移転を控えた山奥のさびれた病院に閉じ込められた人々。外には謎のカルト教団。内にはクリーチャー。異世界からは宇宙的虚無。いったいこれはなんだ?んなもん俺にもわかんねーよ!
作品情報
『ザ・ヴォイド』
- 原題:The Void
- 製作:2016年/カナダ/90分/R15+
- 監督・脚本:ジェレミー・ギレスピー/スティーヴン・コスタンスキ
- 撮影:サミー・イネイヤ
- 音楽:ブリッツ//ベルリン/ジェレミー・ギレスピー/メナロン/ブライアン・ウィアセック
- 出演:アーロン・プール/キャスリーン・マンロー/ケネス・ウェルシュ/ダニエル・ファザーズ/エレン・ウォン
予告編動画
解説
人里離れた田舎の病院を舞台に、外は謎の邪教集団によって包囲され、内では死体から変化したバケモノに襲いかかられる人間たちの恐怖を描いた超進化系ハイブリッドホラーです。
監督は『マンボーグ』『ファーザーズ・デイ/野獣のはらわた』のジェレミー・ギレスピーとスティーヴン・コスタンスキ。クラウドファンディングによって資金を集めた何かと手作り感満載の作品です。
主演は『恐怖ノ黒洋館』のアーロン・プール。共演には『サバイバル・オブ・ザ・デッド』のキャスリーン・マンロー、『エミリー・ローズ』のケネス・ウェルシュ、『暗闇にベルが鳴る』のアート・ヒンドルなど。
感想と評価/ネタバレ有
念願かなってなんとか上映最終回で滑り込み鑑賞してきた『ザ・ヴォイド』。けっして上手い映画ではないものの、上手い下手ではない、店主が好きな具材をお客ガン無視でぶち込んだら殺人的コレステロールのメガ盛り丼がそびえ立ったって塩梅で、これが意外と旨いのです。
何が旨いって、1980年代のホラー映画をご飯のお供としてきた輩にとってはねるねるねるねのテーレッテレーみたいな味わいで、それはもうお袋の味的なノスタルジア。あの時代におけるホラーの醍醐味みたいなものを手当たり次第に鍋へとぶち込んだ得も言われぬ香りと旨味。
ボクも全部は観ていないのであれですが、ジョン・カーペンターの『要塞警察』『遊星からの物体X』『パラダイム』、『ヘルレイザー』シリーズ、『フロム・ビヨンド』、そして『ザ・フライ』あたりをもりもり食していた豪傑には文句なしにおすすめできる怪作ですよ!
謎とお肉の地獄道
深夜のパトロール中に負傷したジャンキーを発見した保安官のダニエル。男の怪我の治療のために懇意にしている人里離れた群立病院へと運び込んだものの、突然よく知る看護師のひとりが奇怪なバケモノへと変貌。動転したダニエルはもはや彼女ではない怪物に向けて発砲。
事の次第を報告するために病院の外へと出たダニエルは、謎の白装束集団に襲われ、ここが彼らによって完全に包囲されている事実を知る。そしてジャンキーを追って病院内へと乱入してくる武装した親子。いったい何が起こっているのか?何が始まろうとしているのか!?
てな感じの盛り盛りメガ盛り丼で幕を開ける怪作『ザ・ヴォイド』。移転間近のさびれた病院を舞台に、外にはカルト教団、内にはクリーチャー、そして異世界からは巨大な虚無の三角が襲いかかってくるという、四面楚歌、疑心暗鬼、五里霧中、阿鼻叫喚の地獄絵図。
そんなパラダイスへと無理くり放り込まれた頼んない保安官のダニエル、彼の妻であるが現在は別居中の看護師アリソン、娘を亡くしたパウエル医師、田舎が嫌いなインターンのキム、血の気が多い乱入親父と声帯やられたその息子、JK妊婦とじいちゃんご一行様。
誰が敵で誰が味方なのか?いったい何を信じればいいのか?そんなカオスを端的に表しているのが、一癖も二癖もありそうな感じで不気味に登場した州警察のあっけない退場劇。しかもこれを演じているのがなんと『ザ・ブルード/怒りのメタファー』のアート・ヒンドル!
確実に何かしでかしそうな癖の凄さで登場しながら、何ひとつしでかさずにあっさり退場していく癖の薄さは、ヘタなのかスカしなのか癖が凄いのかさっぱりわからぬ謎展開。謎が謎を呼び、肉が肉を盛り、血で血を洗う生きては戻れぬ地獄道。なれば死ぬ気で進むのみ!
郷愁の1980
てなわけで、死を覚悟で地獄を突き進む登場人物、我々観客、そして制作スタッフ。もはや後戻り不可能な迷宮でワッショイワッショイやっている我々と登場人物たちに対し、退路を断ってより一層のてんやわんや攻勢を仕掛けてくるギレスピー&コスタンスキその他一同。
クラウドファンディングで資金が集められたというこの映画。もちろん潤沢な予算が集まったわけではなく、今時CGによって地獄を彩るような野暮なことはいたしません。我々の見たい地獄は我々自身の手で生み出す!とばかりのDIY精神で手作りの地獄をお届けする心意気。
この21世紀に特殊メイクによるクリーチャー大進撃を拝めるなんてねるねるねるね世代は感涙もんですよあーた!しかもこいつらのルックスがことごとく良い!ゴーゴークラブでいい感じに人間を取り込んだデーモンのごときギャオオォォで、「狂ったかアモン!」てなもんです。
あるはずのない病院の地下2階でダニエルたちが接近遭遇する、もそもそうねうねぐちょぐちょしたこやつらの愛らしさには、近年ではかの『武器人間』と通じる一家に一台ルンバでサンバ的な小躍り感があり、見えそで見えない絶妙のチラリズムも超絶エロい!
このチラリズム演出には予算の都合も半分あるでしょうが、もう半分は恐怖感、おかわり感、そして正体不明感に一役買っており、え!なになに?ああぁぁ、ううっ、ええ!?もうっ……きょええぇぇえぇ!という歓喜の雄叫びとともにある種の憐れみもぶっ刺してくるのです。
疾風怒濤の後半戦
そう、なんとこの愛くるしいクリーチャーどもはカルト教団のズンドゴ儀式による人間たちの成れの果て!そしてそのカルトの偉大な教祖様が事件の黒幕パウエル先生!娘を失った不条理から宇宙的虚無へと取り込まれ、新たな世界、俺たちの時代を作ろうとした革命戦士!
終わりが始まりを生み、不死の怪物へと進化を遂げ、世界を三角が覆う新世界の到来。そんな理念の実験台が地下の魑魅魍魎たち。火事による病院の移転は、実は彼らが死にたいがゆえの放火だったのです。しかし死ねない。だって彼らは三角パワーを手に入れた革命の徒だから!
それを考えると、むき出しの鉄骨に自らの頭部をぐしゅぐしゅやっている視界良好な彼の姿を見て、きゃわゆい♡なんて言うてる場合ではないのです。どれだけ人間だった頃の自我が残っているのかはわかりませんが、無意識に死を望む変わり果てた怪物の哀れさたるや。
生皮はがれたパウエル先生にとっ捕まり、クリーチャーの母体として千手観音触手マザーへと改造されたアリソンが、変身一歩手前で愛するダニエルによってとどめを刺してもらえたのは幸運なほうだったのです。こんな狂った悪魔の所業はいますぐやめさせねばいかんばい!
何を言うのじゃダニエル坊や。限りある生から解き放たれた新世界では、わしも君もアリソンも、そして死んだ娘も永遠不滅のパラダイス銀河じゃ。ほれ見てみい。わしのあの子がもうすぐ産まれるばい。と言って、自らの子宝を授けたJK妊婦の出産ショーを開幕するパウエル。
JK妊婦の腹を突き破って現世へと復活した娘の超弩級なスケール感。終わりのない世界なんてない!俺が終わらせてやる!と『パラダイム』的な自己犠牲精神によってパウエルともども虚無へと落ちるダニエル。超弩級な娘との死闘によって天に召された血の気過多親父。
親父の犠牲によって超弩級娘を倒し、なんとか生き残った声帯ちょんぎれ息子と、白装束集団の追撃をかわしたインターンのキム。この地獄から生還したのはたったふたり。いっぽう虚無へと落ちたダニエルとアリソンは、今は手を取り合って巨大な三角を見上げるのだった……。
無理から解説……できるか!
天と地がひっくり返るような新世界の到来に浮かれ踊り、なかば腐ったお肉たちの狂乱劇に喉を鳴らし、哀れな生贄どもの阿鼻叫喚に奇声をあげていた今回のあたくしの感想、「詰まることろ何を書いているのかさっぱりわからん」とお叱りを受けても致し方ない低能ぶり。
でもね、何を書いているのかわからんのはあちきのせいではございませんよ。この映画が何を描いているのかさっぱりこってりわからんせいじゃ!カルトにクリーチャーに宇宙的恐怖をぶち込みながら、その解答をあえて放棄したような投げっぱなしジャーマン炸裂!
この投げっぱなしぶりに「金返せ!」と思うか、「殺す気かてめえこの野郎ありがとう」と思うかどうかは人それぞれ。ボクはもう終始ヘラヘラ顔でご満悦。満悦ついでにわからんなりの個人的所感を解説してみますと、この映画の根底を貫いているのは喪失感なのでしょうね。
最愛の娘を失ったパウエル医師。我が子を産まれる前に失ったダニエルとアリソンの夫婦。妻と子供をカルトによって殺された乱入血の気過多親父。みんな大切な誰かを失い、心にぽっかりと大きな穴が開いてしまっている。
そういう痛みや、後悔や、怒りの源である喪失という心の穴に侵入してくるのが宇宙的虚無なのでしょう。娘に執着し続けたパウエル。自分の未熟さによる負い目を背負ったダニエル。悲しみを暴力と怒りでしか表現できない血の気過多親父。そんな彼らに課された試練。
取り込まれるのか?抗うのか?それでもまだ人を信じるのか?どこかエディプスコンプレックス的なにおいも漂わせながら、それぞれの決断を描いた『ザ・ヴォイド』。父殺しを決断する声帯ちょんぎれ息子の背後に母子像らしきものが見えたのもなんか示唆的ですよね。
ですが、パウエル先生が語る新世界の到来に心なしか胸躍らせる自分がいたのもまた事実で、ああ~いかんいかん!惑わされるな!と必死に自分で自分を殴りつけながら抵抗し、『パラダイム』ごっこをしているダニエルの背中を押したボクはなんとかまだ人間のようです。
映画のラスト、あっちの世界“Void(宇宙的虚無空間とでも呼んだらいいのかな?)”へと閉じ込められたダニエルとアリソンは、不気味な荒野で巨大な宙に浮くピラミッドを見上げています。不安と恐怖を抱えながら。それでもしっかりとお互いの手を握りながら。
圧倒的絶望のなかでわずかに輝く希望の演出。永遠に解放されることはないであろうが、赦し合ったふたりがいて、手を取り合っている。いいラストじゃねーか。これってホントにアストロン6の映画か?ってアストロン6のロゴがない!ええ?まさか!喧嘩でもしたのぉ!?
個人的評価:8/10点
コメント
スパイクロッドさんのレビューが面白すぎて期待のハードルを上げすぎました。
序盤は飛ばしまくっていて鬼才監督感がビンビンあっていいですね。
しかし病院で「遊星からの物体X」的なモンスターが出て「うーん」と嫌な予感がし、
病院の地下を潜るくだりから「うわうわっ」となりました。
僕は武器人間やヘルレイザーはわりかし好きなんですが終盤は渋い顔で見ていました。
鑑賞後には「どうすれば名作になったのか」を偉そうに考えたものです。
やはり白布人間の中の人はどんな姿か?で終盤まで引っ張った方がまとまったと思います。
パトランプの光が白布人間に照射される映像や暗闇でナイフが光る映像は良かったです。
まあ、開始25分までは間違いなく面白かったかな。
おーい生茶さん、コメントありがとうございます!
監督の好きなものをとことんぶち込んで、細部や辻褄はいいから力技で押し切れ!って感じの映画でしたからね。でもボクはこれそうとう好きなんですよね。1980年代のジャンル映画に対する底抜けの愛情を、ある種の不条理劇、迷宮として描いた点が素晴らしかったと思います。たいして活躍しない白頭巾どものハッタリも含めて。