何やら日曜の家族でウキウキBBQ的邦題を付けられてしまった本作であるが、暇つぶしの低予算お笑いB級ホラーだなんて思ったら大間違い!こいつぁぶっちぎりの!ムハムハの!モリモリのパラダイス銀河なのだ!
作品情報
『ヘルケバブ 悪魔の肉肉パーティー』
Baskin
- 2015年/トルコ、アメリカ/97分/R18+
- 監督:ジャン・エヴェノル
- 脚本:オグルジャン・エラン・アカイ/ジャン・エヴェノル/エルシン・サディコグ/ジェン・オズグル
- 撮影:アルプ・コルファリ
- 音楽:ウラス・パッカン
- 出演:ギョルケム・カサル/エルグン・クユク/ファティフ・ドクゴズ/ムハレム・バイラク/サバハッティン・ヤクト/マフメット・チェラホグ
予告編動画
解説
トルコを舞台に、人里離れた山奥へと救援要請を受けた警官隊が遭遇する謎の邪教集団と、人知を超えた地獄を描いた衝撃のトルコ産ケバブホラーです。「野菜のつぎ、おまえ!」というナイスなキャッチコピーが微笑ましいR-18指定映画。
監督はトルコの新鋭というかほとんど情報のないジャン・エヴェノル。自身の短編作品をさらに過激で残酷にブラッシュアップしたのが本作だとのこと。『グリーン・インフェルノ』のイーライ・ロスが「21世紀のルチオ・フルチだ!」と賛辞を送ったとか送っていないとか。
感想と評価/ネタバレ有
『ヘルケバブ 悪魔の肉肉パーティー』などという愉快な日曜のBBQ的邦題を付けられてしまった本作。原題は『Baskin』で、意味は「浴びる」とか「浸る」らしいです。「何が?」って話ですけど、「ケバブまったく関係ねーじゃねーか!」よりはいくばくかマシですよね。
人さまの感想をチラッと覗き見したところ、けっこうな罵詈雑言が踊っていて驚いたのですけど、「いやいや傑作でしょ!最高でしょ!ぶっちぎりでしょ!」って話。乱暴を承知で言わせてもらうと、これはきっと現代の『サスペリア』と呼んでもいい傑作なのですよ、傑作。
赤と青に美しくもおどろおどろしく彩られた照明。終始バックで鳴り響く轟音ケバブ(?)ロック。辻褄なんぞ知ったこっちゃないやりたいことを盛大にぶち込んだ支離滅裂な物語。理解してもらおうなんてはなから思っちゃいないぶっちぎりの怪作、いやさ傑作なのですよ!
轟音ケバブ(?)ロックもどこかアルジェントにおけるゴブリンを想起させてムハムハなのですが、車中でかかるトルコポップスもなんかいい感じ。それを大合唱する親父たちの一体感もたまりません。これに何かしらの意味があるのかないのかはさっぱりわかりませんけどね。
得体の知れない「何か」だらけ
意味があるのかないのかはさっぱりわからんがなんかいい感じ。これがこの『ヘルケバブ 悪魔の肉肉パーティー』の本質かもしれません。結局のところ何がどうなってこうなっておるのかさっぱりわからんのですが、なんか知らんがおもしれー!すげー!って感じなの。
真夜中に得体の知れない何かと遭遇した少年。レストランで飯を喰いながらカマ掘り自慢をする主役らしき警官たち。顔の見えない従業員。バケツの肉。ひたすら焼かれる肉。唐突などつき合い。鏡に映った自分の顔に絶叫するひとりの警官。トルコポップスによる一体感。
とことん思わせぶりな「何か」をばら撒きながらも、それがなんなのかさっぱりわからないが妙に惹きつけられる絶妙の違和感。この違和感というか不穏さは、仲間からの救援要請を受けて現場に急行することになって以降さらに加速し、ついにはこの世の地獄が現出するのです。
何やらいわくつきらしいインチャージ地区へと向かう道程は、さながら地獄への、永遠に抜け出せない悪夢への一本道。ここからはもう時間と空間を自由に跳躍して、現実と夢をごちゃ混ぜにして、天国と地獄を同義にして、我々観客をいよいよぶっちぎりにかかってくるのです。
天国のような地獄
フリチン野郎やらカエルやら血まみれ男やらでっかい手やらに遭遇し、川に突っ込み、悪夢のような異空間のような時空を飛び越え、いい顔揃いの現地民としばしキャンプファイヤーを楽しみ、やっとこさインチャージ地区の怪しい怪しい廃墟へとたどり着いたご一行。
ここからはもう地獄の底の底へと真っ逆さま。物語としてはホント何が何やら皆目わからんのですが、とりあえずその廃墟で乱交カニバリズムパーティーで盛りに盛り上がっていた邪教集団にとっ捕まって、「あんなこと」や「こんなこと」をされちゃうわけなのですねぇ、はい。
まあ具体的に言いますと、はらわたずるりんべであったり、眼球たこ焼き回しであったり、アポのはらわた踊り喰いであったり、腰みのヤギマスクおばはんとの強制まぐわいだったりするのですけど、この描写の痛さと汚さと不快さはもう「パラダイスかよ!」って話です。
痛みと恐怖と汚濁によってこの世に天国のような地獄を現出させ、我々ボンクラの濁った心の目を開かせようとしてくださる教祖様のルックス、カリスマ性も抜群のカッコよさ。言うなれば小峠のなかの小峠。デコチンに弱点をさらけ出している潔さにも痺れます。
毎度お馴染み夢のような妄想のような異空間のような冒頭の食堂で、一足先に喉元かっさばかれてパラダイスへと心の目を開いたボスの傷口から伝説のアイテム“普通の鍵”を手に入れた主人公は、教祖様の潔い弱点へとそれをぶっ刺して意味不明な逆転優勝を収めるのです。
いや~もうまったくもってなんのこっちゃわからない見事な逆転優勝でしたが、『死霊のはらわた』を想起させる顔面血だらけで歓喜の雄叫びをあげる主人公が、インチャージ地区の地獄へとひた走る自分たちの車に轢かれて唐突に幕切れるオチはもはやメイクミラクル!
解説……できるか!
まあこれは一種のループものの構造を成しているのですが、脈絡も辻褄もはなから合わせる気がないようなので、解説してみろ!と言われてもできません!やれるもんならやってみろ!と逆ギレしてしまう爽やかな怒りも心地よい、ぶっちぎりの、ぶっちぎりの怪作でありました。
ちゃんと筋道の通った普通に面白い映画を好む人にはひたすら意味不明の駄作でしょうが、合いそうで合わない永遠に完成しないパズルに取り憑かれた変態様には超絶おすすめの傑作ですので、この美しくも汚い悪夢に浸ってみたいという奇特な方はどうぞお試しあれ。
まあ個人的な私感を述べさせていただきますと、これはやはり永遠に覚めない夢、終わりなきこの世の悪夢なのでしょうね。それではいったい誰の夢なのかと申しましたら、冒頭で登場した少年、主人公アルダが永遠に見続けている少年時代の悪夢なのでしょう。
夜中に怖い夢を見て目覚めた少年が、昨日見たテレビ、読んだ本、写真、母のあえぎ声、死んだ親友を思い出してまた見る夢。永遠に覚めない夢。終わりなき夢。夢のなかで見る夢……。
個人的評価:8/10点
DVD&Blu-ray
VOD・動画配信
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コメント
久々にチラッと立ち寄りましたが、まさかこの映画まで手を出すとは・・(笑)
自分も「野菜のつぎ、おまえ!」に惹かれて借りました。わけわかんね~と酷評しましたがスパイクロッドさんが意外に高評価なので間違えたか?と心配っすね。
いごっそう612さん、コメントありがとうございます!
ボクは信頼している映画ブロガーさんが絶賛していたので、「これは間違いないだろう」との思いで観てみました。結果はもうご覧のとおりで、かなり大好物なぶっ飛びグロゲロホラーでしたね。こういう映画は非常に貴重ですので、大事にしていかないといけません。いっごそう612さんの感想記事も読みましたが、ご安心ください、それで正しいと思います。ボクの頭のほうがずいぶんとおかしいわけですから(笑)。