高度にヒト化した猿VS意図的に獣化された人類。地球での生存権、支配権をめぐって繰り広げられる「かも」しれない全面戦争。『猿の惑星』誕生の秘話がついに明かされるってか!?
作品情報
『猿の惑星:聖戦記』
War for the Planet of the Apes
- 2017年/アメリカ/140分
- 監督:マット・リーヴス
- 脚本:マーク・ボンバック/マット・リーヴス
- 撮影:マイケル・セレシン
- 音楽:マイケル・ジアッチーノ
- 出演:アンディ・サーキス/ウディ・ハレルソン/スティーヴ・ザーン/アミア・ミラー
予告編動画
解説
進化した猿と絶滅の危機を迎えつつある人間。共存の道は絶たれ、地球をめぐる存亡と支配権をかけた壮絶なる全面戦争の終着点を描いた、新生『猿の惑星』シリーズの完結編です。
監督は前作からの続投となる『クローバーフィールド/HAKAISHA』のマット・リーヴス。主役のシーザーを演じるのはついに監督デビューまで果たしたモーションアクターの第一人者アンディ・サーキス。
ほかのモーションアクターとしては『はじまりへの旅』のスティーヴ・ザーン、カリン・コノヴァル、『ザ・スクエア 思いやりの聖域』のテリー・ノタリーなど。人間側を指揮する大佐役には『スリー・ビルボード』のウディ・ハレルソン。
感想と評価/ネタバレ有
新シリーズ3部作の完結編にして、オリジナル『猿の惑星』へとつながる重要な役割を託された『聖戦記(グレート・ウォー)』。ついに猿と人間との種の存亡をかけた血で血を洗うグレートなウォーが展開されるのかと思いきや、意外なこぢんまり感に拍子抜け。
猿の神話としても、人間の滅亡記としてもあまりにスケールが小さすぎで、結局のところはオリジナル第1作へといかにつなげるかを苦慮しただけの、辻褄合わせ映画でしかなかったという印象です。長大なシリーズの完結編ってやっぱ難しいよなぁ……。
ヒト化する猿
人間との共存の道を模索しながらも、同胞コバの反乱によって猿と人類との全面戦争へと突入してから2年。人類を指揮する狂気の大佐の手によって妻子を惨殺されたシーザーは、復讐の悪鬼と化して大佐の命を狙い続けるというのがこの映画のだいたいのあらすじ。
つまりは猿VS人類という構図よりも、シーザーのリーダーとして、個人としての葛藤にスポットが当てられているというわけです。それを通して寛容と、赦しと、憐れみという、本来は人類の特権であったはずの精神を猿に仮託して、人間のあるべき姿を描いていたと思うのです。
ゆえにこの『聖戦記』における主体は完全に猿側にあり、より人間らしさを増していく猿と、どんどん感情を失って獣化していく人間という逆転現象が描かれていたわけですね。人間の正の部分ばかりが強調された猿と、負の部分を押しつけられて破滅へと向かう人間。
これは『聖戦記(グレート・ウォー)』などではなく、より高度にヒト化して調和と安定をもたらそうとしている猿と、その背後で自然淘汰される人類という構図を神話的に描いた、あらかじめ決められた終着点へと着地するだけの辻褄合わせ映画でしかないと思います。
ですので、新シリーズ第1作『創世記』のようなマイノリティによる革命という高揚感もなければ、シリーズ最後を飾るにふさわしい派手さにも欠ける、暗くて重くて地味な、それでいて安易でもある、シリーズ尻つぼみ穴にハマり込んだ失敗作だと断言してしまいましょう。
ザルの惑星
失敗の最大の原因は、スケールの縮小、暗さ、重さ、そして安易さの象徴とも言えるシーザーの葛藤にあるでしょうね。すでに信頼できるリーダー像を確立していたと言ってもよいシーザーが、あそこまで短絡的に復讐心へと囚われ、仲間の命運を放り出すものなのでしょうか?
その後に神話化するための伏線としてこれが必要だったのは理解できますが、やはりそう仕向けるための安易な展開と言わざるをえません。それは状況説明を大佐の口からベラベラと喋らせてしまう芸のなさにも言えることで、この映画は細部がことごとくザルなのですよね。
人間から言葉を奪い退化させる新型ウィルス。その保菌者である少女ノヴァの存在。バッド・エイプによるコメディリリーフの失敗。猿のコミュニケーション能力に対する違和感。穴だらけの要塞警備。大佐の最期。プリーチャーの存在意義。雪崩による人類滅亡。etc.
このへんの安易な薄っぺらさは、『地獄の黙示録』『戦場にかける橋』『大脱走』のわかりやすい引用、トランプ登場以降は常套となった壁の存在にも言えることで、「コーネリアス」や「ノヴァ」という名前の使用も含まれます。それ使うなら「ジーラ」も入れろよって話。
これらがオリジナル第1作とガッチリつながるならまだしも、単なるファンサービスにとどまっている時点で底が穴だらけなのは明白です。『猿の惑星』ならぬ『ザルの惑星』。
そして神話となった?
より高度に進化した猿たちが、人類の自滅を横目に、団結と調和と共生を成し遂げた『猿の惑星』の誕生。しかしそれがかりそめの平和であることはオリジナル第1作を観た人間にとっては周知の事実。詰まるところ新型ウィルスの中途半端さが決定的な問題ではなかろうか?
これに罹患したノヴァや大佐の姿を見るかぎり、彼らは単に言葉を失っただけで退化はしていないように思えます。むしろノヴァは高度な知能と豊かな感情を有しているように思えます。そんなノヴァを、猿たちはやがて家畜として、奴隷として扱うようになるのです。
そんな未来に蓋をして、かりそめの平和と共生を描き出したこの映画のラストは、やはり大甘であり、ザルであると言わざるをえません。神話とは常に残酷なもの。そのとうてい見たくはない現実へと踏み込まない神話は、はたして神話と呼べるのでありましょうか?
個人的評価:3/10点
DVD&Blu-ray
VOD・動画配信
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