『殺しのドレス』感想とイラスト 粘つくウザさがたまらない

映画『殺しのドレス』ナンシー・アレンのイラスト(似顔絵)

「素敵な私たちの午後」ののちにエレベーター内で全身を切り刻まれたノーパン主婦。彼女の欲望が、不安が、夢が娼婦の夢とつながり、世界は粘つくような絡みつくような淫夢へと包まれ、ボクはその夢のなかで夢を見る……。

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作品情報

『殺しのドレス』

  • 原題:Dressed to Kill
  • 製作:1980年/アメリカ/105分
  • 監督・脚本:ブライアン・デ・パルマ
  • 撮影:ラルフ・ボード
  • 音楽:ピノ・ドナッジオ
  • 出演:ナンシー・アレン/キース・ゴードン/マイケル・ケイン/アンジー・ディキンソン/デニス・フランツ

参考 殺しのドレス – Wikipedia

予告編動画

Dressed to Kill Official Trailer #1 – Michael Caine Movie (1980) HD

解説

欲求不満から行きずりの男と関係を持ち、その帰りにエレベーター内で何者かによって惨殺された人妻。事件を目撃してしまった娼婦と、被害者の息子とが協力して犯人捜しに奔走する姿を描いたエロティックサスペンスです。

監督と脚本は『ボディ・ダブル』のブライアン・デ・パルマ。冒頭のシャワーシーンやエレベーターでの惨殺シーンが卑猥かつ残虐であるとX指定(日本でいう成人指定)を受けたため、それらをやむなく削除して公開し、デ・パルマは怒りに震えたというのは有名な話(現在観られるのは当然ノーカット版)。

主演は当時のデ・パルマの奥方でありデ・パルマ映画の常連ナンシー・アレン。アレンと事件を捜査するオタク少年に『クリスティーン』のキース・ゴードン、欲求不満の人妻役に『殺人者たち』のアンジー・ディキンソン、事件の鍵を握る精神科医に『燃える戦場』のマイケル・ケインなど。

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感想と評価/ネタバレ有

愛のメモリー』『フューリー』『ミッドナイトクロス』そして今回の『殺しのドレス』と、近年デ・パルマの名作が次々にBlu-ray化されているのは喜ばしい反面、ボクのうっすい財布には大打撃。でも買っちゃう。いくらであろうが迷わず買っちゃう。そしてさらに薄くなるボクの財布。

そんな日増しに薄くなっていくボクの財布とは対極に位置するのが、とにかく濃いくてしつこくて胃もたれ必至な今回ご紹介する『殺しのドレス』。面白いんだよ。大好きなんだよ。でもやっぱこりゃ濃厚すぎるわ。こういうところがデ・パルマの嫌われるゆえんなのよね~。

ウザさ全開トリックスター

再婚した夫と高校生の息子ピーターと暮らす平凡な主婦ケイト。彼女の不満は夫との性生活。そんな欲求不満を主治医のエリオットに吐露した帰り、美術館で出会った男と情事に及んだケイトは、エレベーター内で何者かによって惨殺されてしまう。

その現場を偶然にも目撃してしまった娼婦のリズ。唯一の目撃者として犯人から命を狙われる羽目に陥った彼女は、ケイトの息子ピーターの協力を得て、自分たちの手で犯人捜しへと乗り出すのだったが……ってのが簡単なあらすじ。

主役だと思っていた中年女性が中盤でいきなり殺され、前半と後半でまさかの主役交代劇が起こるという構成はまさに『サイコ』の生き写し。ピノ・ドナッジオによる甘ったるい旋律に乗せた冒頭のシャワーシーンからして、すでに『サイコ』をやる気が満々ですからね。

しかしヒッチをどれだけ真似しようが、むせ返るぐらいのデ・パルマ臭がスクリーンに充満するのもまたいつものこと。もうしつこいぐらい、ウザいぐらいにデ・パルマです。その元凶はヒッチの合理性とはかけ離れたデ・パルマの偏執的なまでの粘着性にあるのでしょうね。

ヒッチコックが関節技の名手なら、デ・パルマは意味もなく飛び関節ばっかりを仕掛ける無駄に派手なトリックスター。そこがまっとうな映画ファンから嫌われる原因であり、まっとうではないボクらデ・パルマニアから愛される魅力でもあるのですけどね。

粘つくぐらいエロい

冒頭のシャワーシーンからそんな粘ついた偏執性がウザいぐらいに全開です。ピノ・ドナッジオの甘い旋律に乗せて長々と描写される、熟女マニア垂涎のアンジー・ディキンソンによる艶めかしい早朝シャワータイム(撮影時のディキンソンの年齢は49歳)。

彼女のおねだり顔面、まさぐる乳、うずく股間を、たまに黙々と髭を剃る親父のカットを挟みながら、「これでもか!」と執拗に繰り返すデ・パルマの粘つき加減が容赦なくウザいくらいにエロいです(ただし乳と股間は替え玉。これが『ボディ・ダブル』の元ネタとなったのは有名な話……って狭い話だ)。

そんな彼女の背後にどこぞから湧いて出た屈強な男が現れ、うしろからズコズコとレイプされて突然無理矢理サスペンスぅ!?と思いきや、壊滅的にセックスがヘタな旦那の下で、欲求不満にその身を焦がすディキンソンの夢オチだったといういつものデ・パルマ演出。

平凡な主婦が抱える性への欲求不満を白昼夢として粘っこく描出した、特に必要ではないけど必要ではないからこそ無駄に力が入った必要不可欠な無駄エロ出血大サービス。結局「必要か不必要かどっちなんだ?」という疑問は至極当然ですが、「それはあなた次第!」としかボクには言いようがありません。

過剰にサスペンスフルな美術館での恋の駆け引き、タクシーに放置された使用済みパンツ、事件解決のために黒い下着で精神科医を誘惑するナンシー・アレン、なぜかはち切れんばかりに豊満な肉体を誇る看護婦と、この映画は無用なエロの宝庫で埋め尽くされておるのですから。

そんな「宝の山」を「作劇上必要か否か?」で切り分けるのは野暮ってもの。必要か必要でないかではなく、エロにはそれらを超越した人知を超えたパワーが宿っているのだと、デ・パルマは自らの作品でしつこく、過剰に、ウザく、下品さ全開で神に対して問うておるのです。

意味もなくサスペンス

言うなれば神への挑戦。男を誘惑する女の性衝動は本当に不浄なものなのか否か?貞淑を求められる既婚女性の不倫願望と、性を売り物とする娼婦が抱える欲望、不安、夢を地続きとして、ひとつの円環構造として無駄にエロく、過剰にサスペンスフルに描いたデ・パルマの夢。

夢?そういえば頭とお尻だけではなく、全編通して本作『殺しのドレス』はエロティックで刺激的な淫夢のようだ。夢とは映画であり、映画とは夢であり、すべて現実な夢でもある。すでに何を言っているのかよくわかりませんが、あの美術館での白昼夢はなんだったのだろう?

精神科医エリオットのもとで「夫のセックスが幼稚園児並みなの、だから私の股間はいつも乾きっぱなし、先生、その立派な如雨露で水を注いでくださる?」と赤裸々に告白した帰り、美術館で出会った謎の男とステディを使ってステディではない関係を求める恋の駆け引き。

あらやだちょっと素敵な男性、私に気があるのかしら?ないと寄ってこないわ、あるのね?あるのよね!?あらどこに行くの?私が欲しいはずなのにどこに行くの?誘うような視線、さあついてきて、私のお尻を追いかけて、っていない、どこ?なぜ?あら?え!やだもう♡

という謎の追いかけっこを、ステディカムを使用した流れるようなカメラワークで、なぜか刹那的に、どこか幻想的に、ひたすら緊張感満点にしつこいぐらい長々しく描き出したサスペンスフルな恋の駆け引き。なぜこうも長く、しつこく、粘っこく、サスペンスフルなのか?

その理由をボクに聞かれても知りません。同様に、中盤で劇的な交代劇によって主役へと躍り出たナンシー・アレンが、謎の追跡者から、金髪グラサンゴリラから、黒人ギャングどもから執拗に追い回される緊張感満点のシークエンスも、何故ああも長尺で無意味にサスペンスなのかボクに聞かれても知りません。

だってそれがサスペンス映画というものだから。理由のある緊張感と理由のない緊張感。あるに越したことはないがなくても特に問題はない。どちらも同じ緊張感だ。あなた方はいつもそうやって緊張感を差別する!差別反対!もっと平等な目で緊張感を評価して!

何がなんでも映像マジック

粘つくエロと無意味なサスペンスの落とし子として、平等な緊張感のもとにエレベーター内で惨殺される発情した人妻。その死にざまはあまりに血の気が多くて、「何もそこまで」とばかりに鋭利なカミソリで手に、顔に、首にパックリと開いた割れ目を製造してゆきます。

これは本能のままに性的快楽を求めた主婦へと与えられた罰なのだろうか?それともそれを許さない保守的社会の魔女狩りなのだろうか?なんにせよ、デ・パルマのサディスト全開な熟女イジメは常軌を逸した血祭り映像マジックであり、変態にとっての眼福にほかなりません。

そしてここで起こる快楽を欲した主婦から、快楽を売りとする娼婦への血まみれの主役交代。ズーム、スロー、絶妙なカット割り、鏡を駆使した緊張感満点の主役交代映像マジック。とりわけ本作における鏡への映り込みは重要なモチーフであり、何が重要なのかは各自でお考え下さい(なんと投げやりな)。

「私とヤリたい?」とド直球で尋ねられたときのエリオット医師、白昼タクシー内情事でのバックミラー、ナンシー・アレンの三面鏡、バスルームなどに加え、カミソリ、窓、サングラス、眼鏡なども広義でとらえれば何かが映り込む鏡とも言えるだろう。

男が、女が、私が、あなたが常に映り込む鏡への偏執的なまでの執念というか怨念というか因縁。それは意味があるのかないのかもはや判別不能なまでに分割される画面についても言えること。単なるスプリットスクリーンだけではない、手を変え品を変えひたすら執拗に変態的な意味不明さで割って割って割りまくる分割映像マジック。

「私のおパンツ」ってとこまで現在と過去で画面を割ってみせる徹底ぶりはいかなる精神構造なのだろうか?それをボクに尋ねられても答えるすべはない。ボクはデ・パルマほど狂ってはいないから。ああ良かった。ボクはまだ彼ほど狂ってはいない。ゆえに彼に惹かれるのだ。

ボクはこれから夢を見るんだよ

ボクの正気が確固たる事実として証明されたところで、今回の『殺しのドレス』評もいよいよクライマックス。本作の物語は、欲求不満の主婦が男と女の人格によって分裂した主治医の内部葛藤の副産物として切り刻まれた事実を娼婦とオタクが解き明かすという単純なものでありました(単純か?)。

その単純な物語を単純に観客へと説明するために、粘つくエロティシズム、無意味なサスペンス、執念とも言える映像マジックを駆使し、その結果として単純な物語を破綻せしめ、意味不明な無用の集積とも思える何やら奇怪な白昼夢と化した異形の怪作。

それが本作『殺しのドレス』なのではないかと思います。ゆえに物語としての欠陥を真面目に指摘したところで意味がないのだ。だってこれは都会に生きる、現代で暮らす、現実をさまよう我々が見た、淫靡で醜悪で滑稽で残忍で永遠に終わらない夢なのだから。

個人的評価:7/10点

VOD・動画配信

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コメント

  1. おーい生茶 より:

    デパルマ監督を語るスパイクロッドさんは熱いですね。
    僕はレビューを読んで「淫夢と執念」というワードになるほどと思いました。

    まず淫夢ですが「殺しのドレス」は各人の淫夢の集合体である、という解釈にいたりました。
    各人とは、熟女・精神科医・娼婦・少年だけでなく観客まで含まれます。
    劇中人物はそれぞれ抑圧した欲望を抱えて暮らしていてついに爆発させますね。
    観客も普通のサスペンス映画には満足しません。常に刺激的な映画を求めます。

    またデパルマ監督の執念についても考えました。
    なぜ過剰にエロくてバカで暴力的なのか?
    それは同世代の映画監督へのライバル意識から来るのではないでしょうか?
    当作の公開前にはジョーズ、スターウォーズ、タクシードライバー、サスペリアといったヒット映画があります。
    (サスペリアの主演女優はファントムオブパラダイスにも出演済みですね)
    デパルマ監督もキャリーをヒットさせているもののスピルバーグとルーカスの成功には相当焦ったと思います。
    ジョーズやスターウォーズのような映画を作るには並外れた想像力が必要です。
    しかし自分にはできない。
    だから過剰エロに過剰バカという表現を選んだのではないでしょうか?
    同世代の天才監督に負けたくないという執念をヒシヒシと感じませんか?

    女優陣も同じでしょう。
    終わった女優として消えたくない、おばさんや若い女優に負けたくない。
    だから過激なエロを厭わなかったのかもしれません。

    僕はやはり殺しのドレスがデパルマ監督の最高傑作だと思います。
    スパイクロッドさんの熱く鋭いレビューのおかげで感動が深まりました!
    ありがとうございます!

    • おーい生茶さん、コメントありがとうございます!

      デ・パルマが同世代の監督、いわゆるハリウッド第9世代に対してライバル意識があったのではないか?という考察は実に鋭いですね。実は次なるデ・パルマ作品のレビューとして『キャリー』について書き出したところなんですが、その冒頭でちょうどボクもこのへんの構図について言及したところでして、なんともいえないシンクロニシティに運命の赤い糸を感じますぞ!(まあまあそんなに気持ち悪がらずに(笑))。

      デ・パルマってコッポラとは同世代、スコセッシ、スピルバーグ、ルーカスたちよりはちょっと上の兄貴分で、先輩面して何かと彼らの面倒を見てやったりもしていたんですけど、単純に興行面、批評面で考えるとあっさりと彼らに抜き去られてるんですよね。そんな同世代、そして下の世代に対する焦り、葛藤、苦悩は確かにあったと思います。でもおーい生茶さんがおっしゃられているとおり、いわゆる一般受け、そして批評家受けの観点から見ても彼らとの違いは歴然としたものがあった。芸術的にも、大衆的にも彼らを超えることはできない。ではどうするか?それは自分にしかできないことをやるまでですよね。大ヒットとは無縁だろうが、批評家からはこき下ろされようが、自分にしか撮れない映画(要するに過剰なまでの何かに対する執着)を撮り続ける。その結果としてハリウッドから干された現在のデ・パルマの姿もありますが、それと引き換えにボクたちのような濃いぃファンを獲得したのではないでしょうか。それが彼にとって良かったのかどうかは微妙ですけどね(笑)。

  2. ブッチ より:

    僕もブルーレイ発売を聞いて、たまらず予約して購入してしまいました。デパルマの年齢的には40歳くらいの作品で絶頂期の一本ですよね。確かデパルマ本人も、「熱意を込めて映画撮るなら50歳まで」とか言っていたと思いますが、この頃の作品はどこから見てもデパルマ作品です。特にこの映画はエロ、サスペンス、映像技巧、ナンシー・アレンというデパルマ印が全部盛りで、特にエロがスゴイですね。

    欲求不満のおばさんの妄想を巧みなカット割りで表現し切った美術館のシーンや、エレベーターで鏡に映った犯人と目のあったナンシー・アレンの粒子の荒いアップの瞬間など、映像はやはり、キレッキレでデパルマの画の中でも最高峰だと思います。
    この意味もなく異常なまでの映像への執着、意味不明な熱こそがデパルマの魅力なんですよね。

    • ブッチさん、コメントありがとうございます!

      まさに80年代前後がデ・パルマの絶頂期ですよね。昔から基本的にやることは変わっていないんですけど(それしか出来ないともいう)、まさに脂が乗りきっていたのがこの時代だと思います。エロ、人体破壊、覗き、劇伴、映像技巧、すべてが過剰で異常でぶっ飛んでいたと思います。まあそこが彼の叩かれるゆえんでもあるのですが。

      そうそう!2012年の『パッション』以来となる新作『Domino』の予告編が先日公開されており、ボクは歓喜に震えましたよ!ブッチさんも是非ともご覧になり、彼の新作がこの日本で拝める日を心待ちにいたしましょうぞ!

  3. おーい生茶 より:

    おお、キャリーのレビューもやる予定ですか!
    あの映画は女性客にも受ける数少ないデパルマ作品なんですよね。
    デパルマ監督と同世代監督との比較考察もされるそうで楽しみです。

    今週末はついにハロウィン公開です。
    スパイクロッドさんの最速レビューはあるのでしょうか?

    • おーい生茶さん、コメントありがとうございます!返信が遅くなってしまって申し訳ありません。

      『キャリー』もやる予定だったんですけどね、現状まったく進展してない有り様です。『ハロウィン』も観てきて面白かったですよ!レビューは……書かなきゃならんのですけどね……。