絶望と孤独に打ち勝つポジティブシンキング。ひとりぼっちでもとにかく明るいスターマン。いやさゴリラーマン。もといマット・デイモン。彼はしょっちゅう宇宙に取り残されます。
作品情報
『オデッセイ』
The Martian
- 2015年/アメリカ/142分
- 監督:リドリー・スコット
- 原作:アンディ・ウィアー
- 脚本:ドリュー・ゴダード
- 撮影:ダリウス・ウォルスキー
- 音楽:ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ
- 出演:マット・デイモン/ジェシカ・チャステイン/キウェテル・イジョフォー/ジェフ・ダニエルズ
予告編動画
解説
火星にひとり取り残されたゴリラーマンが懐かしディスコソングでなんとか糊口をしのぐSFアドベンチャーです。原作はアンディ・ウィアーのSF小説『火星の人』。
監督は『エイリアン』と『ブレードランナー』というSF映画の傑作2本を手にしている、何を撮ってもSFになる男リドリー・スコット。主演は『グレートウォール』のマット・デイモン。
共演は『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』のジェシカ・チャステイン、『ドクター・ストレンジ』のキウェテル・イジョフォー、『サムシング・ワイルド』のジェフ・ダニエルズ、『アントマン』のマイケル・ペーニャ、『LIFE!』のクリステン・ウィグなど。
あらすじ
人類史上3度目の有人火星探査ミッション“アレス3”。しかし突如として襲った強烈な砂嵐によってミッションは中止。火星を退避することになったのだが、その過程でクルーのひとりマーク・ワトニー(マット・デイモン)が折れたアンテナの直撃を受けて行方不明に。
船長のメリッサ・ルイス(ジェシカ・チャステイン)はワトニーの姿を必死に捜すものの、タイムリミットと自分たちの命の危機も迫るなか、彼を置いて火星を脱出するという苦渋の決断を下す。ミッションの失敗とワトニーの死はすぐさまNASAにも伝えられ、地球中が彼の死を悼んでいた。
しかし驚くべきことに、なんとワトニーは生きていた!一命を取り留めた彼は人工居住設備(ハブ)へとなんとか帰還するものの、次のミッションが火星へとやって来るのは4年後。通信手段は断たれ、物資も残り少ないなか、彼の決死のサバイバルが始まるのであった!
感想と評価/ネタバレ多少
何を撮ってもSFになる男リドリー・スコット。ごくごく一部を除けば、デビュー作の『デュエリスト/決闘者』も『ブラック・レイン』も『ブラックホーク・ダウン』も『エクソダス:神と王』も、広義の意味ではぜ~んぶSF。
そんな彼が『プロメテウス』以来となる、久々に監督した正真正銘のSF映画。「期待するな」というのが無理な話であります。ちなみに3Dは食傷気味なので、今回は2D字幕版での鑑賞。それではSFアドベンチャー『オデッセイ』の感想、行ってみましょう。
遠いようで近い火星
ひとりぼっちで火星に取り残されたゴリラーマン、もといマーク・ワトニー(マット・デイモン)。植物学者でそれなりに頭のいい彼が、知恵を絞ってなんとか生き延びる黄金伝説、いやさDASH村、もとい火星サバイバル。状況としては絶望的なんですよ、ワトニーさん。
こういう映画を『オール・イズ・ロスト ~最後の手紙~』のように無言で描いても面白いとは思いますが、それでは大赤字は目に見えているということで、とにかく主人公ワトニーはひとりで喋り続けます。
映像日誌というかたちで、寂しさも手伝ってか記録カメラに向かってひたすら喋り続ける彼の姿は、とにかくポジティブシンキング。時に人間臭さ、時にユーモア、時に説明ゼリフを交えながら、この孤独な闘いのなかで希望を失わないように自らを奮い立たせている彼の姿。
確かに言葉がないよりあったほうが理解、共感が得やすい。そして彼が実行していく生きるための地味な工夫と努力の積み重ね。この地味さも我々の生活に近い。つまりは遠い話のようでけっこう近い。
「70億人が、彼の還りを待っている。」というキャッチコピーが示すとおり、なるべく間口を広く作っているわけですな。実は残酷大王であるリドリー・スコットの映画なのにレイティングが「G」に抑えられているのがその証拠。
置きに行ったリドリー
いきなりのネタバレ、というか皆さんだいたいの予測はつくでしょうけど、誰も死なないリドリー・スコットの映画。これってけっこう珍しいことなんですよ。前作の『エクソダス:神と王』なんて大殺戮映画でしたから。
バッキバキに決めてきたビジュアルと、容赦のない残酷描写と、少々難解な物語。これを支持してきたリドリー・スコットファンとしては、正直なところ物足りないというのがこの映画に対する評価です。
宇宙服などのガジェットはいいものの全体的な画の弱さ。ユーモアのセンスがないリドリーによるコメディタッチ。誰も死なない物語。う~んこれってリドリー・スコットが監督する意味あったのかな?
ただの監督が撮ったSFアドベンチャーなら十二分に評価できる仕上がりなんですけど、なんたってあの『エイリアン』と『ブレードランナー』を撮った男ですからね。「こんなもんじゃねーだろ!」って話です。
ここ最近は興行的に苦戦を強いられてきたので、確実な成功、成果が欲しくてやや置きに行ったかな?オールドファンとしては正直不満ではありますが、これは致し方ありませんかな。
基本的には良い映画
リドリー以外の監督が撮った映画なら十二分に合格点。と書きましたとおり、基本的には悪くない映画です。いや、いい映画です。誤解を恐れずに言えば、スケールアップした『アポロ13』みたいな映画。
宇宙という神秘と恐怖が入り混じった空間で闘う、我々に近しい等身大の男の奮闘劇。特にマーズ・パスファインダー(火星探査機)を使って、なんとか地球と交信を図るくだりは出色でしたよね。
科学的リアリティという点でも、詳しい方には難癖つけたい箇所が多数あるようですけど、我々おバカな一般人にはさして問題はありません。『アルマゲドン』や『ザ・コア』のようにバカでもわかるトンデモSFではありませんので、普通に感心、ハラハラドキドキできることでしょう。
そしてリドリーの映画にしては珍しいコメディタッチによる間口の広さと、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』などとも通じる既成曲の使い方。基本的にディスコソングはあまり好きではないのですけど、ストーリーとも密接にリンクした使い方は素直に上手。
有名どころとしてはABBAの『Waterloo』。ドナ・サマーの『Hot Stuff』でしょうね。
個人的にはやはりデヴィッド・ボウイの『Starman』に涙腺を鷲づかみにされてしまったのですけど、公式動画がなかったので貼り付けは断念。あらためご冥福をお祈りします。
下衆な次回作を心待ちに
孤独のなかでも希望を失わない超ポジティブシンキングの男。彼の救出法をなんとか探るNASAの面々。危険を承知で助けに向かう仲間たち。そして彼の帰還を祈る民衆たち。ひとつの命にかける皆の想い。うん、いい映画だ。
しかしボクは生粋のゲス男。そんなボクのゲス魂を満足させる傑作を撮り続けてきていたリドリー・スコットの作品だけに、何度も言うように不満です。とにかく明るいリドリーの映画なんてボクは観たくなかった。もっとゲスに最悪な映画が観たかった。
しかしこの作品の大ヒットによって、しばらくは彼の監督としてのキャリアも保障されたわけですから、また近いうちに彼のやりたい放題のゲス映画が拝めることでしょう。それは『プロメテウス』の続編である『エイリアン:コブナント』になるのか?まったく違う映画になるのか?皆さま乞うご期待。
個人的評価:5/10点
DVD&Blu-ray
VOD・動画配信
『オデッセイ』が観られる動画配信サービスはTSUTAYA TV、U-NEXT、。おすすめは毎月もらえるポイントによって視聴可能なTSUTAYA TV(2018年12月現在。最新の配信状況は各公式サイトにてご確認ください)。
コメント
ゲスニックマガジンのマープルです(‘◇’)ゞ
明るい、極めてポジティブなSF映画でしたね。
火星の取り残されてもずっと前向き。ディスコメロディがいいですねえ。
「プロメテウス」の続編はやや怖い気がすますが、この映画は結構好きです。
あまりにポジテブ過ぎて悲壮感や孤独感があまり感じられなかったのが残念です。
リドリー・スコットでなくてもエエやないかというのは同感です。
宇宙服が大気圏外用と火星用とが違うのが説得力がありました。
ミス・マープルさんコメントありがとうございます!
この明るさを良しとするか悪しとするかで大きく評価は変わってくるでしょうね。ボクの評価は記事本文に書いたとおりですけど、やっぱりこういう映画には必要不可欠な「絶望」が欲しかったなぁ。ボク的には勢い余ってやっちゃった『プロメテウス』のほうが好みですね。続編にも今から期待です!
晴雨堂ミカエルさんコメントありがとうございます!
こういう映画は絶望と孤独のなかでいかに希望を失わず、闘い、生還するかですからね。そういう意味ではボクの評価も物足りません。リドリー・スコットらしからぬポジティブさが逆に評価されている向きもあるようですけど、だったらリドリーやなくてもエエやん?っちゅう話ですからね。
鑑賞しました。
リドリースコット作品はこれとエイリアンぐらいしか見ていませんが感想はなんか納得できます。
僕もエイリアン1作目を最近何度もみてるのでもっとえぐいのがみたいと思った口です。
それでいうと冒頭の傷の処置シーンは唯一らしさがあった場面かなと思いましたし、客層も普段変わった映画をあんまりみない一般層が多めだったのでそういったシーンでのお客さんの反応は新鮮でついにやりとしてしまいました。
劇場がざわついた感じ含め正直僕はあのシーンが一番好きですw
ひとりで絶望的な状況に置かれる映画は色々ありましたが、僕もこの映画は変わった切り口で面白かったです。
何やら取り残されるものの映画としてはやけに明るいと聞いていたのですが、そういう情報なしで観た方が驚きがあってより楽しめたかもしれないです。
また、たまむすびの町山さんの紹介を聞くとちゃんと状況に合った曲を選曲しているようで、やっぱり歌詞の字幕もあった方が観てて楽しかったような気がします。(出来ればそのバージョンで観てみたい。)
そういえばオープニングタイトル、エイリアンが始まるかのようでしたね。
ちなみに僕は1人サバイバル映画はキャスト・アウェイが好きです。
えるぼーロケッティアさんコメントありがとうございます!
ボクはリドリー・スコットの映画はすべて観ておりますけど、このカラッとした明るさはどうにも違うと思いました。こんなリドリー・スコットの映画を観たかったわけじゃない。基本的にはいい映画だったと評価はしますけど、やはりヒットのために置きに行ったという印象はぬぐえません。まあ弟トニーの死を振り切った明るさととらえることもできるでしょうけど、この人もとから暗かったですからね。トニーの死をきっかけに暗くなったわけではありませんから。ホントに彼らしさが最も表れていたのは傷の処置シーンぐらいですね。ボクもあそこは好きです。
らびっとさんコメントありがとうございます!
このカラッとした明るさをどう取るかなのですよね。普通の監督が撮った映画なら「ああ、こういう切り口もあるか」とは思うものの、なんせあのリドリー・スコットですからね。そんな明るいキャラでもないのに無理してる感じがどうしてもしてしまう。根っこはやっぱ『エイリアン』ですから『エイリアン』。宇宙でひとりぼっちって映画なら『サイレント・ランニング』。ふたりサバイバル映画なら『太平洋の地獄』なんてどうでしょう?