのブログでありたいと思う今日この頃、ってどんな頃?
カーペンターの良心
1977年に打ち上げられたボイジャー2号に搭載されたレコード盤のメッセージ、「ぜひ地球へと来てください」を受け取り来訪した宇宙船。しかしメッセージを送った張本人である米軍の攻撃によって被弾した宇宙船は地上へと墜落。搭乗していた異星人は脱出し、山奥のある家へと辿り着く。
家主のジェニーは未亡人で、つい数か月前に最愛の夫スコットを亡くしたばかりだった。アルバムに残された彼の毛髪からDNAを採取し、スコットそっくりの姿へと変身した異星人は、驚愕しているジェニーに対して故郷の星へと帰るための協力を仰ぐのだった……ってのが簡単なあらすじ。
参考 ボイジャーのゴールデンレコード – Wikipedia
まあ要するに大人版の『E.T.』ですわ。呼ばれてきたのに撃墜されたお間抜け異星人と、最愛の夫を失って失意のどん底にある未亡人が、政府の追跡をかわす決死の逃避行のなかで戸惑いながらも心を通わせ、ともに知見を、生きる力を得るという男女の愛情版『E.T.』。
そういう意味ではひたすらベタですが、こういう話をジョン・カーペンターが撮っているという点がミソ。なんせ彼がこの2年前に撮ったのは真逆のファーストコンタクト物『遊星からの物体X』なのだから。変わり身の早さにも程があるってもんだい。
『遊星からの物体X』の興行的惨敗がこの変わり身を生んだとも深読みできますが、そんな保身と打算と金と出世欲からこぼれ落ちたカーペンターの良心とも言える心温まる内容は、雇われ監督に徹しただけではない彼の本質的な優しさが垣間見えるような見えないような。
「どっちやねん!」って話ですが、ある意味でのやる気のなさが良い意味での力の抜けを生み、あのカーペンターに普通に面白い映画を撮らせたのは事実。そう、普通に面白いのだ。SFロードムービーラブコメディアクションというごった煮映画として適度に面白いのだ。
出会いと、移動と、衝突と、運動の行き着く先に、喪失からの獲得と美しい別れを描いたカーペンター流大人の『E.T.』。正直すべてのごった煮的要素が淡白なのだが、その淡白さがいわゆる力の抜けであり、それがエンタメとしての普通の面白さを逆に生み出しているのだ。
カーペンターがやりたいことを素直にやれないからこそ普通に面白い映画。やりたいことを好きにやったら同じコメディでも『ゴースト・ハンターズ』になっちゃうんだろうね。売れるためには『スターマン』路線を貫くべきだったが、それができないのは生粋のアウトローゆえの性か?
宇宙人と未亡人のほのぼの逃避行をひたすら追跡する、政府の木っ端役人チャールズ・マーティンス・スミスの華麗なる転身が、それを端的に表しているかも。面従腹背。心ならずも良心の仮面を被ってはみたが、その着心地の悪さに思わず破り捨ててしまう心意気。
いわゆるスター監督になり得る素養をもちながらも、あえてそうなることを拒んだ反体制の闘士カーペンター。彼の将来が決定づけられたのが本作『スターマン/愛・宇宙はるかに』なのかもしれません(しかしひたすらクソダサい副題やのうこれは)。
てなわけで、およそ一月の休眠期間を経て復活一発目にこんな忘れられた映画のレビューをシコシコしたためる、そんな阿呆なブログでありたいと思う今日この頃、ってどんなコロコロ令和コロコロやって来た。ほな新元号もよろしく哀愁、B面はセーターに愛をこめて。
個人的評価:6/10点
コメント
素晴らしいイラストと記事、感心します。
「アベンジャーズ」のトレンドに乗って「スターマン」とは、やられました。
’80年代前半のB級映画・ホラー(スプラッタ)映画ブームの中で、カーペンターも一部の若者に支持さましたね。
「ゴーストハンターズ」は観てないヤツまで流行りに乗って「面白い」と言ってた気がします。
そんなインディーズの監督達も、大半は、メジャーで起用されると力が発揮できずフェードアウトしていきました。
「スターマン/愛・宇宙はるかに」もカーペンターがメジャーに屈した作品ですね。
マイケル・ダグラスがエグゼクティブプロデューサーです。
確か、マイケルはデ・パルマの「フューリー」の製作にも名を連ねていませんでしたっけ?(親父出演作をプロデュースしたっていう話題があったような)
だとすると、優れた個性派監督を見つけてきては牙を折っちゃうプロデューサーと言えませんか?
Kazzさん、コメントありがとうございます!
なんで今更このタイミング?って記事ですが、こんなんが好きなんだから仕方がない(笑)。あの時カーペンターはメジャー監督の仲間入りできるチャンスがあったと思うのですが、なれなかったのかならなかったのか、いずれにせよそういうカラーには染まりませんでしたね。まあそんなカーペンターが好きなので、早くなんとか死ぬまでにあと2、3本は映画を撮ってほしいもんです。
マイケル・ダグラスはけっこうプロデュース業にも熱心な俳優ですが、何かと口を出しちゃうところもあるのかな?ただ『フューリー』の製作には参加しておりません。そういやぁ親父さんのカーク・ダグラスも『スパルタカス』でキューブリックとモメてましたよね。アルドリッチともモメてたような気がする。血は争えないってことですかね。
カーペンターシリーズありがとうございます。「スターマン」ですか…。公開時に見てから再見していないので記憶が定かでないのですが、普通に面白い、バランスのとれた良品だったかと思います。当時の評価もそこそこ良かったかと思いますが、その後35年間、ほとんど語られることなく無視されているところを見ると、カーペンターの中ではやはりこの普通の面白さは異色なんでしょうね(笑)
この映画や「クリスティーン」のようなバランスのとれたエンタメ性に富んだ作品も撮れてしまうところを見ると、やはりカーペンターはしっかりした技術を持った監督で、他の作品は敢えて崩しているんだと再認識しちゃいますね。
あと、この作品、スパイクロッドさんの仰るように何か嘘っぽくない優しい視線を感じた記憶があるんですけど、カーペンターの良心が見えちゃってるんでしょうか?
カーペンターにそれを期待するかどうかは別として、それはそれで貴重な映画かもしれませんね。
それにしても、副題はカーペンターのイメージから程遠いですね(笑)
ブッチさん、コメントありがとうございます!
カーペンターらしからぬ良作だけに、ファンにも一般の人にも残らないというなんとも不運な作品ではありましたね(笑)。『E.T.』ぐらい臆面がなければもっと一般にも受けたはずですが、それができないのがカーペンターの性なのでしょう。この時期のカーペンターはいろいろ試行錯誤している様子がうかがえますね。吹っ切れたのは『ゴースト・ハンターズ』が大コケして、本来の居場所に戻って来た『パラダイム』からかな?ほんで次に傑作『ゼイリブ』を生み出すわけですわ。
この作品は見たこと無いですが、サントラを買った記憶があります。
>『遊星からの物体X』の興行的惨敗
「ええっ?!あの「名作」でかつ「神作」がですか?」と今なら言えますが
確か、そうだったと聞いたことあります。
やはりあの「グロイシーン」が観客が受け入れられなかったのでしょうね?
コメディで思い出しましたが、確か「透明人間」という作品を
作ったことありましたよね?
これは結構面白かったです。(劇場でみました。)
–今回の作品の感想でなくてスミマセン m(_ _)m**
ダムダム人さん、コメントありがとうございます!
時代が悪かったんですかね?なんせ同時期に公開されたのが宇宙人融和もので大ヒットをかました『E.T.』でしたから。これはもう完全に世間の潮流とのズレでしょうね。まあそのあたりがボクらみたいなポンコツに愛されるゆえんでもありますが(笑)。
ダムダム人さんは『透明人間』はご覧になっているんですね。では話は早い。アレと同じ路線です。カーペンター度は両作とも薄めですが、それゆえに普通のエンタメ作として適度に面白い作品で、ゆえにカーペンター信者からは無視されているという不遇な扱いが泣かせます(笑)。
そうですか。マイケル・ダグラスは「フューリー」に関わってませんでしたか。記憶違いでした。
教えていただいて有難うございます。
「スターマン」は、カーペンターの作品じゃなかったら及第点だと思います。
カーペンターだから、物足りない気がするだけで、悪い作品ではないですね。
「クリスティーン」の演出は、スタイリッシュで洗練されていたように記憶してます。アクはなかったけど。
kazzさん、再度のコメントありがとうございます!
本作はカーペンターらしからぬ適度に面白いエンタメ作ということで、それゆえにカーペンター信者からも一般客からも忘れ去られたなんとも不遇な作品ですよね。『クリスティーン』もよく出来てるけどカーペンター度数はあまり高くない。この時期は次なるステップへの試行錯誤の段階だったとは思うのですが、たぶんいろいろ試して諦めたのでしょうね。もうウチへ帰ろう。ということで『パラダイム』と『ゼイリブ』が生まれるわけです。