27年周期で田舎町デリーに現れる子供喰いピエロ、ペニーワイズの恐怖ふたたび!ムカつく副題はとりあえず置いといて、こいつはアラフォー狙い撃ちの泣けるホラー映画でしたぞ!
作品情報
IT/イット “それ”が見えたら、終わり。
- 原題:IT
- 製作:2017年/アメリカ/135分/R15+
- 監督:アンディ・ムスキエティ
- 原作:スティーヴン・キング
- 脚本:チェイス・パーマー/キャリー・フクナガ/ゲイリー・ドーベルマン
- 撮影:チョン・ジョンフン
- 音楽:ベンジャミン・ウォルフィッシュ
- 出演:ビル・スカルスガルド/ジェイデン・リーバハー/ジェレミー・レイ・テイラー/ソフィア・リリス/フィン・フォルフハード/ジャック・ディラン・グレイザー/チョーズン・ジェイコブズ/ワイアット・オレフ/ニコラス・ハミルトン/ジャクソン・ロバート・スコット
予告編動画
解説
子供の失踪事件が相次ぐアメリカの田舎町を舞台に、弟をさらわれた少年と彼の仲間たちが団結し、事件の裏側でうごめく謎のピエロへと戦いを挑む全米大ヒットホラー映画です。
監督はギレルモ・デル・トロのプロデュースでデビューを果たした『MAMA』のアンディ・ムスキエティ。原作はスティーヴン・キングで、1990年に『ハロウィンIII』のトミー・リー・ウォレスによって前後編のテレビシリーズとして一度映像化されております。
子供喰いピエロのペニーワイズを演じるのは俳優スカルスガルド一家の三男坊ビル・スカルスガルド。ルーザーズ・クラブの面々を演じる子役たちは、『ミッドナイト・スペシャル』のジェイデン・リーバハー、『ストレンジャー・シングス』のフィン・ウォルフハード、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』のワイアット・オレフなど。
感想と評価/ネタバレ有
実はテレビムービーだったオリジナル版『IT/イット』の製作年度は1990年。当時いい感じのホラー小僧へと成長していたボクがこの作品をレンタルするのは必然でありました。そしてVHSを入手し、テープが擦り切れるほど観続けたのもまた必然(前編限定)。
そんな伝説的ホラー(前編限定)がついにリメイクされたのです!27年ごとにその姿を現し、子供を恐怖のどん底へと引きずり込むピエロの雄姿が、現実世界でも27年ぶりにリメイクされるという奇妙な符号。あの頃と今とをつなぐアラフォー限定サプライズ。
この奇妙な符号こそが『IT/イット“それ”が見えたら、終わり。』(副題最低)の破壊力の源であり、世代ドンピシャのボクなんかはオイオイと泣いてしまうのでありました。そう、この『IT/イット“それ”が見えたら、終わり。』(副題最低)は泣けるホラー映画なのです!
新生ペニーワイズ
1989年、アメリカの田舎町デリー。この町では子供の失踪事件が頻発していた。1年前に弟のジョージーがいなくなったビルもそのひとりで、自責の念から弟の行方を捜し続けていたのだったが、ある日ジョージーの幻影とともに恐ろしいピエロの姿を目撃する。
ビルの仲間であり、同じく学校のつまはじき者である“ルーザーズ・クラブ”の面々も、彼同様に恐ろしい体験と同時にピエロの姿を目撃していた。自分たちが謎のピエロの標的にされてしまったことを知った彼らは、事件の真相解明とともにピエロとの対決を決意するのだったが……ってのが簡単なあらすじ。
事件の発端であるビルの弟ジョージーの失踪事件。雨の日にビルが作った紙の船で遊んでいたジョージーは、排水溝に落ちた船を取ろうとしてピエロ(ペニーワイズ)に捕まってしまいます。この一連のシーンはオリジナルをきれいに踏襲していてすでにノスタルジック。
違うのは子供だからといって容赦はしない水も滴るグロ描写。芸能人は歯が命とばかりに阿呆みたいに生え揃った尖頭歯によって、ジョージーの右腕を噛みちぎるペニーワイズのいきなりのやる気満々に痺れます。つかみの冒頭としては文句のつけようがない腹減り描写です。
しかし、いわゆる突き抜けたグロ描写というのはここぐらいではなかったでしょうか?あとはわりとストレートな恐怖演出が続き、素顔はイケメンのスカルスガルドによる新生ペニーワイズ劇場にしても、怖いというよりかは楽しく不気味なサーカス的娯楽性に富んでおります。
オリジナルの日常を侵食するシュールな悪夢的恐怖は確実に減退しており、その点に関してはオリジナルの後塵を拝していると言えるのですが、静のティム・カリーに対する動のスカルスガルドの奇怪な踊り狂いは、新たなペニーワイズ像として評価してしかるべきかと。
ちなみにハラペコ子供踊り喰らいピエロ、ペニーワイズにはモデルがおりまして、実録シリアルキラーに興味津々な物好きの変態はどうぞ下記を参照してみてください。
青春ノスタルジー
「恐怖!」というよりかはキモ楽しいスカルスガルド新生ペニーワイズ劇場と化していた『IT/イット“それ”が見えたら、終わり。』(副題最低)。しかし、前述しましたとおりこの映画は泣けるホラー映画でありまして、恐怖はそれを際立たせるための箸休めに過ぎないのかも?
それではこの映画の何が泣けるのかと申しましたら、それは青春ノスタルジーにほかありません。けっしてクラスの中心にはなれない負け組が、恐怖と対峙するための葛藤と団結と決意。それをしつこく抑圧的に、キラキラまぶしく、カッコよく突き抜ける姿が泣けるのです。
吃音、デブ、喘息などのコンプレックスに加え、弟の消失、親からの支配や虐待などのトラウマに苦しめられている少年少女が、彼らを取り巻く恐怖と対峙するために手に入れた仲間との団結描写が泣けるのです。恐怖と緊張と抑圧のはざまで輝く青春のキラキラに泣くのです。
舞台が1980年代の後半に再設定されたことによる当時のヒット曲の効果的な挿入も印象的で、とりわけ鮮血に彩られたチームの紅一点ベバリー宅のバスルームを、ザ・キュアーの『Six Different Ways』をバックにみんなで掃除するシーンにはわけもわからず大号泣。
ベバリーがルーザーズ・クラブの一員に加わるきっかけとなった川での度胸試しダイブ、世紀の石投げ合戦、チームがバラバラになった直後に流れるXTCの『Dear God』にも個人的には号泣です。あえてパートリッジのボーカルまでは行かない編集もニクいですよね。
夏の終わり
「この夏が永遠に続いてほしい」とまで願ったルーザーズ・クラブにとってのペニーワイズとは、自身が抱える恐怖や抑圧と真正面から向き合うための象徴であり、それは少年期の通過儀礼でもあり、ひいては彼らが手に入れた「この夏」の終わりでもあるのです。
終わるからこそ「この夏」はキラキラ美しい。とりわけ愛しいお肉のベンに芽生えた淡い初恋描写は旨そうな肉汁垂れ放題です。彼が愛するベバリーへと送った美しい詩と、勘違いと、すれ違いと、眼前で繰り広げられるちちくりあいによる孤独。ああ~なんてたまらん肉汁だ。
そんなベンの想い人ベバリーに隠された性的虐待の暗示。彼女が見る血の雨はストレートな初潮嫌悪であり、大人になることへの拒否感、恐怖の表れなのでしょう。どこかデ・パルマの映画に出ていた頃のナンシー・アレンを想起させるソフィア・リリスの刹那感がたまりません。
弟の死を受け入れることができないビル。母親の支配から病原菌を極端に恐れるエディ。両親の死の光景が頭から離れないマイク。道を外れること(いびつな絵の傾きや、自転車を放置すること)がどうしてもできない優等生のスタン。そして終始喋り倒しているリッチー。
リッチーの恐怖だけがあまり明確なかたちでは示されておりませんが、「ピエロが怖い」と語ってピエロだらけの部屋へと閉じ込められた展開から想像するに、自身の存在を道化だと認識している節があり、そのことに対する自己嫌悪こそが彼の最大の恐怖なのかもしれません。
直接的であれ間接的であれ、その背後に大人の存在をチラつかせる恐怖やトラウマを抱えているルーザーズ・クラブの面々。ペニーワイズはその恐怖を餌に彼らを喰らおうとする存在であり、つまりペニーワイズとの対決は彼らがいだく恐怖心そのものの克服が鍵となるのです。
それを端的に表したのがルーザーズ・クラブによるペニーワイズ袋叩き血祭り劇の集団リンチ描写であり、少年たちが恐怖を払拭するために行使する暴力の恍惚と背徳感が奇妙なカタルシスを醸成し、これによって彼らの夏は、少年期は、血とキスによって終わりを告げるのです。
アラフォー悶絶号泣苦悩映画
青春における抑圧と、恐怖と、それに対峙するための団結と、打ち勝つための勇気を、時代設定の変更を活かしながら、不条理な悪夢的ひとりサーカス団、スカルスガルドペニーワイズとの対決を通して描いてみせた『IT/イット“それ”が見えたら、終わり。』(副題最低)。
オリジナルをリアルタイムで鑑賞し、アラフォーへと突入したボクと同世代の方々にはさらなる響くもの、刺さるものがあったかと思われます。舞台を1950年代からオリジナルが製作された1990年へと近づけたことによる、我がの人生への超接近オーバーラップ。
オリジナルと出会った頃のボクは、このリメイク版の主人公ビルたちと同じ13歳であり、そのとき観た恐怖の記憶をビルたちとともに当時の時代設定のもとに追体験したのです。監督のムスキエティはボクより少し上の世代ですが、これはもう明らかな確信犯だと思われます。
27年ごとに姿を現す子供喰いの怪物ピエロ、ペニーワイズ。オリジナルの1990年から27年後とはまさに今年、2017年であり、続編でふたたびビルたちがペニーワイズと対峙する27年後とも若干の誤差はありますがつながります。そしてボクも彼らと同じ40歳を迎えるのです。
これは1990年当時、主人公たちと同じ子供であった我々の記憶と、今と、これからを突きつけてくるアラフォー限定の狙い撃ちなのではないでしょうか?あの頃のお前と、現在のお前と、未来のお前はどうなのだ?と問いかけてくる、アラフォー悶絶号泣苦悩映画。
北米での爆発的ヒットを見るかぎり、新たな世代の心も鷲づかみにしたようですが、やはりそれ以上に心臓をつかまれ、ねじられ、つぶされようとしているのは我々アラフォーなのだと思います。それはこの映画を観ることによって自分の人生を思い起こさせられるから。
オリジナル同様、すでに続編の製作が決まっている本作。40歳の大人となったビルたちはいかにしてふたたびペニーワイズと対峙するのか?それは現在の自分を目撃するような恐怖であると同時に、あの後編を再体験しなければならないのかという恐怖でもあります。
その恐怖はこの感想冒頭でしつこいぐらいに表記してきた「前編限定」の文言が露骨に示しております。観たいような観たくないような。この複雑なボクの気持ち、同世代の方ならきっとわかっていただけますよね?
個人的評価:6/10点
コメント
この作品は原作を買ってからみました。
(上下巻で各巻2000円を超えていました)
–当時私は「30歳」でした。–
「前編限定」の意味、痛いくらい分かります(笑)
テレビムービーと言う「アシカセ」が有るので
原作のまま放送と言う訳には行かない事情は分かりますが
後編のアノ展開は「泣けました」。
–アメリカの一般向けテレビ番組の放送倫理が日本とは比較にならないほど
厳しいのだそうです。その足枷の中で同じキングの「死霊伝説」は
かなり頑張ったらしく、高い評価をえている様です—
こちらでも上映していますが、「ファンヒーターの故障」という
アクシデントに対応する為の出費で見に行くことはできそうにないです。
閑話休題
おなじキングの「デッド・ゾーン」の感想はまだでしょうか?
早くコメントしたくウズウズしています!!
ダムダム人さん、コメントありがとうございます!
前編にワクワクドキドキした身といたしましては、子供ながらに「俺のあの楽しかった時間を返せ!」と思ったもんです(笑)。でも前編は繰り返し観ちゃうんですよね。ほんでたまに後編も観てみてやっぱり「ああ~なんて無駄な時間を!」と思うわけです(笑)。
『デッドゾーン』の感想ですが、実はここ数か月、本業のほうがかなりのクソ忙しさでして、なかなか映画を観る時間すら取れない有り様なのです。実は観たけど感想書けてない映画も山ほどあります。クローネンバーグの映画はすべてレビューするつもりですので、いましばらく、いましばらくのお待ちを!