「大丈夫、キミのことはすべてわかってる」。そう言って閉ざされた俺の心に入って来たあいつ。わかってくれていると思ったのに。ずっと一緒だと思っていたのに。もう、あの頃には戻れない……。
作品情報
『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』
X-Men: First Class
- 2011年/アメリカ/132分
- 監督:マシュー・ヴォーン
- 脚本:アシュリー・エドワード・ミラー/ザック・ステンツ/ジェーン・ゴールドマン/マシュー・ヴォーン
- 撮影:ジョン・マシソン
- 音楽:ヘンリー・ジャックマン
- 出演:ジェームズ・カマヴォイ/マイケル・ファスベンダー/ケヴィン・ベーコン/ジェニファー・ローレンス/ローズ・バーン/ジャニュアリー・ジョーンズ/ニコラス・ホルト
参考 X-MEN: ファースト・ジェネレーション – Wikipedia
予告編動画
解説
未来の車椅子ハゲと将来のメットマントが終始イチャイチャしている『X-MEN』新3部作の第1弾です。
監督は『キック・アス』のマシュー・ヴォーン。主演は『スプリット』のジェームズ・マカヴォイと、『危険なメソッド』のマイケル・ファスベンダー。ヴィランには『COP CAR/コップ・カー』のケヴィン・ベーコン。
その他の出演者は『パッセンジャー』のジェニファー・ローレンス、『インシディアス』のローズ・バーン、『ハングリー・ラビット』のジャニュアリー・ジョーンズ、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のニコラス・ホルトなど。
主題歌を担当するのはマシュー・ヴォーンのお気に入りテイク・ザットで、『Love Love』。『スターダスト』に続いてこれが2度目のコラボレーションとなり、のちに『キングスマン』の主題歌も提供しておりますので、もうよっぽど好きなんでしょうね。
主題歌/テイク・ザット『Love Love』
あらすじ
ナチス占領下のポーランド、ユダヤ人強制収容所。責任者であるクラウス・シュミット(ケヴィン・ベーコン)によって金属を自在に操る能力を見初められた少年エリック・レーンシャーは、その能力を覚醒させるために目の前で母親を射殺される。
同じ頃、ニューヨーク州ウエストチェスター群。裕福な家庭で育ったテレパシー能力をもつ少年チャールズ・エグゼビアは、屋敷に忍び込んだ青い肌と変身能力をもった少女レイヴンと遭遇。仲間である彼女を家族として迎え入れることに。
18年後の1962年。成人したチャールズ(ジェームズ・マカヴォイ)とエリック(マイケル・ファスベンダー)は、米ソ間で核戦争を起こそうと暗躍するセバスチャン・ショウ(シュミット)を追って、運命的な出会いを果たすのであった。
感想と評価/ネタバレ有
みんな大好き『X-MEN』。でもね、申し訳ないけどボクこのシリーズ好きじゃないの(なんか最近こういう導入部ばっかりのような気がする)。そんな嫌いなシリーズのなかで唯一好きだと断言できるのが、この『ファースト・ジェネレーション』。
凡作か駄作しか生み出してこなかったシリーズに見事な風穴をこじ開けたのが監督であるマシュー・ヴォーン。みんな大好き『キック・アス』と『キングスマン』の監督ですね。出来る監督が撮ればこうも変わるのかという好例であります。
来月公開の新3部作最終章『アポカリプス』に向けてのおさらいとして再見したのですけど、やはり面白い映画は何度見ても面白い!これを観たときはどれだけ新3部作への期待が高まったことか。それではさっそく復習の感想をば。
あの頃僕らは
旧3部作では敵対していたプロフェッサーXとマグニートー。彼らの出会いと友情、そして決別を描いたいわゆるビギニングもの(序章)であります。ヒットした作品の過去をほじくり返すこういう企画自体が好きではないが、この作品は違いました。
なぜ違ったのか?それは旧シリーズで明かされなかった情報を補いながら、それ以上のドラマを紡ぎ出すことができていたから。彼らふたりが出会った必然性。異なるからこそ惹かれ合う友情。そして譲れない信念による悲しい決別。
腐女子の皆さまが泣いて喜ぶあの頃のボクら。しかもハゲとメットのジジイではなく美形のふたり。そういうボーイズラブ的要素を意識していたのかどうかは定かではありませんが、このふたりの関係性にそこはかとない色気が漂っていたのは事実。
その色気がこのドラマに見事な情感とただならぬ緊張感を生み出していた。残念ながらボクはゲイでも腐女子でもないただのオッサンですので、ふたりの手に汗握るやりとりに「いや~ん♡」とまではなりませんが、恥ずかしながらウルッとは来ちゃいました。
マイノリティの闘い
そんなレジェンドふたりの知られざる過去を軸に、実際のキューバ危機を絡めて展開していくこの物語。荒唐無稽な夢物語にある程度の現実味を付与させる、『ウォッチメン』的なうまい演出でしたね。現実の大事件の裏で暗躍するミュータントたち。
この現実性は『X-MEN』というシリーズに内包されたマイノリティの苦難にも直結し、より大きな意味合いをもたせております。普通とは違う孤独、疎外感、苦悩。それがやがて社会的多数派との軋轢、対立を生み出すことになる。
チャールズとエリックによって多数派との向き合い方を、そしてレイヴンとハンクによって普通とは違う自分たちの肯否を、見事なバランス感覚のもとに描き出しておりました。つまるところ、誰も悪くないのに起きちゃう悲劇に打ちのめされるのです。
初めて魅せた能力描写
誰も悪くないと書きましたが、今作のヴィランであるショウにしたところでマイノリティの側であり、彼は彼なりの生存戦争を戦っていたわけです。しかしこの役にケヴィン・ベーコンを起用するマシュー・ヴォーンのセンスはさすがですよね。
彼のセクシーな悪としての存在感、そしてあらゆるエネルギーを吸収して吐き出しちゃう圧巻の能力描写。この映画の素晴らしいところは、シリーズで初めてミュータントたちの能力を画的に凄いものとして描き出せていた点ではないでしょうか。
特に“ヘルファイア・クラブ”の一員である赤鬼アザゼルのテレポーテーション能力を駆使した戦闘方法は素敵に残酷で、つまりは最高!ヒーロー映画ということでかなり抑えてはおりますが、このご無体さこそがマシュー・ヴォーンの真骨頂なのです!
そして能力描写で忘れてはならないのが、やはりエリックの金属テレキネシス。彼の能力発動はすべて自身の心の動き、ドラマと連動しており、単なる派手なアクションでは終わらない心のアクションがあるのです。つまりは魂のアクション。
絶望と怒りが引き起こした覚醒シーン。ハードボイルドタッチのナチス狩り。心の友チャールズの助力を得てのアンテナこいこい。そしてクライマックスでの潜水艦一本釣り。やはりアクションには肉体だけではなく心の動きも必須なのですよね。
監督の力量
かなり目まぐるしく場面が、状況が展開していくこの映画。それを抜群のテンポとリズムで見せていく見事な編集。若手ミュータントたちの訓練シーンを同時進行の画面分割で見せていく演出なんて、スプリット・スクリーン・フリークとしては身震いしてしまいましたね。
人類に核戦争を起こさせて亡き者にしようと企むショウの計画を、協力してなんとか喰い止めることができたチャールズとエリック。しかしそれはふたりの決別を、そして新たな争いの火種を生むことになる。なんてやりきれない映画でしょうか。
ヒーローものに対する少々傾いたスタンスがこの映画をシリーズ唯一の傑作にしているのだと思います。単なる勧善懲悪ものではない。単なるファン映画ではない。ダサいコスチュームを自虐的なギャグにしているのがいい例。
つまりは前述したバランス感覚がここでも活かされている。やはりマシュー・ヴォーンは現代で最も信頼できる監督のひとり。その筆頭格と言ってもよいかも。新3部作すべてを彼が監督してくれていたらよかったんだけどなぁ……。
続編である『フューチャー&パスト』も後日再見し、レビューを書く予定ではありますが、監督にブライアン・シンガーが出戻ってきているんですよね。詳しい感想はそのときにまた書きますが、はたして初見と印象が変わるのかどうか?乞うご期待。
個人的評価:8/10点
DVD&Blu-ray
VOD・動画配信
『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』が観られる動画配信サービスはU-NEXT、TSUTAYA TV、。おすすめは毎月もらえるポイントによって視聴可能なU-NEXT(2018年12月現在。最新の配信状況は各公式サイトにてご確認ください)。
コメント
今回も面白かったです。
確かにマシューヴォーンの力量は見事です。ただ、実はこの作品で配役選んでいるのブライアンシンガーなんですよね。旧三部作の俳優らも見ると、粗はあるものの才能はある監督だと思ってます。
ネスさんコメントありがとうございます!
これはもう比較論ですからね。あまりに飛び抜けたマシュー・ヴォーンと比較してしまうとブライアン・シンガーの力量は大きく見劣りしてしまう。ボクもシンガーのことを実力も才能もない監督だと言っているわけではなく、無難な実力しか持ち合わせていない凡庸な映画監督であると言っているわけです。むむ?結局のところシンガーのことをけなしているような文章になってしまいましたが、とりあえず『アポカリプス』は観てみますよ。一発逆転サヨナラ満塁ホームランもあり得るわけですから。