恐怖のかたちは千差万別 ホラーじゃないけど怖い映画5選

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何に恐怖を感じるかは人それぞれ。ということは怖い映画も人それぞれ。ホラーじゃないけど怖い映画。ある意味ホラー映画よりも怖い映画。そんな映画知ってます?

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ホラーじゃないのに怖い映画

夏といえばホラー映画の季節。どこまでも追いかけてくる殺人鬼や、絶対に許してはくれない幽霊や、理解不能なキチガイどもに震え上がり、股間を縮ませ、この猛暑のなかで一時の涼をとる季節がやってまいりました。

だからといって、ホッケーマスクの奇形児、鉤爪のボーダー夢追い人、テキサスのお肉屋さん、扉の割れ目に顔を挟んだジャック・ニコルソン氏を紹介したところで芸がありませんので、ホラー映画ではないけど怖い映画、しかもマイナー系を、普通の人よりはちょっと多いボクの鑑賞歴から5作選んで紹介してみたいと思います。

今回は特に順位付けはしておりませんので、製作年度順に並べております。それではさっそく記事本文のほうをお楽しみください。

幸福(しあわせ)

  • 原題:Le Bonheur
  • 製作:1965年/フランス/80分
  • 監督:アニエス・ヴァルダ
  • 出演:ジャン=クロード・ドルオー/クレール・ドルオー/マリー=フランス・ボワイエ

幸福なのに怖い!

“ヌーヴェルヴァーグの祖母”と呼ばれるベルギー出身の女性監督アニエス・ヴァルダによる、ベルリン国際映画祭銀熊賞(審査員特別賞)受賞作です。

美しい妻と子供たちに囲まれた絵に描いたように幸せな男が、別の女性も愛してしまったことから起こる顛末を描いておるのですが、この映画の恐怖ポイントはそのものズバリ「幸福」です!幸せが恐ろしいのです!

写真家出身のヴァルダの感性が活かされた映像は、とにかく美しいの一言です。見かけ上は。そんな上辺の幸福感の裏側に潜む闇のチラリズムがとうとう表面化し、唐突なあっけなさで訪れる真相のわからない悲劇。そしてそのあとも続くまさかの幸福感。なんという恐ろしい幸せのかたち!

幸福の実感というのは人それぞれであり、言い換えればエゴの塊のようなもの。そんな幸せの一方通行性による欺瞞をあくまで幸福な描写にこだわって皮肉に描き出したヴァルダの感性は、ただただ恐ろしいの一言です。

DVDはすでに廃盤ですし、どうやらレンタルにもないようなので、容易に鑑賞することができないのが残念でなりませんね。

と思いきや!

なんとこのたび、この幻の名作『幸福』のBlu-rayが発売される運びとなりました!発売日は2016年5月27日。あの映像美が!そして恐怖が!なんとBlu-rayで拝めるのですぞ!ありがたや~ありがたや~。

セコンド/アーサー・ハミルトンからトニー・ウィルソンへの転身

  • 原題:Seconds
  • 製作:1966年/アメリカ/106分
  • 監督:ジョン・フランケンハイマー
  • 出演:ロック・ハドソン/サロメ・ジェンズ/ジョン・ランドルフ

映像がとにかく怖い!

社会派骨太アクションの巨匠ジョン・フランケンハイマー監督によるSFサスペンスです。

平凡な日々に倦怠感を覚えていた中年銀行家が、謎の企業から「当社のサービスでこれから別人の人生を送れますよ」と勧誘されてその気になっちゃう姿を描いておるのですが、この映画の恐怖ポイントは「映像」に尽きるかと思います。

タイトルデザインはかのソール・バス。彼の手による人体パーツ超接写からしてすでに怖いのですが、その後も妙なカメラ位置、ゆがみやズレ、圧迫感などを白黒映像によって一種の不条理劇、あるいは白昼夢のように映し出しており、なんだかよくわからない事態に巻き込まれた男の不安がとにかくシュールで怖いのです!

まあ現実的な物語の道筋が見えたあたりで映画としてはやや失速するのですけど、ラストの映像とロック・ハドソンの迫真の演技もひたすら恐ろしいです。実験的すぎて公開時は不評だったようですが、ようやく再評価され出したみたいで、ここ日本でもDVD化されたのはありがたい話。

フランケンハイマーによる同系統の作品としては『影なき狙撃者』もおすすめですよ。

さらに詳しい感想はこちら

三人の女

  • 原題:3 Women
  • 製作:1977年/アメリカ/124分
  • 監督:ロバート・アルトマン
  • 出演:シェリー・デュヴァル/シシー・スペイセク/ジャニス・ルール

わけわかんなくて怖い!

反骨の映画作家ロバート・アルトマンが手がけた、彼のフィルモグラフィでも最も異質で難解な作品ではないでしょうか?

カリフォルニアの砂漠を舞台に三人の女の関係と人格が交錯する非常に謎めいた作品なのですが、この映画の恐怖ポイントはとにかく「わからない」ということです。もうね、ホントにわけわかんないんですよ!

これははたして現実なのか何かの夢なのか?アルトマン自身が見た夢をモチーフとした観念的な内容ということで、とにかくつかみどころのない不条理さがわけもわからず怖いのです。語らない、明かさない、ただ表現するだけ。その不条理な映像の迷宮に迷い込んでしまった観客は、答えを探してひたすら迷走するのみ。

異色すぎる三人の主演女優、ボーディ・ウイントによる不気味で官能的な壁画、ジェラルド・バズビーによる前衛的なスコアも、この異様な映画の恐怖感醸成に大きく貢献しており、トータルとしても非常に完成度の高い1970年代を代表するアート映画の傑作のひとつだと思います。

怖い以上に凄い映画なのですよ!

SAFE(ケミカル・シンドローム)

  • 原題:Safe
  • 製作:1995年/アメリカ/119分
  • 監督:トッド・ヘインズ
  • 出演:ジュリアン・ムーア/ザンダー・バークレー

救われてるのに怖い!

『アイム・ノット・ゼア』『キャロル』などで知られるトッド・ヘインズ監督による1995年の社会派ドラマです。

化学物質過敏症の問題をいち早く取り上げた作品で、それに突然苦しめられることになった主婦の姿を描いておるのですけど、この映画の恐怖ポイントはそこだけではなく、この主婦が求めた「救い」もまた恐怖なのです。

化学物質過敏症を現代の奇病として描いたオカルト的恐怖もさることながら、それ以上にこれをきっかけとして表面化していく、彼女を取り囲んで防備していたはずの安全神話の崩壊もまた恐怖。豊かさの裏側の空虚さ。安定の奥底に隠れた爆弾。それらが病気をきっかけとして牙をむき、彼女を恐怖と不安のどん底へと叩き落とすのです。

そんな彼女が求めた救いとは、安全とは、安心とはなんだったのか?ラストの彼女は一見すると救われているようにも錯覚しますが、単なる逃避であり、盲信であり、根本的解決には程遠いのですよね。ただ、それにすがるしかなかったのが怖いのです。これがカルト宗教の本質ですよね。

いまだに日本でのDVD化は成されておらず、ほとんど観る機会が失われてしまっているのが残念な佳作です。

蝶の舌

  • 原題:La lengua de las mariposas
  • 製作:1999年/スペイン/95分
  • 監督:ホセ・ルイス・クエルダ
  • 出演:フェルナンド・フェルナン・ゴメス/マヌエル・ロサノ

トラウマが怖い!

アレハンドロ・アメナーバルの初期作品をプロデュースしていたホセ・ルイス・クエルダによる1999年の戦争ドラマです。

スペイン内戦を背景に、少年と老教師の交流と別れを描いた作品なのですけど、この映画の恐怖ポイントは社会情勢の変化によって植えつけられた「少年時代のトラウマ」です。

美しい映像のなかでやさしく映し出される少年と老教師との心温まる交流。理想的な人生の師との出会いによって、確実に人として大事なものを学んでいく少年の成長物語。タイトル、あらすじ、一部の映像を見るかぎりでは、確かに感動のドラマだと誤認してしまいそうになる。

いや、それはあながち間違いではないのですが、その認識は急転直下の後半によってもろくも瓦解してしまいます。ネタバレは避けたいので多くは語りませんが、勝手な大人、激動の社会情勢によって、わけもわからず裏切りの片棒を担がされてしまう少年の叫びがたまらず痛々しく、悲しく、恐怖なのです。

この体験をはたして彼はどのように記憶して成長していったのか?このトラウマを克服することはできたのであろうか?こんな恐ろしい体験をしていびつな人間になったりしていないだろうか?ああ~心配だ!

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終わりに

「恐怖のかたちは千差万別 ホラーじゃないけど怖い映画5選」皆さまいかがでしたでしょうか?観てみたいと思われた作品はありましたでしょうか?

マイナー系ばかりのチョイスですので、現在は観るのがやや困難な作品もありますけど、ここで紹介したこの5作品は、ただ怖いだけではなくて映画としての出来にも素晴らしいものがありますので、機会がありましたらぜひ鑑賞してみてください。

非ホラー系恐怖映画の筆頭格としては『2001年宇宙の旅』『惑星ソラリス』『レクイエム・フォー・ドリーム』などがあるかと思いますが、それらは有名すぎるのであえて外しております。

ほかにも「ホラーじゃないけどあれは怖かった!」という映画があったらぜひとも教えていただきたいですね。大好物なもんでして。

こういうまとめ記事的なものを書くのはこれが2度目ですけど、やっぱりこういうのって楽しいですね!月イチでやっていこうかな? 今回はやや変化球的な恐怖映画のまとめでしたけど、次は正統派のランキングを作ってみても面白そうですよね。

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追加の非ホラー怖い映画リスト

本記事作成以降に登場した非ホラーだけど怖い映画。このラインナップに入っても遜色ないそんな映画たちを、簡単ではありますが追加で紹介してみたいと思います。

白い肌の異常な夜

男臭い映画が得意だと思われている、ドン・シーゲル&クリント・イーストウッド師弟が挑んだ、性にまつわる怪しさムンムンのサスペンス映画です。あのイーストウッドが体験する女の園での恐怖をとくとご堪能あれい!

野火

戦争の、戦場の、人間の真実を描いた塚本晋也の執念が結実した渾身の戦争映画です。いわゆる戦争映画の高揚感など微塵も感じさせない、死ぬも地獄、生きるも地獄の果ての恐怖をどうぞその眼球に刻み込みください!

帰ってきたヒトラー

現代へとタイムスリップしてきたヒトラーがモノマネ芸人として大ブレイク!?という奇抜な設定によるSFブラックコメディとして楽しんだあなたを、最後には現実的恐怖が浸食してくるであろう笑って怖い異色作!

ファンタスティック・プラネット

未知の惑星イガムで繰り広げられる人間と巨人との戦いを描いた摩訶不思議な切り絵アニメーションです。ヒエロニムス・ボス的世界観が絶妙のカクカクで動き回る、シュールすぎる映像の洪水は悪夢にうなされるほどの気持ち悪さ!

籠の中の乙女

外界と隔離された家で狂気の両親から飼われている3人の子供たちの幸福と不幸を描いた不条理ファミリードラマです。狂気の箱庭的世界で繰り広げられる悪夢のような家族団欒。突発的暴力描写なんてヘタなホラー映画よりはるかに怖い!

たかが世界の終わり

久々に再会した家族のあいだに流れる不協和音を描いた辛辣すぎる家族ドラマです。家族とは最も近いがゆえに最も厄介なもの。わかり合えない家族がともに過ごす時間の緊張感は、まさに何も起きない恐怖のサスペンス!

ハングリー・ハーツ

最愛の我が子を守るために神経を高ぶらせていく妻の奇行によって苦しめられる夫の姿を描いた家族ドラマです。愛ゆえのエゴイズムがその対象を苦しめ、傷つけ、取り返しのつかない事態を引き起こす暴走した愛の恐怖。愛さえなきゃ!

ヒトラーの忘れもの

第二次大戦終結直後のデンマークで地雷撤去を強制されたドイツ人少年兵たちの姿を描いた戦争ドラマです。戦争が生み出した憎悪の凄まじさと赦しの必要性を描いた良作なのですが、とにかく地雷撤去の緊張感が尋常ではない瞬間!瞬間!

静かなる叫び

モントリオール理工科大学で実際に起きた銃乱射事件を描いた社会派サスペンスです。意図的に情報を制限しながら雄弁に物語ってみせた恐ろしくも美しい傑作。若きヴィルヌーヴの才気があふれた恐怖と絶望と希望の物語です!

ザ・スクエア 思いやりの聖域

「思いやりと信頼」を掲げる男の化けの皮が見事に剥がされていく社会派ブラックコメディです。主人公の醜態を「どうです皆さんみっともないでしょう!」と我々に共有させながら、そのじつ我々自身をもぶっ叩いてくる恐怖のブーメラン!

新たな非ホラー恐怖映画を見つけ次第、随時この記事へと投下していくつもりですので、お好きな方はこうご期待!

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コメント

  1. こんにちは。毎日暑いですね〜。
    え?「2001年宇宙の旅」って怖いんですか?実はこの作品、観たことあるのかないのか自分でも定かでないという不思議な感覚があるんです。ひょっとしてテレビか何かで観たけど、思い出さない方がいいという判断から、記憶が封印されているのかも、な〜んて考えたりもして。
    観てみようかなと思う度、頭のどこかから「ダメだめ、止めた方がいいよ」という声が聞こえるような気がするんですわ。あ、因みに私はかなり閉所&暗闇恐怖症でして「ゼログラビティ」はおそらく一生観ることはない作品だと思ってます。

  2.  映画ではありませんが、「まんが日本昔話」に「飯降山」というのが日本昔話らしからぬホラーでした。
     3人の歳の違う尼さんが修行である山に籠る。1人は年輩の仏のような笑顔の尼僧、もう一人はその弟子らしい30歳くらいのおっとりとした尼僧、3人目はまだ10代の出家したての生真面目な尼僧。
     この3人に、天から毎日おにぎりが3個降ってくるようになってから、3人の信頼関係に亀裂が生じ、やがて・・。
     視聴者の子供たちにトラウマを与えるような内容ですが、それでも原版に比べればかなりマイルドにしています。原版ではカニバリズムが横行しますから。
     スパイクロッド氏なら、知らなくても以上の説明で話の内容を正確に推察されることでしょう。

  3. スパイクロッド より:

    ケフコタカハシさん、コメントありがとうございます!
    ボクにとっての『2001年宇宙の旅』はまさに恐怖です。
    何が怖いって映像が怖すぎる!
    キューブリックの撮る映像は全部怖い!
    ボクは暗所は平気ですけど閉所はダメですから、
    限定された閉鎖空間というのも恐怖のひとつです。
    『ゼロ・グラビティ』も怖い映画ではありましたけど、
    それ以上におもしろいのでぜひ観ていただきたいのですけど、
    恐怖症もちでは致し方ないですね~。

  4. スパイクロッド より:

    晴雨堂ミカエルさん、コメントありがとうございます!
    『飯降山』さっそくyoutubeで観てみましたけど、
    なるほど、こいつはなかなかのトラウマアニメですね。
    「いい味出してるな~」と思っていたら、
    演出があのいがらしみきお氏ではないですか!
    こんなこともやってたんですね。
    唯一の生存者の証言をもとにした伝聞という形式ですので、
    ここで描かれていることに真実はないですよね。
    飯なんか降ってきてねーだろ!って話です。
    しかもそれを神が許したもうたとかなんとか、
    聖職者の自己正当化というか狂信が恐ろしいですね。
    いちど渇きを潤した喉はもっと水を欲しがる。
    生への執着は時として狂気を生むものなのですね。