『デッドゾーン』感想とイラスト グッバイ、アイラブユー

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映画『デッドゾーン』クリストファー・ウォーケンのイラスト(似顔絵)

5年の歳月を、健康な体を、愛する女を奪われた男。代わりに彼に与えられたのは世界を救えるかもしれない千里眼。神様、僕に「死ね」と仰せなのですね?

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作品情報

『デッドゾーン』

  • 原題:The Dead Zone
  • 製作:1983年/アメリカ、カナダ/103分
  • 監督:デヴィッド・クローネンバーグ
  • 原作:スティーヴン・キング
  • 脚本:ジェフリー・ボーム
  • 撮影:マイク・アーウィン
  • 音楽:マイケル・ケイメン
  • 出演:クリストファー・ウォーケン/ブルック・アダムス/マーティン・シーン/ハーバート・ロム/トム・スケリット

参考 デッドゾーン (映画) – Wikipedia

予告編動画

解説

交通事故による昏睡状態をきっかけとし、他人に触れることによってその人物の過去・現在・未来を見通す能力を手に入れた男の、異端ゆえの孤独と使命を描いたSFスリラーです。

監督は『ヴィデオドローム』『ザ・フライ』の我が心の師デヴィッド・クローネンバーグ。原作はスティーヴン・キングで、何かと失敗作の多い彼の映画化作品のなかでは『キャリー』などと並ぶ数少ない成功例かと。

主演は『ディア・ハンター』のクリストファー・ウォーケン。共演には『SF/ボディ・スナッチャー』のブルック・アダムス、『ある戦慄』のマーティン・シーン、『M★A★S★H マッシュ』のトム・スケリットなど。

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感想と評価/ネタバレ有

カナダの変態ボディホラー作家という位置づけから、より広い世界で認知されるきっかけとなったクローネンバーグの出世作。何かとポンコツが多いスティーヴン・キング原作の映画化作品のなかでも数少ない成功例で、公開当時から各国での評価・興行も上々だった模様。

しかしここ日本ではどうにも不遇な扱いで、初お目見えは2年後の東京国際映画祭での限定上映。さらに一般公開は2年後の1987年で、しかもミニシアターのみでの封切り。地味すぎる内容に「これでは稼げん!」と思われたのかもしれませんが、こいつはとんだ節穴だ。

まあかくいうボクも節穴で、若い頃はこの地味さを正当に評価することができなかったのですけど、年とって観返すと胸に染み入る痛ましい話でありまして、我がの節穴を恥じ入り穴があったらハメてみたい、そんな節穴男による穴だらけの『デッドゾーン』評の始まりです。

変化との向き合い方

ニューイングランドで教師を務めるジョニー。同僚であり恋人でもあったサラとのデートの帰り、交通事故に巻き込まれた彼は長い昏睡状態へと陥る。やがて目を覚ましたジョニー。しかし彼に突きつけられた現実は、無常に過ぎた5年の歳月と恋人サラの結婚だった。

そんな現実を容易には受け入れられないジョニーだったが、事故の影響からか彼には触れた相手の過去・現在・未来を見通す千里眼が備わっており、それもまた彼を苦しめる要因となった。しかしある人物との出会いを機に、彼は自らに課せられた使命へと気づくのであった……ってのが簡単なあらすじ。

常になんらかの事態による肉体の変容を描いてきたボディホラーの旗手クローネンバーグ。そんな彼が初めて精神の変容へと挑んだ作品と紹介される場合もあるがそれは間違いで、肉体の変容は常に精神の変容も伴うものであり、要はどちらに重きが置かれているかの問題だけ。

今回はたまたま精神の変容、内的変化へと目を向けているだけの話で、主人公ジョニーは他のクローネンバーグ作品と同じく、心と同時に体にも変化が起きているのが重要な事実でもあるのです。定期的に襲う頭痛。髪型。思うようには動かなくなった足。もう昔には戻れない。

しかし昏睡状態にあった5年間は彼にとっては昨日の話であり、突然変わってしまった自分、そして以前とは違う世界との対峙の仕方がわからない。それに対するひとつの解答を導き出すまでの話とも言えますが、それがはたして正しい選択だったのかどうかは難しいところです。

情けが仇

長い眠りから目覚めた彼に突きつけられた現実は、恋人サラのほかの男との結婚、思いどおりには動かない体、そして他人の過去・現在・未来を見通す千里眼という欲しくもない超能力。クローネンバーグと超能力と言えばやはり皆さま『スキャナーズ』を思い出すことでしょう。

しかしあちらの血管もりもりハゲ頭ぼっかん炎でどろどろ~のような派手な描写はなく、この『デッドゾーン』の超能力描写はあくまでジョニーの視覚の延長、現実と地続きなリアルさで描かれております。この手触りは『マップ・トゥ・ザ・スターズ』に近い感触です。

平凡だった男が突如として手に入れた恐るべき力。それを浮世離れした非現実として描くのではなく、あくまで現実と隣接したさりげなさでそこに存在する延長線としたのは、ジョニーが抱える苦悩、孤独、そして決断をより身近なものとして感じさせる狙いがあったのでしょう。

見たくもないのに見える能力によって与えられる救いと解決。しかしそれによって突きつけられるのはもはや自分は本来の自分ではないという紛れもない現実。変わってしまった自分を、周囲との関係を、世界との隔たりを受け入れることができない時間が抜け落ちた過去の男。

そんな男の哀れさは、「長く待ちすぎたんじゃない?」と言って子連れでやって来たサラにお情けで抱かせてもらうシーンに凝縮されているような気が。彼女のやさしい憐れみと残酷さ。彼が「今」を生きるためには再会すべきではなかった。情けなどかけるべきではなかった。

破滅を呼ぶ男との出会い

サラとのお情け情事はジョニーが新しい「今」を生きる機会を奪ってしまった。彼はいつまでも幸せだった過去に縛られ続ける記憶の囚われ人となってしまった。人間の新たなステージとも言える能力を手に入れながら、進歩ではなく停滞、そして後退する人間になってしまった。

千里眼によって人の命を救い、未解決事件を終結へと導いても、彼の心に平穏が訪れることはなく、むしろその能力による他者との軋轢に苦しむばかり。自分を知らない土地へと移ってもその苦しみから逃れることはできず、あろうことか偶然にもまたサラと再会してしまう。

そうして運命の歯車は破滅へと回り始め、ジョニーは上院議員候補グレッグ・スティルソンと出会うのです。彼と握手した瞬間に見えた、大統領へと選出されたスティルソンによってもたらされる核戦争勃発のビジョン。世界を破滅へと導く男と出会った瞬間。

教え子の命を救った経験から、彼の見るビジョン、デッドゾーンにはグレイな部分があり、不変ではなく改変可能だと悟ったジョニーは、スティルソンが将来生み出す破滅を阻止するのが自分の役目であり、そのためにこの能力を神から授けられた使命だと確信いたします。

自分の能力に初めて希望を見いだした瞬間。しかしこれは自身の破滅へのカウントダウンでもあり、はたして彼が選択した決断は神から委ねられた宿命だったのか、それともゆがんだ使命感だったのか、もしくは無意識に求めた終わりへの渇望だったのか、ボクにはわかりません。

グッバイ、アイラブユー

キングの原作にはなかったらしい、「僕に備わったパワーを今は神の恵みだと思っている」というジョニーのセリフ。脚本は別の人間だが、無神論者であるクローネンバーグがなぜわざわざこのセリフを付け足したのか?信じてもいない神の恵みとはいったいなんなのか?

立証不可能な破滅の予知によって要人暗殺を企てた男。彼の行為は正義なのか?狂気なのか?それとも逃避なのか?その清濁を曖昧なまま突っ走ったカオスこそがクローネンバーグの真骨頂であり、この『デッドゾーン』という映画の冷たい悲しさの正体ではないでしょうか。

正義であれ、狂気であれ、逃避であれ、そうするしかすべがなかった男の悲劇。結局スティルソンの暗殺は失敗に終わり、ジョニーは撃たれて致命傷を負うものの、サラの子供を盾にしようとしたスティルソンの非道が撮影されたことにより、彼の人生は破滅へと向かうことに。

ジョニーの目的は、使命はこれで達成された。しかし彼の真の目的とは、愛するサラの腕のなかで死ぬことではなかったのだろうか?幸福だった過去に生きる男はもうすべてを終わらせたかった。愛する人の腕のなかで。別れを告げ、望むべき一言を引き出すために。

「Goodbye……」「………I love you……」

個人的評価:7/10点

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コメント

  1. ダムダム人 より:

    〝スティルソン「私は国民の代表だ!私の意志は国民の意思だ!!」〟

    この作品との出会いは、MSXマガジンという雑誌の記事でした。
    その時の記事もやはりキングの小説の映画化なので、お蔵入りになる可能性大と
    記されていました。

    その後、と或るビデオソフト関連の雑誌での紹介記事を読んで
    すごく見たくなりましたが、当時は輸入ソフトのみ。
    (その当時、「ダンウイッチ」という名のレンタル店に置いてあるのを
    何かで知って行きましたが、レンタルなので買えませんでした。)

    そして、1986年頃、やっと国内版が出たので、かいました。
    (驚くべきことに半年くらいで絶版!!)
    そして「欧日協会ユーロスペース(ご紹介のあったミニシアター)」に行って
    パンフだけ買いました!!
    **その日も、入場待ちの長い列ができていました**

    いやあ、よかったですね!!
    なんで、この作品が一般公開されなかったのか、今でも理解できません。
    (やはり当時はインパクトが弱かった??)

    〝ジョニー「お話をなされましたか?」
    ワイザック医師「いや、そのまま電話を切ったよ」
    ジョニー「なぜ?」
    ワイザック医師「過去は捨てた…〟
    色々なけるシーンはありましたが、
    ワイザック医師が母親に電話をかけたけれど
    母の声を聞いたとたん、目頭を抑える所は泣けました

    >教え子の命を救った経験
    このシーンは、配給会社(だったと思います)から
    教え子の無事をはっきりさせてほしいという要請で入れたそうです。

    日曜洋画劇場で放送した時の野沢さんと富山さんの吹き替えは最高でした!!
    ブルーレイで発売する時は、これを入れてほしいです

    そして、某大統領がスティルソンの様な事をしない事を願うばかりです。
    (あの人はあまりにもスティルソンに似ている…)

    –長い割りに内容が無くてすみません–

    • スパイクロッドスパイクロッド より:

      ダムダム人さん、コメントありがとうございます!

      長らく『デッドゾーン』の感想記事をお待たせいたしましたが、楽しんでいただけましたでしょうか?いつになく真面目な文章になってしまったのはやはりこの映画の冷たい悲しさが原因であり、あらためてせつない想いでいっぱいになりました。

      ダムダム人さんもおっしゃっておられますが、ジョニーの能力に触れた人物の反応がこの『デッドゾーン』という映画の肝ではないかとあんがい思っております。死んだと思っていた母の声を聞き、そっと目頭を押さえるウイザック医師。ジョニーのことを「悪魔」とののしる連続殺人犯の母親。彼を慕う教え子クリス。息子の命を救ってくれた相手に畏怖の念をいだく父親。そしてスティルソン。今の時代に観ると否が応でもトランプ大統領とダブりますが、ホント、頼むから変なことはしないでいただきたいですね。

      しかし、ボクはこの『デッドゾーン』という映画の欠点はあまりに戯画化されたスティルソンの描写にあったと思っていたのですが、まさかこれとそっくりな大統領が本当に登場してくるとは夢にも思っておりませんでしたわ……。

  2. H.I. より:

    やっと、かの大統領とスティルソンの類似を指摘する記事にめぐりあいました。あちらではないのでしょうかね?

  3. H.I. より:

    今、2018年現在ぐぐったら結構ありましたね。かの大統領とスティルソンの比較。以前調べた時なかったと思ったのは検索の仕方が悪かったのかな…

    • H.I.さん、コメントありがとうございます!

      今の時代にわざわざ『デッドゾーン』の記事を書く人自体が少ないかと思われます。でもかの大統領の登場によって本作のスティルソンを想起した人もまた少なくはないはず。ボクのレビューでも視点はあくまでジョニーの側にあり、スティルソンを掘り下げることはあまりしておらずコメント欄で言及した程度ですが、そこに注目して本作を掘り下げていくのもまた面白いでしょうね。「んなアホな~」という人物像が、まさか現実化してしまうという奇跡というか狂気というか恐怖。いよいよ現実が物語を破壊し出してきたのかもしれません。