『マッドボンバー』感想とイラスト 何かと酷い傑作

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社会にはびこる不道徳を木っ端微塵に吹き飛ばす秩序の破壊者にして守護者マッドボンバー。奴の秘密を握る絶倫強姦魔に、法も人権も知ったこっちゃねぇ暴力刑事。狂った男たちのマッドなボンバーがロサンゼルスに炸裂するオレ的文部省推薦映画だ!

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作品情報

『マッドボンバー』

  • 原題:The Mad Bomber
  • 製作:1973年/アメリカ/91分
  • 監督・脚本・撮影:バート・I・ゴードン
  • 音楽:ミシェル・メンション
  • 出演:ヴィンセント・エドワーズ/チャック・コナーズ/ネヴィル・ブランド

参考 マッドボンバー – Wikipedia

解説

世直し説教爆弾魔と、ド変態嫁さん大好きレイプ魔と、逮捕のためなら手段は選ばん暴走刑事という、三大キチガイによるロサンゼルス大決戦を描いたクライムサスペンスです。

監督は『戦慄!プルトニウム人間』『巨大生物の島』などで知られる、「ミスター・B.I.G.」ことバート・I・ゴードン。破格の低予算ゆえに監督・脚本・撮影と獅子奮迅の活躍を見せております。

主演は『現金に体を張れ』のヴィンセント・エドワーズ、元NBAならびにMLBの選手でもあった『ソイレント・グリーン』のチャック・コナーズ、『悪魔の沼』のネヴィル・ブランドといったなんとも濃いぃ三人衆。

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感想と評価/ネタバレ多少

その存在は知りながらなかなか観る機会を得られなかった怪作『マッドボンバー』。毎度お世話になりっぱなしであるTSUTAYA発掘良品での取扱いが始まり、さっそくレンタル、勇んで鑑賞、興奮冷めやらぬ状態でこのレビューを書いているところであります。

そう、あたくし興奮冷めやらぬマッドなボンバー状態でありまして、いつどこで爆発してもおかしくはないメタルフレームであり、妄想上の眼鏡っ娘妻のストリップをRECしたいアヘアヘであり、容疑者のこめかみに拳銃突きつけて脅迫したいマーク・ラファロであり、すでに何を言っているのかよくわからないのでちゃんと感想書きます、はい。

面白くないわきゃない!

ロサンゼルスを騒がす連続爆弾魔&強姦魔。病院爆破のおり、実は爆弾魔と強姦魔が接近遭遇していたのではと当たりをつけた担当刑事のジェロニモは、爆弾魔の唯一の目撃者である強姦魔の証言を引き出すため、執念の捜査を開始するのだった……ってのが簡単なあらすじ。

多数の犠牲者を出している爆弾魔逮捕のため、これまた多数の被害者を出している強姦魔の協力を仰ぐという、○チガイのためにキチガイと手を組むこれまたキチガイという三大キチガ○ロサンゼルス大決戦なんて頭のおかしい映画が面白くないわきゃないでしょあんた!

映画冒頭、タバコの空き箱をポイ捨てした親父につかみかかり、「街が汚れるのはお前のせいだ!ブタめ!」とありがたい説教をかます2メートルの巨人による詰め寄りワンカットから、即物的に最初の爆破事件へと雪崩れ込む無駄のなさが面白くないわきゃないでしょあんた!

映画が始まってわずか5分で、爆弾魔ドーンのゆがんだ正義感と容赦のない必殺仕事人ぶりを叩きつけた見事なまでの電光石火。しかもこの大学爆破事件、モブの至近距離で実際に爆破してるもんだからその迫力も只事ではない!スローモーションで逃げ惑うモブどものガチ感がたまらない華麗なまでの腰砕け!

こんな素敵なオープニングをぶちかましてくる映画が面白くないわきゃないでしょあんた!

世直し爆弾魔ドーン

そんな面白さの根幹、爆弾魔ドーンを演じるのは、元NBAならびにMLBの選手で身長2メートルに巨大なアゴを誇るメタルフレームのチャック・コナーズ。図体とアゴはバカデカいのにケツの穴はちっちぇー勘違い世直しマンぶりが泣かせます。

ところかまわず小さな不道徳に対していちいち激昂するクレーマーぶりは、皆さん人生で一度や二度は目撃して触らぬ神に祟りなしと我関せずを決め込んだ記憶があるはず。しかもこのおっさん、時限爆弾を放り込んだ紙袋をさげたままスーパーやらレストランで絶対正義の使者として詰めに詰め寄っているわけですから、まったくもって始末に負えません。

揺るぎない正義と信念のもと、この腐った世の中を正すために一般市民を恫喝し、公共施設をドッカンドッカン爆破する世直し爆弾魔ドーン。そんな彼にもいちおう動機らしきものがあり、幸せだった頃の家族の記憶がときおりフラッシュバックしたりします。

したりするのですが、これによって彼が理解できたり、同情したり、致し方ないと思ったりするわけもなく、むしろその不可解さを助長しているような塩梅でありまして、記憶のなかで屈託なく笑う彼の姿もすでにキチガイのそれである事実がまざまざと浮かび上がるのです。

徹頭徹尾マッドなボンバー

そんな根っからのキチガイ爆弾魔ドーンと対決するふたりの男。幸せそうな家族に囲まれながら自身の性的欲望、変態性を抑えることができない強姦魔のフロムリーと、一見するとマーク・ラファロ似で唯一の常識人かと思っていたのに、犯人逮捕の執念がやがて狂気へと変貌していく暴走刑事のジェロニモ。

フロムリーを演じるネヴィル・ブランドの顔面からは「正常」という二文字がとっくに抜け落ちているので、誰が何をどう見ようが変態以外の何ものでもないのでありますが、この映画における「正常」最後の砦、刑事のジェロニモまでただのキチガイだったなんてなんだよ祭りかよおい、キチガイ祭りかよお前。

ゆがんだ正義の実行者として日常に爆弾を投下するキチガイと、そいつの顔を唯一知る変態が服着て歩いているようなキチガイと、爆弾魔逮捕のために変態のこめかみに平然と拳銃を突きつける正義のためには手段を選ばないキチガ○が、いったいどいつの頭が一番イカれているのか競い合う夢のロサンゼルス大決戦。

しかもこの三バカだけではないぞ。フロムリー逮捕の過程で捕まった変態・痴漢・レイプ未遂どもが一堂に会するシーンなんて吐き気を催すほどの醜悪さだから。そんな都会に巣食うキチガイどもを終結させながら、そんな病理を解き明かしはしない理屈が抜け落ちた真理とも言えるあまりに突き抜けた即物的展開。

狂った人間の狂った行動が行き着く先をただあるがままに映し出した狂った結末。なんらの答えも解決も救いも存在しないただあるがままの木っ端微塵。徹頭徹尾マッドなボンバー映画だったのだこれは!つまりは傑作。揺るぎない傑作。マッッッドボンバーーー!

何かと酷い傑作

で、このくだらない感想を終わらせても別にいいのですが、最後にもうひとつ。何かと酷いことずくめのこの映画、モンタージュ作成時の「本人やんけ!」という想像の斜め上を行く無駄の省き方なんかも凄いのですが、この映画で最も酷いのはやはり女性の扱い。

強姦魔フロムリーの犠牲者となった方々の雑な扱いはほとんどホラーで、しかも何ひとつ救済されないどころか物語上で忘れ去られるという珍事はもはや恐怖です。しかしそれより衝撃的なのは、フロムリー逮捕への過程で現出した女性の社会的現実でありましょう。

フロムリー逮捕のため、婦人警官に露出の高い格好をさせて夜道を徘徊させるという荒業おとり捜査の過程で次から次に網へと引っかかる、変態、痴漢、強姦魔予備軍どもの魑魅魍魎。女性が好きな格好をして夜道を歩いただけでこれだけの危険が存在するというのか。

現代でも自己責任として被害者の落ち度が攻められる風潮が残っていることを考えると、1973年当時ではやや誇張しているとはいえこれをしごく当然のこととして描いていた恐怖を感じます。しかもこの演出の主眼は、女性の恐怖より男の病理を描くことにあったわけですから。

監督が描きたかったのは被害者である女性の恐怖よりも加害者である男性が抱える問題のほうであった。それはもう疑いようのない事実だと思うのですが、現代的視点で見ると監督の思惑を超えたところで身を結んだ、女性の日常に潜む恐怖を浮き彫りにした社会派映画にも見えてくるから不思議ですよね。

そう考えると中盤のフェミニズム木っ端微塵もまた違う見方ができるかも。狙ってこれをやったんだとしたらたいした先見性だとは思うのですが、たぶん違うんだろうなぁ。ただの天然なんだろうなぁ。でもいっか、それによって問題があぶり出されたことは事実だから。

なんかもうそういう部分も含めて何かと酷い傑作だとボクは思うのですよね。『フォーリング・ダウン』とか絶対これを下敷きにしてるよね。あれを好きな人も、不満な人も、人生で一度は観ておくべき何かと酷い傑作としてどうぞこの『マッドボンバー』を記憶の片隅にでも置いてやってくださいな。ホント、何かと酷い傑作なんですからこれ。

個人的評価:8/10点

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コメント

  1. ダムダム人 より:

    いやぁなちゅかしいです!!!

    高校の時、テレビで放送したのですが
    私は見ていなくてクラスの人間がみたらしく
    次の日、盛り上がっていました。
    (こんな怪作が放送できたあの頃がうらやましい!!!)

    >スーパーやらレストランで…
    これって「曜日の定義」や「顔をみて応対の強要」ですよね?
    あとになってこの作品を見たとき、爆笑しました。

    >記憶がときおりフラッシュバック
    このシーンをみて、ボラ○ノールのCMと評したコメントは
    笑えました。
    でも、時々聞いていたカセットは無くなった娘が歌っていたのかしら??

    あと確か爆破事件にあまり関係ない捕り物があった気がするのと
    最後がちょっとあっけない気がしました。

    • ダムダム人さん、コメントありがとうございます!返信が遅くなってしまって申し訳ありません!

      こんな映画を普通に地上波で流していた時代があったのですから凄いですよね。まあマッドボンバー氏は絶対的倫理観の守護者なわけですから、道徳的にはあれで正解だから教育的には良かったのかな?(いいわけないだろ!)「ゴミをポイ捨てする」のも「お客様をないがしろにする」のも、社会倫理的にはアウトですから。彼がクレーマーなのではなく社会のほうが間違っているのだ!と絶叫するのは心のなかだけにしておきます(笑)。

      ボクはあのカセットは死んだ娘さんのオリジナルソングだと思って観ていましたが、そのへんもちゃんとした説明がないのでよくわかりませんよね。ホントこの映画って無駄を徹底して排除した即物的な作品だから、いま観るとそうとう不親切なんだけどそのそっけなさが現代ではある意味魅力的だとも思います。それはもの凄いあっさり感で描写されたラストの人体大爆発にしてもしかり。それを目撃したジェロニモ刑事の余韻のなさがまたもう……。